パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW)は2023年3月28日、工場の組立作業を支援するAC100V駆動の電動工具「Azeloss(アゼロス)」シリーズを発表しました。

「Azeloss」とは、「Assembly(組み立て)」の「Loss(製造損失)」を「Zero(ゼロ)」にするという思いを込めたネーミング。製造工程のトレーサビリティまで実現する最上位モデルの「Type A」をはじめとして、シンプルな「Type D」まで4シリーズ12モデルをラインナップしています。Type Dの希望小売価格は67,100円~99,000円、そのほかのシリーズはオープン価格です。

  • パナソニック エレクトリックワークス社が2023年7月から順次販売をスタートする工場向け電動工具「Azeloss」シリーズ

パナソニックは充電式の電動工具を1979年から製造販売、また、自動車・農機・建機などの輸送用機械工場向け充電式電動工具は1998年から製造販売しています。今回、情報通信機械や電気機械工場向けのAC100V式電動工具は初参入です。

  • パナソニックの電動工具の歴史

  • パナソニックの工場向け工具

今回の参入経緯について、パナソニックEWの林氏は、工場の労働環境の変化を挙げました。

「現場の作業者が新しい人になることで技術の継承も難しく、教育のコストもかかるため、社内からも『(自社で)工具をやっているのだから(作業を)サポートする提案がないか』という声がありました。調べてみるとそういうニーズが非常に高いのではないかということで、新たな市場にチャレンジすることになりました」(林氏)

  • パナソニック エレクトリックワークス社 エナジーシステム事業部 パワーツールSBU企画部 市場開発課 林徹也氏

  • パナソニック エレクトリックワークス社 エナジーシステム事業部 パワーツールSBU 松尾晃伸氏

パナソニックEWの松尾氏は「人(人材)、環境、企業、そのものに突きつけられている市場環境の変化があります」とも。

現在の製造業は深刻な人材不足。就業者の約8.6%が65歳以上、約24%が非正規雇用です。

「就業者が多様化する中で、品質や生産性を担保するための生産プロセスの標準化が求められています。誰が作っても同じものになるようにする標準化が必要になってきています」(松尾氏)

  • 人材不足が深刻化する製造業の状況

環境面では2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量を等しくすること)に向けて、企業もCO2排出量削減量の見える化などに取り組まなければならない状況です。

「カーボンニュートラルを達成しながら競争力を高めていくための、調達も含めた生産プロセスの革新が必要になっています」(松尾氏)

  • 環境面では、カーボンニュートラルに向けて企業の取り組みが必要に

また、企業にとってはエネルギー危機や半導体不足などが事業に大きな悪影響を及ぼしており、松尾氏は「サプライヤー全体を強化するとともに、製造業の経営体質自体の強化によって生産性を上げていく必要があります」と話します。

  • エネルギー危機や半導体不足などの状況から生産性向上も求められています

Azelossシリーズは使いやすさと作業アシスト機能、データ収集・分析機能を搭載

こうした中で開発したAzelossシリーズは、「誰でも扱いやすい軽さや使いやすさ」、熟練工でなくてもミスなく手順を進められる「作業アシスト機能」、生産性の向上や作業工程の見える化を実現する「データ収集・分析機能」などを備えています。

  • Azelossシリーズは誰でも使える使いやすさと作業アシスト機能、データ収集・分析機能を搭載

「作業員の高齢化が進んでいることと、女性や海外からの労働者など非常に多様化していることから、どんな人たちが使っても体に優しくて扱いやすい工具が現場で求められています」(林氏)

AC100V式の電動工具は、工場のライン上で基本的に上から吊り下げて使うことが多くなります。工具の重さが大きな影響を及ぼすことは少ないものの、Azelossシリーズは約630gの軽さと、握りやすい直径約38mmのグリップ径としました。

例えば電動ドライバーとして使う場合、工具を押し下げるだけでネジを回せるプッシュ式のほか、トリガーを握ることでもドライバー部分が回るレバー式という、2通りのどちらも選べるようになっています。水平のネジを締める横打ち作業や、ネジ締め時の反力対策用に、グリップアタッチメントも別売で用意しています。

  • 多様化が進む作業環境に向け、誰でも使いやすい重さや握りやすさを追求したというAzelossシリーズ。選べる2つのスタート方式や、軽くて握りやすい設計のほか、別売でグリップアタッチメントも用意

  • 実際に握ってみたところ

作業アシスト機能としては、仕上がり品質を向上する「ソフトスタート・ソフト着座」機能(ソフト着座機能はType Dには非搭載)、ネジ締め状態を目視で確認できる「判定ランプ」、ネジ締め回数を手元で確認できる「カウンター」機能があります。

  • ソフトスタート・ソフト着座機能などの作業アシスト機能を搭載

「動き始めたときのスピードを遅くすることで、工程に慣れていない作業員でもネジが締めやすくなります。合わせて、締め終えるときの動きも遅くすることによって、勢いで部材を割ってしまう危険性を少なくできます。

本体に設けた判定ランプは、きちんとネジ締めができたら緑、失敗したら赤に点灯すると分かりやすい表示です。また、本体にカウンターを付けたのもポイントで、3本のネジ締めなら3、4本のネジ締めなら4と事前に設定しておけば、あと何本のネジ締めが残っているかを作業者に教えてくれます。こうした数量表示には別置きのカウンター式もありますが、工具本体にカウンターがあることで見やすくなっていることが特徴です」(林氏)

ネジ締めOK/NG判定については、間違った状態でOK判定が出ないようにする「回転回数判定」や「回転時間判定」機能を装備。さらに、同じ作業工程で異なるトルクのネジ締め作業をするときに、使うべき工具だけを使える「シーケンス管理(順番制御)」も可能です(Type AとType Bは受信機、Type Cは外部機器が必要。Type Dは非対応)。

  • 正しくネジ締めが行われると、下部の判定ランプが緑色に光ります

  • 本体上部にカウンター機能を搭載。締めるネジの本数や、使うドライバーの順番などは、あらかじめプログラムしておきます

  • カウント数に達すると、青く光って作業完了を知らせてくれます

  • より正確にOK/NG判定を出す機能や、順番制御機能なども利用できます

「同じ工程でパワーの違うドライバーを使ってネジを締める場合、どの工具から使っていいのか分かりにくいのですが、『こちらから使ってください』という指示を工具側から出すことができます」(林氏)

例えば、Aのドライバーで3本、Bのドライバーで2本のネジを締める場合、最初はAのランプが光ってAだけが使えるようになります。そしてAで3本のネジを締めたのち、今度はBが光って使えるようになる仕組みです。

「間違ったドライバーを使おうとすると回転しない上に警告音が鳴り、誰でも間違えずに順番通りに締め付けができます」(林氏)

データ収集・分析機能については、林氏は「生産性を向上する上で『DX(デジタル・トランスフォーメーション)化』ということで、今まで取ってこなかった細かなデータも含めて集約して分析し、工場を効率化していく流れが高まっています」と語ります。

一方で、組み立てた製品が事故を起こすなどのトラブルが生じた場合には、「その製品が世の中に出るまでにどういう組み立てをしてたのか、ネジを締めたのか締めていないのか、そういったエビデンス(証拠)を会社に残しておこうという動きもあります」(林氏)。

Azelossシリーズでは、工程を改善していくためのデータ収集・分析に加えて、品質を見える化するためのデータ追跡が可能です。

「特徴的なのは、Azelossシリーズ本体と受信機だけでシステム化できること。作業の日時、締めたネジの本数、締め付けのOK/NG、トルク換算値(Type Aのみ)といったデータを取得することによって、工程を管理できます」(林氏)

  • AzelossシリーズのType AとType Bは、別売のワイヤレス受信機を用意することによって、無線LAN(Wi-Fi)経由で各種の作業データを記録できます

  • ワイヤレス受信機。いわゆるWi-Fiルーターのようなものです

  • パソコン上の管理ソフトウェア。工場の製造ラインで使われる電動工具について、作業の内容や結果、履歴を細かく収集して記録できます

受信機1台につき、8台のドライバー(Azelossシリーズ)を接続可能。1つのソフトウェアで10台の受信機を管理、そして1台のパソコンで最大80台のAzelossシリーズを一元管理できるとのことです。

この辺りは拡張も考えているそうですが、通常、製造ラインの全行程でこうした作業データの収集と分析が必要というわけではありません。本当に必要な工程にはデータ収集に対応したType AやType B、必要でない工程にはシンプルなType CやType Dといった導入を想定しています。

Azelossシリーズの各モデルの違いを簡単に整理すると、まず高機能なType AとType Bは無線通信機能を搭載し、別売の受信機を設置することでワイヤレスでのデータ収集・分析や順番制御などを実現できます。

Type Cは無線通信機能を持ちませんが、別途PLC(Programmable Logic Controller:工場向けの機器制御コントローラー)を接続することによって、順番制御などを行えるようになります。

Type Dは、通信機能やカウンターなどを搭載しない最もシンプルなモデル。2つのスタート方式や見やすい判定ランプなど、ドライバーとしての基本性能は上位モデルと同等です。

  • Azelossシリーズの各モデル、機能面での違い

Azelossシリーズは誰でも使いやすいサイズ感や操作性だけでなく、ミスを生じさせない仕組み、データを収集してトレーサビリティを実現する機能など、細部までこだわりが感じられる製品でした。

製造業のDXを実現する上では、IoTを活用することによってさまざまなデータの収集が重要な役割を持つようになります。Azelossシリーズを導入することで、生産設備だけでなくライン上の工程まで細かく見える化が可能になり、作業員の働き方改革にもつながっていくのではないでしょうか。