障がい者の雇用創出は日本における重要課題のひとつだ。彼らが効率よくビジネスができ、なおかつ自立していける事業をいかに作っていくか— — 行政だけでなく、地域あるいは地域に根差している企業が、社会貢献以上の経済効果をもたらす意味でも積極的に取り組んでいく必要がある。そんな中、NTT西日本九州支店では障がい者による「メダカ」の養殖に注目。実証事業として取り組むほか、ライブコマースでの実売も実現している。どのような取り組みか紹介しよう。

障がい者がやりがいを感じるビジネスを創出

NTT西日本九州支店は、障がい者雇用のため、メダカのスマート養殖の実証事業を開始。3月18日にはその成果をライブコマースという形で消費者に提供する試みがなされた。これには福岡県糸島市も参画、障がい者の「自立」「能力(アート性、感性)」「やりがい」を重視した事業モデルの確立を目指して実施されたものになる。

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    「NTT西日本 前原電話交換所」(福岡県糸島市)

ライブコマースの舞台となったのは「NTT西日本 前原電話交換所」。同局内に設置された養殖場および関連施設にてメダカの繁殖・飼育がなされ、開始時には30品種60匹だったメダカは、いまや1,500匹にまで拡大している。養殖環境の安定や各工程をデジタルマニュアル化することで、安定した生産力をキープすることに成功。それだけでなく、養殖業務の工程に遠隔指導を取り入れるなど、ICTも積極的に活用したNTT西日本らしい取り組みにもなっている。

障がい者は施設外就労という形で5名の雇用を実施。各人の才能や障がいの程度に応じた就業プランを策定するなど、働くことにやりがいを感じられるようなマネジメントが適用されたという。

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    大半のメダカは屋外に設置された水桶で飼育される。日本の四季そのままの環境でメダカたちはたくましく育っていく

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    同局内に設置された養殖場。外の水桶にいる個体の中からペアを選び、ここで繁殖が行われる

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    障がい者は、エサやり、メダカの健康状態・水温・水質のチェック、採卵とクリーニング、水替え、採取した稚魚の選別や写真撮影といった業務のほか、企画や販売の一部も任されている

臨場感たっぷりのメダカのライブコマース

実際の販売方法については様々な販売チャネルが検討されているが、今回実現に至ったのはライブコマースという方法だ。いわゆる、インターネット経由での実演販売に近い形で消費者に映像と情報を届け、そのままオンライン上でメダカや関連グッズが購入できるという仕組みになる。当日はNTT職員と障がい者らも登場し、和やかな雰囲気の中、ライブコマースが開始された。

メダカは飼いやすい上に、美しい色を持つ様々な個体が存在し、マニアも多く、飼育魚として人気が高い。今回のライブコマースでは特に高額な個体は出品していないが、一般市場では数十万円クラスの取引は当たり前で、中にはペアで100万円の値がつく種類のメダカもいる。

障がい者たちが飼育するメダカの品質が高まれば、収益率も同じように上がっていくことが予想できる将来性のあるビジネスといえる。今回は買い求めやすさと人気のバランスを勘案し、11種類のメダカを選出。それらをビデオカメラで撮影しながら魅力を説明し、視聴者が気に入ればその場で購入するという流れになる。

実演が始まるとライブコマースには次々とアクセス者が訪れる。チャット機能を使い、感想や質問のコメントが飛び交い、障がい者とNTT西職員らがそれに答えていく。その様子はライブ感があり、ライブコマースならではの視聴者参加型のイベントとしても成立していた。最終的に最大アクセス数は約180名となり、実際にメダカや関連グッズが次々と売れていった。

ライブコマースは約1時間で終了。視聴者からは次回開催を望む声や、ライブコマース終了後に購入する方法について質問が飛び交うなど、視聴者の反応はかなり良好だった。実証事業のスタートとしては大成功といえる今回のライブコマース。今後は様々な販売チャネルの検討もされるなど、社会実装へ向けた取り組みはますます盛んになっていくことが予定されている。これからも同プロジェクトの動向には注目していきたいと思う。最後に、ライブコマース後の記者会見の模様をダイジェストでお伝えしておこう。

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    背景はライブコマースのメインエリア。冒頭では養殖場も紹介された

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    11種類のメダカがスタンバイ。ライブコマースが始まると、個々を撮影しながら個体の説明が行われる

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    こんなきれいなメダカたちがライブコマースで購入できる。視聴者が熱心になるのもうなずける

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    視聴者はこのような形でメダカを見ることができる

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    配信中にもどんどん売れていくメダカたち。人気が集中した個体の中には売り切れが出たものもあった

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    ライブコマースを実現させた(左から)NTT西日本 福岡ビジネス営業部 ビジネス推進部門 ビジネス推進担当(地域活性化) 石橋祥太氏、担当課長 辻 友美氏、スタッフの方々

ライブコマースを終えて

——ライブコマースを終えた感想をお聞かせください。

石橋 私自身、ライブ配信が初めてでしたし、お客様の顔が見えないという状況が難しかったですが、とても楽しかったです。ライブコマースによるメダカの販売はアフターコロナの時代に合った売り方だと考えています。これからも挑戦を続けたいと思いました。

——メダカのペアやミックスセットなど、たくさん売れましたが、感想を聞かせてください。

スタッフ メダカは育て甲斐があるし、とてもかわいらしいので楽しみながら育てています。今回それが初めて売れたのでとてもうれしかったです!

スタッフ 私は稚魚の育成を担当しています。成長を見るのがとても楽しく、大切に育てました。最初は売れるか心配でしたが、みなさんにご購入いただいてとても良かったと思います。

——そもそもこのプロジェクトを考えたのはどのような経緯からですか?

社会課題が複雑化する中で、私たちがどのように貢献できるのか、常に模索しています。福岡県糸島市においては雇用の喪失が大きな課題であることがフィールドワークの結果によって分かってきました。

私たちが得意なICT活用によって、地域のみなさまと連携し、何かお手伝いができないかと考えていった結果、今回のプロジェクトが生まれました。

——ライブコマースの題材にメダカを選んだきっかけは?

ここ糸島市は自然が豊かで水がとてもきれいでメダカの育成にはあっていると考えました。また、生き物に触れると私たちはもちろん、障がい者の方々も精神的にリフレッシュできることが分かってきたので、働く環境としても良いと思いました。

始めた当時はメダカを知っているスタッフがほとんどいなくて大変でしたが、今ではみんながメダカ博士になれるのではないかと思うぐらい、ノウハウが積み重なっています。

——逆に生き物を扱う難しさはありましたか?

石橋 もちろん、最初は失敗もありました。しかし、その失敗を糧として、二度と同じことが起こらないようにマニュアルを策定し、誰が担当しても良いようなチェックリストも作っていきました。

最初はメダカの体調がよくわからず、病気になったり、弱ったりする個体が出てしまうこともありましが、今では少しでも変わったことがあれば、すぐに私に連絡が入るようになっています。養殖技術としてもこの半年でずいぶん良くなったと考えます。

——今後の取り組みについて教えてください。

このプロジェクトはまだ続けたいと考えています。今回はライブコマースによる販売トライアルでしたが、今後はサブスクという形でメダカを水槽ごと、オフィスや病院に貸出、メンテナンスもこちらで行うサービスを展開する予定です。これからさらにこのプロジェクトを発展させていきたいと思っています。

——素晴らしいですね。障がい者の方々を含め、プロジェクトのチームワークはいかがですか?

石橋 もちろん私自身はかなり良くなっていると感じていますが、みなさんはどう思いますか(笑)?

チーム一同 大丈夫、バッチリ良くなっていると思います(笑)!

とても楽しいライブコマースでした。ありがとうございました。