山川出版社は3月、いままでにない地域史の新シリーズの第一弾『日本史のなかの埼玉県』(1,980円)を刊行した。
同書は、歴史教育に携わる人だけでなく、より広い読者層に向けて、地域史の魅力を発信したいという思いから企画・編集された。埼玉県の歴史・文化・特徴を、文化財・史跡を中心に紹介し、一方で、各地域における中央や世界とのつながり(交流)を重視した項目を多く掲載している。
稲荷山古墳出土の鉄剣に刻まれた銘文からわかるヤマト王権の結びつき、室町幕府を巻き込み、全国に先駆けて戦国時代が始まった舞台地首都江戸を支えた物流、交通の要衝としての埼玉県の江戸時代、世界で注目されている「BONSAI(盆栽)」の発信地・大宮盆栽村など、日本史や世界史の大きな流れともつながっていることをあらためて確認できるような内容となっている。
深谷市では、律令時代に郡家の行政実務を行った大型建物の跡も発見された。律令時代の武蔵国には「高麗(こま)郡」と「新羅(しらぎ)郡」という朝鮮半島の国名に由来する郡があったという。『続日本紀(しょくにほんぎ)』には、これらは日本列島に亡命した高麗人や、同じく渡来した新羅僧を移住させて生まれたという記述もある。
掲載している文化財・史跡は、地域史の要素を深める目的で国指定・未指定にかかわらず選定している。県指定、市指定、町指定、村指定の文化財は、地域の人々にとって、より身近な存在として知られているものであるため、同書では積極的に取りあげている。
その中のひとつで県指定文化財である「川越城(河越城)跡」は、太田道真・道灌親子が築城した扇谷上杉氏の拠点となった城郭。城跡の大部分は市街地となっているが、本丸御殿は川越藩当時の現存する御殿建築として全国的に貴重であるとともに、明治初期には入間県庁舎として二次利用された。
古代から現代までの埼玉県の通史、史跡や文化財、県内のおもな祭礼や行事、埼玉県の年表や成立過程などが紹介されており、埼玉のあらたな魅力や誇りが感じられる一冊となっている。