軽自動車が初心者向けの安いクルマだったのは過去の話で、現在は自動車全体の新車販売で約4割を占めるほどのシェアに成長した。その中でも、近年は車高がありスライドドアを備えた「軽スーパーハイトワゴン」の人気が圧倒的に高い状況だ。

しかし、売れ筋ジャンルに関しては、長年に渡って過激なシェア争いを繰り広げてきたダイハツとスズキを尻目に、ホンダの「N-BOX」が首位を独走する状況が続いている。そこに日産も「ルークス」で参戦し、さらに軽スーパーハイトワゴン戦国時代は加熱しそうな勢いだ。今回は全軽自協(一般社団法人 全国軽自動車協会連合会)が発表した2023年2月の新車販売における人気車種トップ15を紹介する。

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    2023年2月の軽自動車人気車ブランドをチェック

2023年2月軽自動車人気車種ランキング

順位 ブランド通称名 ブランド名 販売台数
1 ホンダ N-BOX 19,652
2 ダイハツ タント 12,743
3 ダイハツ ムーヴ 10,041
4 スズキ スペーシア 9,790
5 日産 ルークス 9,140
6 スズキ ワゴンR 7,299
7 スズキ アルト 6,475
8 ダイハツ タフト 6,065
9 スズキ ハスラー 5,611
10 ダイハツ ミラ 5,153
11 ホンダ N-WGN 4,196
12 日産 サクラ 4,109
13 スズキ ジムニー 3,118
14 三菱 eK 2,318
15 日産 デイズ 2,181

※通称名についてはメーカーごとに同一車名のものを合算して集計(アルト、ワゴンR、ミラ、ムーヴ、eK、ピクシスなど)
※eKにeKクロス EVは合算せず

1位:ホンダ「N-BOX」

2011年12月に登場し、2017年のフルモデルチェンジでも失速することなく、国内軽自動車の新車販売台数トップに君臨するのがホンダの「N-BOX」。軽自動車では8年連続の首位を獲得し、自動車全体でも2022年は登録車でトップのトヨタ「ヤリス」を抑え、日本で一番売れたクルマだ。

ホンダは「N-BOX」にも採用した「センタータンクレイアウト」などの画期的なアイデアや、モータースポーツで華々しい実績でブランド力を高めてきたが、それだけでは「N-BOX」はここまで売れ続けなかっただろう。スポーツカーや高級車からファミリー向けのミニバンまであらゆるクルマ作りの経験を活かし、軽自動車でも手を抜かないクオリティの高さがユーザーから評価されているはずだ。もちろん、近年の自動車に必須の安全運転支援装備も抜かりなく、多彩な機能の「Honda SENSING」を備えている。

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2位:ダイハツ「タント」

今やホンダ「N-BOX」にお株を奪われた格好だが、実は軽スーパーハイトワゴンの元祖といえるモデルがダイハツの「タント」。王座を奪還すべく、センターピラーを廃した巨大な開口部を持つ「ミラクルオープンドア」や、運転席のロングスライド機能といった独自のカラクリを筆頭に、トヨタ「TNGA」のダイハツ版「DNGA」、予防安全機能「スマートアシスト」など、ダイハツの技術の粋が注ぎ込まれている。

ベーシックモデルの無印「タント」はジェンダーレスなデザインだが、さまざまなユーザーを取り込むため、インパクトのある巨大なグリルやアルミホイール、メッキパーツなどの上級装備を備えた「カスタム」も用意している。そのほか、自慢のミラクルオープンドアやシートアレンジを有効活用できる福祉車両のほか、2022年には流行りのSUVテイストを取り入れた「ファンクロス」も追加された。

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  • ダイハツ「タント」

    ダイハツ「タント」

3位:ダイハツ「ムーヴ」

「ムーヴ」は1995年からの長い歴史を持つ軽トールワゴンで、ダイハツが強い思い入れを持っているモデルだ。自社に「タント」という主力モデルがあるものの、いささか過熱気味の軽スーパーハイトワゴン勢とは距離をおき、誰にでも扱いやすい4人乗りの軽乗用車として、市街地から高速走行の安定性や乗り降りのしやすさ、価格などのトータルバランスを重視している。上級グレードに「ムーヴ カスタム」があるが、これはダイハツの技術者たちが徹底的にこだわり抜いた特別仕様車だ。

また、スタンダードの「ムーブ」と外観は大きく異なるが、2022年のモデルチェンジでレトロなデザインに磨きをかけ、待望のターボを追加した派生モデル「ムーヴ キャンバス」の存在は大きい。軽スーパーハイトワゴン3強の一角であるスズキ「スペーシア」を抜き、ダイハツの伝統ブランドを3位に引き上げた立役者といえるだろう。

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4位:スズキ「スペーシア」

ダイハツと双璧をなす軽自動車メーカーとして、何年も熾烈な競争を繰り広げてきたスズキの軽スーパーハイトワゴンが「スペーシア」。“ザ・かぞくの乗りもの"というテーマが示すように、小さな子供を持つ若いファミリー層を意識した設計だ。室内の広さや使いやすさはもちろん、スズキ独自のマイルドハイブリッドにより、パワーと省燃費性能も両立している。

バリエーションは、スーツケースをモチーフにしたベーシックモデルのほかにも、ゴージャスなフロントマスクを持つ「スペーシア カスタム」や、同社の「ジムニー」や「ハスラー」と軽SUVシリーズを構成する「スペーシア ギア」を揃えていたが、2022年8月には4ナンバーの軽商用車「スペーシア ベース」も追加された。

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5位:日産「ルークス」

軽スーパーハイトワゴンの激戦区に名乗りをあげた「ルークス」も今年で3年目。“走り"の日産車らしく、高速道路でも力強くスムースな走行性能が自慢だが、ロングセラーミニバン「セレナ」譲りの「ハンズフリーオートスライドドア」や「インテリジェント アラウンドビューモニター」といった使い勝手のよい機能も備えている。

また、自慢の「プロパイロット」や「インテリジェント FCW(前方衝突予測警報)」をはじめとした先進の安全運転支援機能を持ち、軽で唯一のJNCAP最高評価「ファイブスター賞」も獲得。2023年初夏には、新型「セレナ」のような進化版の「Vモーショングリル」を採用するなど、内外装の高級感をアップさせたマイナーチェンジを予定している。

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自動車全体でも圧勝の「N-BOX」。今年はライバル勢のSUV版にも注目

2023年2月もホンダ「N-BOX」が2万台近くを売り、2位を大きく引き離して首位を独走する結果になった。これは登録車でワン・ツーを決めているトヨタ「ヤリス」と「カローラ」をそれぞれ約1万5千台を上回るもので、2022年度も自動車全体でトップに立っている。「ヤリス」や「カローラ」が名前は同じものの、ボディの異なる派生モデルで台数を稼いでいるのに対し、「N-BOX」は1つのボディで、価格もコンパクトカーと同等なことを考えると、もはや一騎当千の絶対王者だ。

そんな「N-BOX」をダイハツ、スズキ、日産が追うという“軽スーパーハイトワゴン戦国時代"はまだまだ続くと思われるが、今年は「SUV版」がキーワードになりそうだ。アウトドア人気が高まりつつあった時期に、ちょうどコロナ禍の“密を防ぐレジャー"として、キャンプや車中泊が話題になったことも影響しているだろう。

スズキはラダーフレームを持つ本格的な「ジムニー」とは別に、「ワゴンR」ベースのSUV「ハスラー」がヒットしたため、一早く「スペーシア」には「スペーシアギア」を加え、昨年には「スペーシア ベース」も追加している。ダイハツも対抗する形で36年ぶりに「タフト」を復活させ、「タント」には「ファンクロス」を加えてきた。ホンダの「N-BOXクロス」は噂の域を出ないが、昨年からメディアを賑わせているのが、5月に発売される三菱の軽スーパーハイトワゴン「デリカミニ」だ。

「デリカミニ」のベースは、日産との合弁会社NMKVで開発した「eKクロススペース」で、日産「ルークス」と車体の多くを共有している。日産は自社の上級グレード名称「ハイウェイスター」でオンロードの高性能イメージを打ち出しているのに対し、三菱はラリーなどのオフロードで大活躍した歴史がある。そこで、少し分かりにくかった「eK」を廃して「デリカ」という伝統的な名称で再スタートする形だ。「アウトランダー」や「デリカD:5」とは異なり、“目ヂカラ"のあるフロントマスクも好評で、3月5日の時点で事前受注が約7000台に達している。どれだけ上位に食い込んでくるか注目したい。