第71期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、二次予選決勝の谷川浩司十七世名人―久保利明九段戦が3月24日(金)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、112手で勝利した久保九段が挑戦者決定トーナメント進出を決めました。
成り行きの相穴熊戦
両者30回目の顔合わせに当たる本局は、後手の久保九段が角交換四間飛車に組んで幕を開けました。先手の谷川十七世名人が自陣角を放って後手の飛車をけん制したのを受けて久保九段も「角には角」のセオリー通りに角を打って対抗。その後の駆け引きの結果、局面は角道を止めた向かい飛車対居飛車持久戦の対抗形に合流しました。
局面が落ち着いたのを見た谷川十七世名人は自玉を銀冠穴熊の堅陣に組み上げます。これに呼応するように久保九段も同様の囲いに組み上げ、盤上は相穴熊のジリジリとした中盤戦に突入します。さらなる間合いの計り合いが続いたのち、後手の久保九段が1筋の端歩を突っかけてようやく戦いが始まりました。
久保九段の鋭い馬切り
久保九段の香交換の目論見を見抜いた先手の谷川九段は、4筋の歩を突き捨てて角交換を迫ります。すぐさま後手陣に角を打ち込んだのが継続の狙いで、後手に香を取り返す暇を与えないまま戦いを盤面全体に拡大する考えです。対して久保九段も先手陣に馬を作って対抗。形勢は互角で、両者が敵陣に作った馬がどれだけ働くかがポイントになっています。
谷川十七世名人が歩を打って後手の馬の態度を打診したとき、久保九段は意表の攻め手を用意していました。3分の考慮でこの馬を切り捨てて銀と交換したのがそれで、直後に銀の打ち込みで先手の飛車を捕獲できるのを見越しています。敵陣を乱しながら切れない攻めを実現できたのが大きく、ここで後手の久保九段がペースをつかみました。
馬の働きが勝敗分ける
優位に立った久保九段は、手にした香を9筋に打って端からの直接攻撃による穴熊攻略を目指します。反撃を目指す谷川十七世名人が垂れ歩を打って飛車の捕獲を用意したとき、久保九段の放った3筋への飛車回りが受けの決め手になりました。この飛車は、あえて先手の馬に取らせることによってこの馬をそっぽに行かせる寸法で、こうなってみると本局における両者の馬の働きの差がはっきりした格好です。
終局時刻は19時11分、攻防ともに見込みなしと見た谷川十七世名人が投了を告げて久保九段の勝利が決定。勝った久保九段は2年ぶりとなる挑戦者決定トーナメント進出を決めました。
水留啓(将棋情報局)