マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。


3月10日の米シリコンバレー銀行(SVB)の破たんに端を発し、金融市場に動揺が広がっています。そうしたなかで、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が政策金利の引き下げ、いわゆる利下げを実施するのではないかとの観測が強まっています。

FRBは昨年3月以降、インフレの高騰に対応するため、金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)の定例会合で毎回利上げを行ってきました。金融市場では昨年10月ごろから、そろそろ利上げの最終段階に入りつつあるのではないかとの観測も浮上しましたが、インフレが目標の2%を大幅に上回る状況下で、FRBは金融市場が先走るたびにそれをけん制してきました。

FOMCは0.25%の利上げを決定したものの……

3月21-22日には、SVBの破たん後初めてのFOMCが開催されました。そこでは前回1月31日-2月1日の会合同様に0.25%の利上げが全会一致で決定されました。ただ、声明文は従来よりもかなり慎重な内容に変化していました。

声明文の冒頭の景気判断では、雇用の勢いが増していることが加えられ、前回の「インフレは幾分和らいだ」との記述は削除されました。一方で、先行きのリスク要因として、これまでは「ロシアによるウクライナ戦争」が指摘されていましたが、今回は信用不安に置き換わりました。「銀行システムは健全で強靭だ」と宣言しつつも、「最近の情勢は家計や企業にとって金融状況の引き締まりとなって、経済活動、雇用、インフレの重石となる可能性が高い」と警戒感が示されました。

フォワードガイダンスも修正

FOMCの声明文には、先行きの政策に関する見解を示すフォワードガイダンスがあります。前回までは「継続中の利上げ(複数形)が適切になると予想する」でした。しかし、今回は「FOMCは新たな情報を緊密に監視して金融政策への影響を分析する」が付け加えられ、「いくらかの追加的な引き締めが必要になるかもしれないと予想する」と変わりました。FOMCが先行きの判断に迷っていることが垣間見えました。

パウエル議長の記者会見はタカ派的!?

FOMC直後のパウエル議長の記者会見は、インフレ抑制に向けた強い姿勢を示す、いわゆる「タカ派」的な内容でした。「必要があるならば、想定以上に利上げする」と述べ、「FOMCは23年中の利下げを予想していない」と明言しました。パウエル議長は、「金融システムの安定を維持するため、あらゆる手段を活用する」とする一方で、「金融政策でどう対応するかを判断するのは時期尚早」と述べました。また、「FOMCでは利上げ休止も検討されたが、利上げへの支持が強かった」とも説明しました。

もっとも、金融市場が注目したのは「利上げ休止も検討された」部分でした。金融市場の金融政策予想を反映するOIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、23日時点で「次回5月のFOMCで据え置きと0.25%利上げの確率はほぼ五分五分。そして、今年前半中に利上げの打ち止め、早ければ7月に利下げへと転換し、年内に2-3度の利下げがある」というのがメインシナリオ(確率50%超)になっています。上述したように、記者会見で、パウエル議長は記者会見で「利下げは想定していない」と明言したものの、金融市場は聞く耳を持たなかったようです。

FRBと金融市場のどちらが正しいか 過去にも、FRBからのメッセージと金融市場の観測が大きく食い違う場面はありました。例えば、21年夏場には、FRBは「インフレの高騰は一時的」との公式見解を繰り返しましたが、やがてそれが誤りだったことが明らかになりました。逆に、今年1月には利下げ観測がいったん浮上しましたが、その後の景気や物価のデータが強かったことで、金融市場は予想の修正を余儀なくされました。

果たして、今回はFRBが正しいのか、それとも金融市場が正しいのか。いずれ結論が出るのではないでしょうか。