人生100年時代の訪れとともに、職業人生が長期化するなかで"キャリアの専門性"の構築に注目が集まっています。

端的には「長い職業人生を通じて何者になれるか」です。そうして考えてみると「職場の上司は、あなたが何者になるか」をガイドする重要な存在になります。

そうなんです。キャリアの専門性を構築するには、仕事へやる気を持って取り組める職場環境も重要ですが、それ以上になんでも相談できて信頼できる上司の存在が欠かせないのです。

とはいえ、なかなかそんな理想的な上司に出会うことも、本当に信頼できる人なのかを見抜くことも難しいものです。

例えば、信頼していた上司が「自分のミスを押し付けてきた」「愚痴をこぼしたら、すべて上に報告されていた」「何回も相談しているのに返答を貰えない」のように、裏切られた経験を聞きます。

そこで、長年企業の職場風土の改善に携わってきた『社員がやる気をなくす瞬間』(アスコム)の著者である中村英泰さんに、これからの"キャリアの専門性"の構築に欠かせない信頼できる上司の見分け方について聞いてみました。

信頼できる上司は、組織の本質をよくわかっている

企業の職場風土を改善するために、一万人以上の働く人たちの話を聞いてきたなかで、信頼できると思われている上司には、ある1つの特徴があることに気がつきました。それは端的にいえば"部下と真剣に向き合っている上司"です。

組織が「1人では成し遂げられないような大きなことを、強みや弱みを相互補完しながら協働することで、成果のみならず互いのキャリア成長をも最大化するためのシステム」であることを感覚的によく理解しており、部下のキャリア成長が、組織のために、そして何より自分のためにもなると真剣に考えています。

試しに「あなたは部下の、キャリア形成にどのように関わってきましたか?」の質問をしてみると、その返答から真剣度合いがわかります。

奉仕の精神だとか、面倒見のいい性格とか、得意や不得意に関係なく、信頼できる上司は部下の成長を考え相談や悩みごとに対して、何が部下のためになるのかを考え向き合っているのです。

YES・NO型上司と5W1H型上司 

そのように信頼できる上司を見極めるには、3つのポイントがあります。

まず1つめのポイントですが、重要な相談をしたときに、その相談に対していい、悪い、のYES、NOでしか答えない人は要注意です。頭ごなしに否定する人は論外です。

相談後にひとこと「わかった、あとは私に任せて」といって去っていく上司はなんとも背中が広くて頼れる感じがしますが、単に聞いただけで全容を理解できるはずはありません。望んでいたこととはずれた形で解決が図られたり、そのまま忘れ去られたりするケースは、よく聞きます。

実際に、セクハラについて上司に訴えたところ、「わかった、俺に任せてほしい」と預かったまま放置され、後にその上司が会議で「うちにはセクハラなんてないよね」と平然と言っていたなんてことはたくさんあります。 

逆に、相談内容は何か(What)、いつ、どこで、誰に対してそう思ったのか(When、Where、Who)なぜ、そう思ったのか(Why)どうしてほしいのか(How)と5W1Hでしっかりと聞いてくれて、こちらの話の意図までしっかりと理解しようとしてくれる人は、信頼できる上司といえるでしょう。

冷静に考えてみると、部下の相談や意見に対して改善や解消を図ろうと思うなら、まずその真意を確認する必要がありますよね。

作業ばかり頼む上司と業務を頼む上司

信頼できる上司と信頼できない上司の差は仕事の頼み方にも出ます。仕事には、大きくわけて「業務」と「作業」の2種類があります。「業務」とは、なんのために、どういった目的でなぜあなたに頼むのかといった、意図が明確な仕事のことです。一方「作業」は、タスクをこなすための仕事です。

同じ仕事を頼むのでも、部下が「業務」として取り組めるのか、ただ「作業」として取り組むのかで、部下のその後のキャリア形成は大きく変わります。

例えば「企画書のデータをまとめる」という仕事があったとします。それを「企画書のデータをまとめといて」という依頼だと「作業」になります。

また「この企画、説得力もたせるためにも、ここにまとまったデータが必要なんだよね。こういった資料、今後任せたいと思っているから、そのときのためにも〇〇さんにお願いしたいんだよね」と依頼すると「業務」へと変わっていきます。

上司が自身からあふれた仕事を「作業」としてばかり頼んでいるような感じであれば、要注意。まったくあなたのことを考えずに、ただ単純に自分の仕事のために体のいい作業員として利用しようという意識が強く、あなた自身の“キャリアの専門性”が構築できなくなる危険性があります。

ぜひ、これを機会に、上司からのこれまでの仕事の任されかたを見つめ直してみてはいかがでしょうか。

信頼できる上司がわかるキラークエスチョン

もう1つ信頼できるかどうかを見抜くためのキラークエスチョンが「5年後に私はどうなっていると思いますか?」というものです。このときに、真剣に向き合って「あなたの5年後に対する納得のいく答え」を一緒に導こうとしてくれるなら信頼できる上司です。

逆に「そんなのお前次第だろ」などとけむに巻くような回答をする人や、一般論や制度説明に終始する上司は、信頼ができるとはいえないかもしれません。 

もちろん未来のことは約束されることではなく、その人次第であることは間違いないのですが、組織として、上司としてしっかりと向き合おうとする姿勢があるかどうかが、この質問による対応から見て取れます。

また信頼は、上司と部下の相互関係によって生まれるものですから、上司がどういう人で何を考えているのかを知ろうとするなど、部下側も上司と向き合う姿勢が大切になります。あいさつをはじめ、日々のコミュニケーションを積極的にとり自らの"キャリアの専門性"の構築に向けた理解者になってもらえるようにしましょう。

著者プロフィール:中村英泰(なかむら・ひでやす)

株式会社職場風土づくり 代表 ライフシフト大学 特任講師
人材サービス会社に勤務したのち、社員のやる気が高まる職場風土をつくるために法人設立。年間100の研修や講演、さらには組織開発に取り組んでいる。著書に『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』(アスコム)など。