渡辺明棋王に藤井聡太竜王が挑戦する第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負(共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟主催)は、第4局が3月19日(日)に栃木県日光市の「日光きぬ川スパホテル三日月」で行われました。対局の結果、132手で勝利した藤井竜王がスコアを3勝1敗として自身初となる棋王奪取に成功しました。
角換わり腰掛け銀シリーズ
1勝2敗のカド番で本局に臨んだ渡辺棋王は、自身の棋王11連覇への望みを角換わり腰掛け銀の戦型に託します。これで本シリーズは4局すべてが同一の戦型で戦われることになりました。対して後手の藤井竜王は同型を避けつつ先手の単騎の桂跳ねを誘う定跡を採用。早い段階ですべての実戦例を離れた本局ですが、どちらも早いペースで指し手を進めます。
盤面中央での競り合いが続いたのち、互いに攻防の自陣角を打って局面は一段落を迎えました。形勢は互角ですが、後手番ながら攻めの権利を得た藤井竜王がペースをつかんでいます。後手陣に桂を打ちこんで自陣角の活用を急いだ渡辺棋王に対し、じっと6筋に歩を合わせたのが藤井竜王の対応。先手の角筋を止めて銀の厚みで盤面全体を支配する構想です。
渡辺棋王の勝負手
平凡な対応では押さえ込まれると判断した先手の渡辺棋王は、6筋でぶつかった歩を角で取る勝負手を繰り出しました。この角はすぐに銀と交換になりますが、手順に跳ね出した左桂で後手玉の急所であるコビンを攻める狙いが生じます。角銀交換の駒得に満足した後手の藤井竜王がしばらく受けに回る方針を採って、戦いは徐々に終盤戦へと近づきます。
戦いの中で角を取り返した渡辺棋王は、7筋に馬を作って攻防の拠点としています。その代償として藤井竜王も自玉を安全な3筋に逃すことに成功。手番を得た藤井竜王は自陣に打った桂を四段目に跳ね出して反撃を開始しました。これに対し渡辺棋王が飛車取りに桂を打ったのは駒損回復に期待した自然な利かしに見えましたが、結果的に危険な一手でした。
決め手の桂打ちで藤井竜王が勝利
この一瞬、盤上には藤井竜王からの有力な攻め筋が生じています。跳ねた自陣桂を再度活用する「天使の跳躍」がその第一歩で、飛車を取らせている間に先手玉に必死をかけることができます。3分の持ち時間を残す藤井竜王ですが、飛車を見捨てての攻めはリスキーと見て実戦ではじっくり攻めを立て直す方針を採りました。
水面下のピンチをしのいだ渡辺棋王ですが、難しい選択を迫られる局面が続きます。後手からの桂跳ねの攻めに対し、いったん銀を取ってから受けに回ったのが失着となりました。ここで桂を渡したことによって直後に後手から厳しい反撃が生じることになります。駒損の時間帯が続いた渡辺棋王としては、迫りくる秒読みと局面の悲観によって決着を急がされた格好です。
手番を握った後手の藤井竜王は、手にした桂をすぐさま歩頭に放つ犠打を放ちます。これによってできた空間に銀を打ったのが決め手となり、渡辺棋王の玉は一気に受けなしに追い込まれました。終局時刻は19時24分、決め手の金捨てを見た渡辺棋王が投了を告げて藤井竜王の勝ちが決まりました。勝った藤井竜王は3勝1敗で棋王奪取に成功。合わせて20歳8か月と史上最年少での六冠制覇を達成しました。
水留 啓(将棋情報局)