欧州こそロードバイクの本場である、そんなエンスージアストから根強い人気がある「Time」(タイム)が5年振りにヒルクライム用バイクの『Alpe d' Huez』(アルプデュエズ)をモデルチェンジした。
新作は従来の2グレードを一本化、ブレーキもディスクブレーキのみとなった。日本に入荷した1本目を早速試乗してみた。
■Time自慢の素材ダイニーマ
車名のAlpe d' Huez(アルプデュエズ)はツール・ド・フランスの名勝負が繰り広げられてきた場所だ。ロードレース好きで知らぬ人はいないだろうし、ヒルクライム用バイクとして、これ以上ないネーミングと言える。ヒルクライム用バイクなら、さぞや軽くて…と想像しがちだが、そうではない。
新型Alpe d' Huezのトピックは、従来から使用してきた「ベクトラン」に加えて、オランダの化学会社DSM社が開発した超高分子量ポリエチレン繊維“ダイニーマ”を採用したことだ。
この防弾チョッキにも使われる素材は、鉄の15倍の引張強度があり、水に浮くほど軽く、柔軟性も高い。アラミド繊維など破断強度に優れる繊維は、ハイブリッド材として古くからカーボンフレームに使われてきた。
ダイニーマはアラミド繊維の1.4倍ほどの強度を誇る反面、耐熱性が低い。そのため、現在はTimeの採用するRTM(レジン・トランスファー・モールディング)工法でしか用いることができない。
昨年発売された『ADHX』(エーディエッチエックス)もダイニーマが採用されており、現在、RTM工法とともにTime自慢の素材であることに違いはないだろう。
実際に走らせてみると、なるほど、5年の進化とはこういうものかと感じる。走行感の軽さを求める基本コンセプトに変わりはない。だが、旧型のフラフラとしたハンドリングは改善され、路面のコンディションに神経質にならなくてもよくなった。
Time自慢の「アクティブフォーク」は搭載されないが、ワイドタイヤによって接地面積が増えたので下りの安心感は増し、ブレーキもコントロールしやすい。それでいて転がり抵抗も小さいから、ヒルクライムのような加減速の少ない走行パターンでは実に快適だ。
試乗車のタイヤは28Cの「ハッチンソン・フュージョン5」、ホイールは「ビジョン・メトロン45SL」。この組み合わせはフレームとのマッチングがいい。タイヤ幅を1サイズダウンして25Cにすれば、さらにスピードの加減速がレスポンスよくなるはずだ。
アメリカ系の完成車メーカーは部品までパッケージで設計しているが、欧州系、特に高級ブランドは規模が小さいため独自スペックのパーツはなく、組む人のセンスで性能はいくらでも変わってしまう。それ故、どんなパーツで組まれているかは重要である。
ワイドタイヤに対応するのはトレンドだが、ハンドリングの仕上がりは千差万別。直進安定性の確保に気を取られて、軽快なハンドリングを失ってしまっているモデルも少なくない。
エンデュランスバイクなら話は別だが、レーシングバイクでハンドリングがダルいのは致命傷である。
自分の走るコースやエリアを考え、必要以上にタイヤ幅を太くしないのもスポーティに走らせる上で忘れてはならないポイントだ。
Alpe d' Huez01&21のオーナーにしてみれば、大して変わり映えしないモデルチェンジに見えるだろう。ケーブル関係がフル内装になってスマートなスタイリングになったとか、シートポストのクランプが改良されたのが目に着く程度だろう。
■見た目以上に違うフレーム
しかし、だ。チェーンステーが6㎜長くなっているのを見逃してはいけない。410㎜という寸法自体は珍しくもないが、Timeはずっと短いチェーンステーにこだわってきた。
それはアジリティ(敏捷性)を重視してきたからで、ジオメトリーを変更してもネガティブな印象を与えてないように、細心の注意が払われている。
要するに、寸法が違うのに乗った感じに違和感がないということは、チェーンステーは別モノである。ケーブル内装にともなってメインフレームの各チューブも異なるので、見た目以上に違うフレームなのだ。
そういうことを、しれっとできるのはカーボンフレームの面白さであり、Timeの場合、繊維を自社工場で編むことからできる。これはライバルにない大きなアドバンテージである。アクティブフォークの廃止や独自性に物足りさもあるが、ライバルと比較して価格の上昇を最小限に抑えているのは朗報だろう。
文・写真/菊地武洋