これまであまり描かれてこなかったことに着目することが創作の醍醐味である。大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第10回「側室をどうする!」では、側室にフォーカス、さらに側室の性的指向に着目し、視聴者をざわつかせた。

  • 『どうする家康』お葉の北香那

家康(松本潤)と瀬名(有村架純)は仲睦まじいが、瀬名には3人目の子供ができる様子がない。姑の於大(松嶋菜々子)は家を繁栄させるためには子供をたくさん作らないといけないと心配し、側室選びをはじめる。凛として勇ましいお葉(北香那)に白羽の矢が立ち、子供も生まれたが、彼女には秘密があって。

男性を好きになれず、家康に触れられると「吐きそうに」なると率直に答えるお葉に、「そんなに」とショックを受ける家康がおかしかった。そこまで言わせるかとも思うが、性的指向のみならず、望まない相手とつきあうことは、男女関係なく、じつに耐え難いことなのだということだろう。

さて。側室のエピソードが描かれたわけは、SDGsの2030年までに達成したい17の目標のひとつ「ジェンダー平等の実現」に沿ったものではないだろうか。「ジェンダー平等」を意識すると、時代劇はなかなか描きづらくなる。なにしろかなりジェンダー不平等なことが満載だから。そういう意味で男女を逆転して描いた漫画のドラマ化『大奥』は、SDGsの時代にふさわしい作品である。こういうものをもっと生み出したいと思案の末、女性が好きなのに家康の側室にさせられてしまった女性を描くことで、女性の苦しみと物語としての意外性を狙ってみたと仮定すると、その努力は評価したい。

家康とお葉の床入の際、SNSでは「ムツゴロウさん」と言われていた、動物を調教するような仕草をお葉がして(瀬名仕込み)、家康よりも優位に立つことは、女性がいやいや男性に組み伏せられる悲劇を逆転させたといえる。家康の弱点である耳をお葉が狙うという一連のアクションは、かの名作『うる星やつら』の第1話の名シーン、あたるとラムの鬼ごっこに似ていた。ラムの角を掴むことができたら勝ちで、あたるが必死に追いかける姿が、お葉に耳を掴まれそうになり家康があたふた逃げ回ることと重なって見える。

宇宙人ラムに非力そうな地球人男性が勝利するおもしろさが、圧倒的権力者・家康に下働きの女性が勝利する痛快さに置き換えられているとも見えるが、『どうする家康』は人間同士の戦いで、実写なので、漫画やアニメの『うる星やつら』と比べると動きの面白さではかなわないとはいえ、漫画的な楽しさも盛り込みつつ、時代劇で定番の帯をくるくるほどいて「あれ~」みたいなやつを現代的にアップデートしてみたと想像すると工夫を感じる。

全体的にはコメディタッチだが、積極的に側室選びにも関与した瀬名は、お葉に子供が生まれたときに浮かない表情をしていて、なんだかんだ言って、側室の存在が心に引っかかっていることは描かれている。

史実だと瀬名が亡くなった後、家康は正室を持たなかったという。側室はたくさんいたが生涯、正室はひとりであった事実は『どうする家康』ではどのように影響するか。いまはなんだかんだありながらも、家康と瀬名は非常に関係性がいい。だからすんなりその事実が受け入れやすいが、瀬名が岡崎城下の築山に庵を構えていたことには、家康との不仲説もあるのだ。

『どうする家康』では瀬名は築山を民が気軽に話をしに来ることができる場にしたいと考えている。三河一向一揆で知った民の窮状を少しでもなんとかしたいと考えているのだ。庭には花が咲き乱れ、極楽浄土のような美しい場所に見える。

このように麗しく、家康にとっても憩いの場に見える築山と瀬名の今後が気になる。それと、いまのところ側室にそれほど積極的ではない家康が今後、側室をどういう経緯で増やしていくのかも。

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