同星の星周円盤はかなり大質量で温度も高く、またそこに含まれる水は氷の状態ではなく、水蒸気の状態となっているという。そのような特徴から、同星は電波で太陽系の成長と進化を研究する上での理想的な観測対象となっている。

研究チームは、オリオン座V883星の星周円盤内の水と太陽系の水を比較するため、アルマ望遠鏡の非常に感度が高いバンド5(波長1.6mm)とバンド6(波長1.3mm)の受信機を使用して観測を実施。原始星、原始惑星系円盤、そして彗星といった太陽系形成の各段階での水について、重水素と水素の同位体比の比較を行った。すると、組成が変化せず、ほぼ同様に留まっていることが明らかにされた。

  • オリオン座V883星の電波観測の結果。オレンジが水、緑がダスト、青が分子ガス。この結果は、同星の水が、我々の太陽系の天体の水とよく似ていることを示唆しているという。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Tobin, B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

    オリオン座V883星の電波観測の結果。オレンジが水、緑がダスト、青が分子ガス。この結果は、同星の水が、我々の太陽系の天体の水とよく似ていることを示唆しているという。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Tobin, B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)(出所:NRAO Webサイト)

この結果は、太陽系の水が太陽・惑星・彗星が形成されたおよそ46億年前よりもずっと以前に形成されたということを示すという。これまでの研究から、星間物質の段階で水は氷として豊富に存在していることが理解されていた。そして今回の観測から、星間物質時代に氷として存在していた水が、太陽系が形成されている時に直接取り込まれたことが示されているとする。また、ほかの惑星系でも、大量の水が取り込まれて惑星が形成されなくてはならなかったということになるとしている。

太陽系の進化を理解する上で、彗星や微惑星の進化における水の役割を明らかにすることは重要だという。太陽は多数の星で構成される星団内で形成されたと考えられる一方で、オリオン座V883星は近傍に星が無く、相対的に孤立していたと考えられている。ただし、両者は巨大分子雲内で形成されたという重要な共通点がある。

星間物質中の水は微小なダスト粒子の表面に氷として形成されることが知られているが、これらの星間雲は重力崩壊によって若い星を形成し、水は若い星周辺の円盤に取り込まれる。最終的に星周円盤は進化し、氷を含むダスト粒子は凝集して惑星や彗星と共に新たな太陽系を形成するのである。星間雲中で形成された水は、重水素と水素の同位体比をほぼ保ったまま、原始星周辺の惑星形成が進行している原始惑星系円盤に進化していく。オリオン座V883星の水を調べることは、本質的には過去を調べ、もっと古い時代に太陽系がどのようだったのかを目撃していることになるという。

なお今まで太陽系の水に関して、各段階におけるその特徴についてはミッシングリンクが存在していたとする。しかし、今回の観測により、その1つが判明したとしている。

  • オリオン座V883星は、地球から約1305光年離れたオリオン座の足下にある原始星だ。(c)IAU/Sky & Telescope

    オリオン座V883星は、地球から約1305光年離れたオリオン座の足下にある原始星だ。(c)IAU/Sky & Telescope(出所:NRAO Webサイト)