今回の実験は、大強度陽子加速器施設(J-PARC) 物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子源特性試験装置に、NTTが開発した高速ソフトエラー検出器を設置して測定が行われた。そのほか、NTTは研究全体の取りまとめに加え、FPGA回路の考案、飛行時間法を用いた測定なども担当。北大は、照射される中性子の強度について金箔放射化法により評価を行った。
今回の成果により、ソフトエラー発生率は、0.1MeV付近で最も減少する傾向が見られ、さらにエネルギーが低くなるにつれて増加していく傾向があることが明らかにされた。また、FPGAのエネルギーごとのソフトエラー発生率を連続的に高分解能で実測することにも成功。これにより、電子機器の周辺環境を考慮したソフトエラーによる故障数のシミュレーションや、このエネルギー領域に応じた対策などが可能となるとした。
今回得られたデータにより、宇宙線起因の電子機器の誤動作を引き起こすソフトエラーに関して、低エネルギー中性子に対する発生率の特性が解明された。これにより、ソフトエラー対策・評価を行う上で最も重要となるソフトエラー起因の故障率をより正確に算出できるようになったという。ソフトエラーは、半導体を持つすべての電子機器の誤動作を引き起こす可能性があり、ソフトエラー対策・評価は、既存のICT機器や交通インフラから今後拡大が想定されるAIによる自動制御やスマートファクトリーなど、さまざまな業界・事業分野で重要な役割を果たすことが期待できるとしている。
また研究チームは今後、電子機器の周辺環境を考慮したソフトエラーによる故障数のシミュレーションや、低エネルギー領域に応じたソフトエラー対策など、より安心・安全な社会インフラの構築に貢献していくとする。また、将来的にはこれまでの研究成果を宇宙空間における宇宙線対策へ応用することで、宇宙統合コンピューティング・ネットワークの実現に寄与するとともに、人類の宇宙進出に対しても貢献していくとした。