第8期叡王戦(主催:株式会社不二家)は、本戦トーナメント決勝の永瀬拓矢王座―菅井竜也八段戦が3月16日(木)にシャトーアメーバ(東京都渋谷区)で行われました。対局の結果、132手で勝利した菅井八段が藤井聡太叡王の待つ五番勝負への挑戦権を獲得しました。
『菅井ノート』の定跡
4年前の挑戦者決定戦と同じ顔ぶれとなった本局は、振り駒で後手となった菅井八段が得意のゴキゲン中飛車に組んで幕を開けました。先手の永瀬王座が超速▲3七銀戦法の態度を示したのに対し、菅井八段は5筋の歩を突いて飛車のさばきを優先する指し方を採用。近年主流の銀対抗形は避け、菅井八段の著書『菅井ノート』でも類型が解説されている10年ほど前の流行形に挑戦権の命運を託します。
永瀬王座が6筋に角を打って反撃を見せたとき、当たりになっている飛車を自陣深く一段目に引いたのが菅井八段の用意した研究でした。先手に馬作りを許しますが、直後の角打ちでこの馬を捕獲する狙いがあります。互いに角を取り合う力戦になだれこみ、局面はようやく一段落を迎えました。永瀬王座は一歩得を、菅井八段は手持ちの金を主張します。
永瀬王座の地下鉄飛車
昼食休憩が明けてからも盤上は第二次駒組みが続いています。自陣への角の打ち込みを警戒した先手の永瀬王座は、バランスのよい陣形を保ったまま飛車を9筋に大転換する方針を打ち出しました。「地下鉄飛車」と呼ばれるこの作戦は、雀刺しの要領で後手の囲いを端から崩す狙いがあります。対して菅井八段は守りの自陣角を放ってこれに応じました。
ジリジリとした間合いの計り合いが続いたのち、永瀬王座はようやく端歩をぶつけて戦端を開きました。形勢は互角ながら、この直前に永瀬王座が二枚換え覚悟で手に入れた飛車をどれほど働かせられるかは局面のポイント。6筋に下ろされたこの飛車に対し、着けていたネクタイをかなぐり捨てた菅井八段は力強い手つきで守りの銀を打ち付けました。
菅井八段が叡王初挑戦決める
永瀬王座の攻めを受け止めることに成功した菅井八段は、攻められていた9筋の歩を伸ばして反撃の足掛かりとします。先手玉をにらむ急所の位置にと金を作ったのち、目線を転じて5筋に香を打ったのが脱出を防ぐ寄せの決め手となりました。終局時刻は17時1分、最後は2枚の角で永瀬玉への挟撃体制を完成させた菅井八段が会心の内容で同世代のライバルを降しました。
藤井叡王への挑戦権を獲得した菅井八段は局後SNSを更新し、「最強の相手に、自分の振り飛車がどこまで通用するか分かりませんが、やるからには全力で戦います」と意気込みを語りました。注目の五番勝負は4月11日(火)に東京都千代田区の「江戸総鎮守 神田明神」で開幕します。
水留 啓(将棋情報局)