東京国立近代美術館が開館70年を迎えたのを記念して、“展示品すべてが重要文化財”という史上初の展覧会「重要文化財の秘密」が始まりました。「『問題作』が『傑作』となるまで」という刺激的なキャッチコピーから、たんなる名品展ではないんだぞ、というただならぬ気迫が伺えます。
今でこそ「傑作」と呼ばれている作品も、発表された当初は「問題作」でもあった。そうした作品がどのような評価の変遷を経て重要文化財に指定されるに至ったのかという美術史の秘密に迫る……というのが本展のコンセプト。“問題作”といってもスキャンダラスな意味ではなく、「当時あまりにも新しい表現だったからみんなをビックリさせてしまったけれども、少し時代をおいて見た時に、新しい時代を切り拓いた作品だと認められた、そんなポジティブな意味」だと、東京国立近代美術館 副館長の大谷省吾さんは企画の意図を語ります。
「明治以降の近代美術は、作品が作られてからあまり時間が経っておらず、歴史の評価のふるいにかけられるには時間が足りませんし、明治になってどっと入ってきた西洋美術の影響を抜きには語れません。それまでの日本の伝統美術と複雑にからみ合っている近代美術を、西洋的な価値観で評価するのか、日本の伝統的な価値観で評価するのか。重要文化財の指定の歴史を振り返ると、そんな難しい局面がありました」(大谷さん)
そもそも「重要文化財」とはなんでしょう? おさらいすると、「重要文化財は1950年に公布された文化財保護法に基づき、日本に所在する建造物、美術工芸品、考古資料などの有形文化財のうち、製作優秀で我が国の文化史上貴重なもの等について文部科学大臣が定めたもの」。そのうち、特に優れたものが「国宝」に指定されます。
「重要文化財と聞いて、どんな印象が浮かぶでしょうか。国宝だと“見ておかなきゃ!”と思うでしょうし、去年の秋に東京国立博物館で開催された『国宝展』は、大変な反響でした。それに比べると、重要文化財はどうでしょうか。ちょっとインパクトに欠ける? いまひとつピンとこない? しかも『国宝展』に出展された国宝は89点、本展の重要文化財は51点ということで、数の上でも見劣りすると感じられるかもしれません。でも、美術に関わりのある人にしたら、これがいかに無茶なことかと驚くような数字なんです」(大谷さん)
確かに、「明治以降の絵画・彫刻・工芸で重要文化財に指定された51点が集結した」と聞いただけではあまりピンときませんが、明治時代以降の絵画・彫刻・工芸での重要文化財指定は68件で、そのなかで国宝に指定されたものはまだゼロだと聞くと、「全68件のうちの51点が集結」という数字のスゴさが伝わるのではないでしょうか。
さらにいうと、重要文化財は保護の観点から年間の貸出日数が60日と規定されているうえ、近代美術の重要文化財は“ほぼ国宝に準ずる特別なもの”として扱われている。それほどの名品となれば毎年なにかしらの回顧展もあり、主だった作品はそちらにいくため、所蔵している各美術館もそう滅多に貸し出すわけにもいかない。本展は、そんな高いハードルをいくつも乗り越えて全国から集めた51点を見ることができる、またとない機会なのです。
また、展示の半ばで登場する「指定年表」にも注目です。この企画にあたり、作品がつくられた順番ではなく重要文化財に指定された順番に並べ直してみて、あらためてさまざまな発見があったそうで、「この70年の間に、コンスタンスに指定が行われていたわけではありません。明治100周年を迎えた1968年前後に指定が集中し、その後の80~90年代には近代美術が指定されていない空白地帯があります。この時期に日本各地で新たな美術館がたくさん開館し、近代美術の新しい研究が進みました。それ以降、どんどん指定が増えています」(大谷さん)
時代とともに評価の軸が広がり、多様化が進んで、重要文化財の指定のモノサシは現在進行形で変化しています。発表当時はなぜ問題作だったのか、どのような評価の変遷で重要文化財に指定されたのか。第一級の作品たちを通して、ぜひ日本の近代美術の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
■information
東京国立近代美術館 70周年記念展「重要文化財の秘密」
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
期間:3月17日~5月14日(9:30~17:00 ※金土は20:00まで)/予約優先チケット(日時指定制)を推奨/月曜休※ただし3/27・5/1・5/8は開館/会期中に展示替えあり
観覧料:一般1,800円、大学生1,200円、高校生700円