14型ノートPCで世界最軽量689gを実現した「LIFEBOOK UH-X/H1」(富士通クライアントコンピューティング)の開発秘話。前編では、14型で最軽量を目指した出発点を紹介しました。中編では、軽量化の工夫とこだわりを開発者が語ります。(全3回) |
---|
一番の苦労は超狭額縁化。LCD基板を裏側に折り返す
「LIFEBOOK UH-X/H1」(以下、UH-X)の開発チームは、14.0型ディスプレイのサイズを拡大しながらも、13.3型と同じ水準のフットプリントを目指した。フットプリントを小さくすることはそのまま軽量化にも貢献するからだ。
ここでの最大のポイントは、超狭額縁化だ。これが、今回のUH-Xで最も苦労した点だともいえる。超狭額縁化では、4つの取り組みが功を奏している。
ひとつめは、液晶パネルメーカーとの連携により、UH-X専用の液晶パネルを用意。さらに、従来モデルでは表側にあったLCD基板を裏側に折り返すことで、基板部分の幅を削減し、下側部の額縁部をぎりぎりまで細くしたのだ。これが狭額縁化に大きく貢献している。
ちなみに、UH-X専用に新開発した液晶パネルそのものも軽量化につながっている。「液晶パネルの軽量化だけでなく、パネルの強度の確保についても、液晶パネルメーカーと協議を繰り返し、軽量化と強度を両立させてユニット化した」(松下マネージャー)という。だが、組み立て前の状態では、液晶パネルの扱いには細心の注意が必要だ。
これまでのUH-Xでも、通常の組み立て工程のままでは、液晶パネルが割れてしまうため、生産を担当する島根富士通では特別な方法で組み込みを行ってきた経緯がある。今回のUH-Xではさらに細心の注意を払った組み立てを行い、品質を維持した形で量産を行っている。
「島根富士通では、これまでのUHシリーズの生産ノウハウが蓄積されているからこそ、新たなUH-Xが量産できる。液晶パネルの組み立てはもちろん、新製品ではケーブルが増えながらも、這わせるスペースが少なくなっており、それを解決するために組み立て工程ではピンセットを使うなど、MADE IN JAPANならではの匠の技によって量産している」とのこと。UH-Xの量産は、2月上旬からスタートしているという。
ベゼルが細すぎて液晶を固定できない?
2つめは、天面カバーに工夫を凝らすことで、従来のようにベゼルカバーで液晶パネルを固定するのではなく、天面カバーで液晶パネルを保持する仕組みを採用した点だ。
「横部分のベゼル幅が細いため、ベゼルカバーでは液晶パネルが固定できないという課題が発生したが、これを解決するために天面カバー側で液晶パネルを保持することにした。13種類の天面カバーを試作し、嵌合方法も見直しながら、最も狭額縁化したものを採用した。天面カバーの素材には加工が難しいカーボンが使われているが、ここには東レ製を採用。東レとの連携がなければ狭額縁は実現できなかった」(松下マネージャー)とする。
実は、東レとの連携は、ひとつめのLCD基板を裏側に折り返す構造でも実現している。
「LCD基板を裏側に折り返したことで、その部分は膨らみができる。しかし、薄型化と軽量化を実現するために、天面カバーを曲面にしたいと考えた。LCD基板が入っている部分の薄さは17.3mmとなり、最薄部となる上部では15.8mmとなっている。カーボンを使いながら、なめらかな曲面を形成し量産するにはさまざまな課題があったが、東レが蓄積したカーボンに関する様々なノウハウを活用することで課題を解決し、実現できた」(松下マネージャー)という。
FCCLが曲面を持った天面カバーを採用したのは今回が初めてのことだ。
無線LANアンテナをヒンジ部へ移動、夜中の検証で調整
3つめは、従来モデルでは、上部に配置されていた無線LANアンテナを液晶パネル下部のヒンジ部へと移動。これによって、パネルの横部分を這わせていたWLANケーブルのスペースが不要となり、ベゼルの最薄化が可能になった。
ここで課題となるのは、低い位置にアンテナを設置することで発生する電波強度確保の課題だ。「一般的に低い位置にアンテナを配置すると、通信感度を高めるという点では不利になるが、アンテナや筐体の設計検証を繰り返し、最適な配置や形状を導き出し、電波強度を確保した。
また、下部にアンテナを配置すると、基板などのノイズ源にも近くなるが、影響を受けないように遮蔽する工夫も行った。手加工で事前検証を何度も繰り返し、ベゼルカバーの形状も調整した。日中は社内にアクセスポイントが林立しているため、エンジニアはほかのアクセスポイントの影響を受けない夜中に出勤して検証する作業も行った。
左右のアンテナ位置は、ノイズ源の影響を受けない最適な場所に配置したため、左右均等な位置ではなく、それぞれの位置がずれている。最終的には、従来モデルと同等の通信強度を確保した」(河野シニアマネージャー)という。
カメラは省スペースに収めつつ、フルHDに進化
4つめがフルHDカメラ搭載における工夫だ。
従来モデルで搭載していたHDカメラに比べて、フルHDカメラはイメージセンサーのサイズが大きいため、液晶パネル上部にそのまま搭載すると、ベゼル幅が広がってしまう。実際、カメラモジュールだけを比較しても1mmほど幅が広がることになる。
そこで、カメラ設置部分「だけ」カーボンを薄肉化し、ベゼル幅を広げない形でフルHDカメラを搭載。あわせて物理的にカメラをオフにできるカメラシャッターの設計も工夫し、狭額縁化を実現することに成功した。従来モデルでは、上部のベゼル幅は7.3mmだったが、カメラサイズが大きくなりながらも、そこから0.7mmも狭めている。
こうした数々の工夫の結果、最終的にUH-Xのベゼル幅は、上部で6.6mm、横は3.2mm、ヒンジがある下側部は3.4mmという超狭額縁化を実現。新たなUH-Xの幅は308.8mm、奥行は209mmとなった。2019年7月発売の2世代前のモデルが幅309mm、奥行212mmであったことに比べると、14.0型ディスプレイを搭載しながらも、フットプリントは2世代前の13.3型ディスプレイ搭載モデルよりも小さい。
こうしたフットプリントを小さくした成果が、そのまま軽量化にもつながっているのだ。
第3回となる後編では、UH-X/H1の性能面と熱対策、内部構造について迫ります。3月17日に公開予定です。 |
---|