そのメカニズムとして、TTC3が翻訳開始を抑制している可能性が考えられることから、研究チームはリボソームプロファイリングによって翻訳開始の変化を解析。すると、Ltn1-KO神経細胞では予想された通りに翻訳開始が抑制されていることが判明。またTTC3の発現を低下させたところ、Ltn1-KO神経細胞で見られた翻訳開始の抑制が解除されたという。このことは、Ltn1-KO神経細胞において異常に増加したTTC3は、翻訳開始を抑制することで、アレスト産物のさらなる蓄積を防いでいることが示されているとした。

そして、Ltn1-KO神経細胞の形態についての観察を行ったところ、樹状突起の長さが短く、神経細胞の発達が遅れていることがわかったとする。この神経細胞の発達不全に対するTTC3の関与を調べるため、TTC3がノックダウンさせられた。その結果、Ltn1-KO神経細胞で見られた発達不全が回復したという。これは、Ltn1を欠損することで異常に蓄積するTTC3が、神経細胞の発達を阻害することを示すとする。

  • (左)Ltn1-KO神経細胞で上昇しているTTC3およびUFM1化タンパク質。(右)Ltn1-KO神経細胞で蓄積するTTC3と神経突起の成長の関係

    (左)Ltn1-KO神経細胞で上昇しているTTC3およびUFM1化タンパク質。(右)Ltn1-KO神経細胞で蓄積するTTC3と神経突起の成長の関係(出所:理研Webサイト)

最後に、Ltn1-KOマウスで神経疾患に関連した行動異常についての確認が行われた。すると、Ltn1-KOマウスは発達障害の一種である自閉スペクトラム症や認知障害に関連した行動異常を示したとする。その一方で、Ltn1-KOマウスは運動機能に異常は見られず、神経細胞死も認められなかったことから、Ltn1-KOマウスでは神経変性は起きておらず、認知障害・発達障害を呈していることが示されたとしている。

また、これらの行動異常へのTTC3の寄与を調べるため、Ltn1-KOマウスの内側前頭前皮質においてTTC3がノックダウンさせられた。その検証の結果、行動異常の一部は優位に回復したという。

これらの結果から、神経細胞内でRQCの機能が破綻すると、神経細胞はTTC3の量を著しく増やし、不完全なタンパク質のさらなる蓄積を抑制することで自身を保護している一方、神経の成長を遅らせて認知障害や発達障害を起こすことが解明されたとする。

研究チームによると今回の結果は、認知症や発達障害を含む幅広い神経疾患の発症機構の解明につながる可能性があるという。さらに、これらの疾患に対して、神経細胞でのTTC3およびUFM1化を標的とした新たなバイオマーカーや治療法の開発にもつながると期待できるとした。