そして今回の解析では、全部で75個の胃がんドライバー遺伝子が発見された(一部既知のものも含む)。何らかの治療法が知られているドライバー遺伝子を1つ以上持っている症例は全体の約24.6%に認められ、すでに胃がんに対して臨床で使用可能な治療薬がある症例は全体の約9.6%だったという。治療標的としては、免疫チェックポイント分子のゲノム異常、複数のキナーゼ融合遺伝子が同定され、新たな治療標的として有望と考えられるとした。
続いて、最近注目を集めるRNAスプライシング異常について、今回の大規模なゲノムデータと発現データを組み合わせることで、網羅的な解析が行われた。その結果、胃がんにおけるスプライシング異常はがん抑制遺伝子「TP53」と「CDH1」に最も高頻度に起こっていることが判明。それに加え、びまん型胃がんにおけるCDH1のスプライシング異常が特定の部位に集中していることが見出され、びまん型胃がんの発症においてCDH1変異は「ドミナントネガティブ(優性阻害)」として作用する可能性が明らかにされた。
免疫細胞はがん抗原を認識し、サイトカインの「インターフェロンガンマ」(IFN-γ)を放出し、がん細胞を攻撃する。IFN-γの刺激は、がん細胞上の受容体とその下流シグナル分子によって伝達される。高度変異胃がんでは、がん抗原提示に関わる分子、あるいはIFN-γ経路分子における機能喪失型変異やゲノム異常が70%以上の症例で認められた。こうした症例では、免疫チェックポイント阻害剤の効果が低い可能性が考えられるという。
さらに、発現解析データを用いて腫瘍内における免疫細胞の量や活性化についての評価が行われた。その結果、「HER2遺伝子増幅」などドライバー遺伝子の低免疫活性状態と相関し、一方で「PIK3CA変異」やクロマチン制御分子異常が高免疫活性化状態と相関することが解明された。全部で16個のドライバー異常が免疫状態と相関しており、これらは胃がんに対する免疫治療における新たなゲノムバイオマーカーとなる可能性があるという。
研究チームは今回の研究によって、これまで発症要因が不明だった予後不良なびまん型胃がんについて、飲酒およびアルコール代謝関連酵素の遺伝子多型が重要な危険因子であることが解明されたとする。そして今後、飲酒に関連するゲノム異常がどのように発生するのかを詳細に検討することで、びまん型胃がんの予防につなげていくことが期待されるという。
また、びまん型胃がんを含め、日本人胃がんにおける治療標的となるドライバー遺伝子や免疫療法の予測因子となりうるゲノムバイオマーカーの全体像が解明されたとし、これらのデータが今後、日本人における胃がん治療法開発や予後改善に貢献することが期待されるとしている。