このような状況に対応するため、共同研究チームは、ペット由来の薬剤耐性菌のゲノムレベルでの性状解析を2018年から実施している。今回の研究ではコリスチン耐性に焦点が当てられ、2018年から2022年に獣医臨床センターに来院した感染症疑いのイヌ428匹、ネコ74匹から分離された細菌687株を対象とした調査が行われた。

その中で腸内細菌科細菌だった243菌株のうち、第三世代セファロスポリン耐性であることが確定した43菌株(大腸菌34株、肺炎桿菌9株)に対し、全ゲノムシーケンス解析が実施された。その結果、2菌株はmcr遺伝子とblaCTX遺伝子の両方をプラスミド上に保有することが判明したという。そこでこれらに対して、さらに詳細な解析を実施したとする。

解析の結果、イヌから分離された大腸菌1株は、(1)コリスチンに耐性であること、(2)mcr遺伝子とblaCTX遺伝子は別々のプラスミドに存在すること、(3)両方のプラスミドが同時に水平伝播して感受性株を両方の抗生物質に対する耐性株に変化させること、の3点が明らかにされた。

また、ネコから分離された大腸菌1株は、(1)mcr遺伝子を持っているがコリスチンに耐性ではないこと、(2)mcr遺伝子の発現に必要とされる遺伝子を欠いていること、(3)mcr遺伝子とblaCTX遺伝子は同じプラスミド上に存在すること、(4)このプラスミドが水平伝播することで感受性株は第三世代セファロスポリン耐性株へ変化すること、の4点が判明したとする。

また、今回解析されたmcr遺伝子を持つプラスミドは、過去にヒトや動物で発見されたmcr遺伝子保有プラスミドと非常に相同性が高かった(ゲノム配列が似通っていた)ことから、このプラスミドはヒトとペットの間で伝播する可能性が示唆されたという。

研究チームは今回の結果から、少なくとも大阪府下のペットのイヌにおいて、コリスチン耐性大腸菌はまだ蔓延してはいないことが考えられるとする。しかし、ヒトと同じく今後拡大する可能性があるため、継続的なモニタリングは不可欠だとした。

また、今回検出されたコリスチンと第三世代セファロスポリン耐性大腸菌はどこから伝播したのか定かではないという。今後、ペットだけではなく飼い主や周囲環境、食餌を含めた評価へと研究を展開して包括的な評価を行うことで、ヒトとペット間の伝播リスクの評価につなげたいと考えているとした。