富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、世界最軽量を維持し続けているFMV UHシリーズの新製品として、LIFEBOOK UH-X/H1(以下、UH-X)を3月16日に発売する。

従来の13.3型から、14.0型へと「階級」をあげながら、689gの超軽量化を実現。ここでも、圧倒的ともいえるスペックで世界最軽量の座を獲得してみせた。FCCLの開発チームによるUH-Xへの新たな挑戦を追った。(全3回)

  • 14型で689g、世界最軽量を実現した「LIFEBOOK UH-X/H1」。2023年3月16日に発売する

    14型で689g、世界最軽量を実現した「LIFEBOOK UH-X/H1」(2023年3月16日発売)。店頭予想価格は260,000円強

  • LIFEBOOK UH-X/H1開発チームの河野晃伸氏(左・富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部PM統括部第一技術部シニアマネージャー)、松下真也氏(右・富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部PM統括部第三技術部マネージャー)

新たな階級で世界最軽量を目指したUH-X

「世界最軽量は譲らない」――。

富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の開発チームが掲げている最重要目標のひとつである。その高い目標を実現しつづけている製品が、FMV UHシリーズだ。

2017年2月に発売したLIFEBOOK UH75/B1では、777gを目指し、社内に開発プロジェクトチーム「チーム777」を結成。目標を超える761gを達成して、世界最軽量の座を奪取。それ以来、4回の進化を遂げ、5年という長期間にわたり、世界最軽量の称号を保持している。

  • 2022年6月に発売したFMV夏モデル、LIFEBOOK UH-X/G2は13.3型で634g。今回登場したLIFEBOOK UH-X/H1は14型で689gの製品だ(FCCLの2023年春モデル発表会にて撮影)

とくに、現行機のベースとなる2020年10月に発売したLIFEBOOK UH-X/E3(最新モデルはUH-X/G2)は634gを達成。その重量から「ムサシ」と呼ばれ、13.3型ディスプレイを搭載した史上最軽量のモバイルノートPCとして、市場から高い評価を得ている。

新たに開発したUH-Xは、こうした経験を生かしながら、ディスプレイサイズを13.3型から14.0型へと拡大。さらに、16:10のワイド画面を採用しながら、世界最軽量を実現してみせた。

  • LIFEBOOK UH-X/H1発表会にて、現行機(UH-X/G2)との比較。画面サイズが13.3型から14型へ拡大しているが、フットプリントはほぼ同等サイズに収まっている(W307×D197mm→W308.8×D209mm)

画面は大型化、フットプリントは小型化、内部は高性能化

富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部PM統括部第一技術部シニアマネージャーの河野晃伸氏は、「製品企画をスタートしたのは、2021年の年末。テレワーク利用の広がりにあわせて、既存のUHシリーズのユーザーから、13.3型では画面が小さいという声が多くあがってきた。社内で議論をした結果、新たなUH-Xでは、14.0型に舵を切ることを早い段階で決定した」と振り返る。

  • 河野晃伸氏(左)と松下真也氏(右)。2人とも歴代のUH-Xシリーズを手掛けてきている

2022年年初の時点で14.0型にすることを決定。これまでの13.3型のモノづくりで培ってきたノウハウを、新たな階級における世界最軽量モデルの実現に生かす挑戦が始まった。

また、「単に軽量化だけでなく、最小のフットプリントと、高い性能を実現することも目指した」(河野シニアマネージャー)とする。

世界最軽量という絶対に譲らない条件とともに、14.0型へのシフト、最小のフットプリント、高性能の追求という軽量化と相反する要素が、新製品開発における3つの柱となった。

「軽量化を追求するだけではつまらない。さらに付加価値を加えたい。それが3つの柱につながっている」と、世界最軽量の称号を保持しつづけてきた自信が、新たな挑戦につながっている。

まだ市場にない「700g以下」を目標値に

世界軽量化において、開発チームが目標にしたのは、まずは700g以下にすることだった。それにはいくつかの理由がある。

ひとつは開発をスタートした時点で、14.0型のノートPCには、700g台の製品が1台も存在しなかったということだ。FCCLが世界最軽量を実現するには、それらの製品とは圧倒的な差となる700gを切ることが目標となった。

2つめは、ディスプレイサイズが大きくなっても、許される重量が700g前後であったという点だ。14.0型になったことで、13.3型に比べると容積は14%増加する。これをもとに、ムサシ(634g)の重量から単純計算すると、重量は723gとなる。つまり、これが、これまでのノウハウを活用することで実現できる水準ともいえる。

開発チームにとって、新製品では、それを下回るのは当然の目標となる。ここからも700gを切るという目標が導き出された。

そして、700gという数字を目標に設定したとき、そこに合致するのが2世代前となる2019年7月発売のUH-X/D2で実現した698gである。開発チームにはこれを下回りたいという気持ちが強かった。ここでも必然的に700gを下回ることが目標になったのだ。

  • 上が現行機(UH-X/G2)、下がUH-X/H1。画面サイズは拡大したが、フットプリントの体感はほぼ同じ

どこを削れる? 100以上の項目を検討、ラベルも薄く

富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部PM統括部第三技術部マネージャーの松下真也氏は、「700gを切るために、軽量化ネタとして検討したのは100項目以上。そのうち、約7割を採用した。0.1g単位で軽量化する工夫を、製品発表の直前まで繰り返した」と語る。

  • こちらは兄弟機「LIFEBOOK UH90/H1」の内部。基板はLIFEBOOK UH-X/H1と同じだが、UH-X/H1はシングルファンで、右側の大きいファンが1基のみ載っている状態だという

コネクタを補強するための板金も穴が開けられるところは開け、さらに今回はその板金の薄肉化も図った。キーボードモジュールでも、穴が開けられるところにはとことん穴を開け、これ以上は開けられないといえる究極の水準にまで軽量化の作業は到達しているという。

今回は、キーボードモジュールを構成する板金の塗装も必要な部分に塗布するだけとしたことで0.2g減を実現。さらに、部品を管理するラベルを小さくし、薄くすることで、0.02gの軽量化を図るという細かい軽量化作業も行った。

  • コネクタ補強用の板金を従来から20%薄型化(奥が新モデルのもの、手前が従来モデルのもの)。よく見ると厚みに違いがある

  • キーボードモジュールを構成する板金。肉抜きが進み、もはやすかし模様のように

  • LIFEBOOK UH-X/H1実機のキーボード面

今回も「常習犯」、発表ギリギリまで重さ調整

実は、UH-Xでは、ビクトブラックの一色だけが用意されているが、これも他のボディカラーにした場合、塗装の回数が増え、それによって、重量が増加することが理由となっている。ピクトブラック以外では、今回の689gという重量は実現できなかったといっていい。そこまで突き詰めた軽量化への挑戦なのだ。

  • UH-Xのカラー展開はピクトブラックのみ

UH-Xが発表されたのは2023年1月24日。だが、689gのスペックに落ち着いたのは1月中旬のことであり、カタログ制作の進行を待たせてまで、最後の最後まで軽量化を突き詰めていた。

ムサシのときには、オンライン会見用に収録したビデオ撮影時点では638gだったものを、さらに詰めて634gを達成。実際のオンライン記者会見では、新製品説明のビデオ放映が終わった後に、ライブ中継に切り替わり、急遽用意したボードを持ち出し、638gのシールをはがして、634gになったと「訂正」した。

ぎりぎりまで軽量化を追求するのは、UHシリーズの開発チームのこだわりであり、今回も「常習犯」ともいえる最後の軽量化に取り組んでみせた。

689という数字にも秘密あり

実は689gという数字には、隠れた意味がある。

河野シニアマネージャーは、「富士通のロゴであるインフニティマークは180度回転させても同じデザイン。689という数字も、180度回転させても689となる。無限大を示すインフイニティマークと同じく、14.0型の土俵においても、UH-Xは世界最軽量への挑戦を無限に続けることを意味している」と語る。

そんなところにも、世界最軽量へのこだわりを込めている。

  • 634g(ムサシ)の次は546g(コジロー)……とはいかなかったが、この689gにも隠れた意味が込められていた。なお、富士通のロゴ(インフィニティマーク)は「地球」と「太陽」をシンボライズしたもので、その名の通り無限の可能性を示すという

第2回は、UH-X/H1が14型最軽量となるために実施した、具体的な工夫とこだわりを紹介します。3月16日に公開予定です。