レクサス初の電気自動車(バッテリーEV=BEV)専用モデル「RZ」(アールズィー)で注目したいのは、量産車で世界初採用となる丸くないハンドル「異形ステアリング」だ。タイヤとステアリングを電気信号のみでつなぐ「ステアバイワイヤ」(SBW)という技術を使ったシステムだが、どんな特徴があるのか。実際に運転した後、開発に携わる第1シャシー開発部の山口武成グループ長に話を聞いてみた。
普通に運転できる?
――SBW搭載の「RZ」(プロトタイプ)で低速のスラロームコースと高速のサーキットコースを走ってきました。なかなか完成度が高いと感じましたが、開発は大変でしたか?
初期段階でいろんな人に乗ってもらい、最終的にはうちのマスタードライバー(トヨタ自動車の豊田章男社長)にも試してもらいましたが、全員に満足してもらえるものはなかなかできませんでした。豊田社長からは1年前くらいに、「もっとナチュラルに」といわれました。
テストで外にも乗って出ていますが、現段階でも、かなりいいところまではいっています。ただ、気になるところはやっぱり潰したい。例えば低速での切り始めの感覚です。通常モデル(丸いハンドル)から乗り換えると最初は違和感があり、ついつい切りすぎてしまうのですが、そのあたりを自然なフィーリングにしたいと考えています。まだまだ、やることがいろいろとあります。
――丸いままのハンドルにSBW技術を導入することもできるはずです。異形ハンドルにする意味は?
今までと違う革新的なコックピットを作るため、異形ハンドルの使用を決めました。確かにSBWは丸ハンドルでもできるのですが、いつもとは違う形のハンドルが付いていることは、SBWを使っていることを示す「インジケーター」の意味もあります。
――今回の試乗車は、ハンドルの切れ角が150度に設定されていました。角度はどうやって決めたのでしょうか。
ハンドルを持ち変えずに操作できる範囲としては、150~180度あたりが目安になります。角度は制御で変えられるのでさまざまなパターンをトライしましたが、150度がベストだと考えて設定しました。
ただ、自然なフィーリングを出すには、もう少し大きな角度を探ってみてもいいのかなとも思うので、もう一度、見直しをやってみようと考えています。どの角度で確定させるかについて具体的な数字はまだいえません。
ギア比(ハンドルの操作量と実際にタイヤが切れる角度の関係)については、入力の量(ハンドルを操作する力加減)と動きのバランスが大事になってきます。ギア比は車速にも比例しているので、スピードが上がると徐々にスローになっていきます。
――サーキットを走っているときは全く違和感がなかったのですが、スラロームやクランクを低速で走る際には操作の感覚がいつもと違い、少し気を使う部分がありました。
高速では舵角が少なく、軽快に走れたはずです。クイックさ(ハンドル操作に対する車両の挙動のシャープさ)というのは重要で、開発するうえでターゲットになるようなクルマは特に設定していないのですが、我々が考える軽快感を追求しています。高速で走っていると、普通のクルマよりもスローな挙動に感じるかもしれません。
――スラロームでは丸ハンドルも試しましたが、異形ハンドルから乗り換えると「普段はこんなにハンドルを回していたのか!」と驚きました。
SBWを使えばハンドルをそれほど回さずに済むので、腕の疲れも少ないと思います。それと、異形ステアリングはハンドルが水平の状態(左右どちらにも切っていない時)だとタイヤが必ず前を向くので、タイヤのセンター位置がわかりやすいという特徴もあります。
SBWではステアリングとタイヤが機械的につながっていないのですが、安全については十分に意識しています。電気的なつながりのみですが、右に切ったのに左に曲がってしまうというようなことは起こりません(笑)。システムには2つの電気系統を用意してフェールセーフを担保しています。
SBWでは、ステアリングとタイヤが実際は離れているけれど直結している、という感覚を味わっていただけるはずです。