駒の動かし方と基本的な戦法は分かったけど、ネット対局などで人と対戦するとなかなか勝てない‥‥なんとことありませんか? この記事では、マイナビ出版刊行の将棋に関する書籍より、対局に活かせる戦法や考え方に関する内容を抜粋して、お伝えします。
すぐ覚えてすぐ勝てる戦法をお探しのあなたに、村田顕弘六段が送る新戦法。その名も「村田システム」。 相手が居飛車できても振り飛車できても、ほとんど同じ駒組みで積極的にペースを握ることができます。相手には避ける余地はほとんどありません。それでいて、相手には急所を見せず、自分のほうはシンプルでわかりやすい攻めを繰り出せるのが魅力です。
画期的新戦法 村田システムとは?
居飛車党だけど・・・
「横歩取りが苦手」
「角換わりが苦手」
「相掛かりが苦手」
「矢倉が苦手」
できれば自分の好きな形に持ち込みたいけれど、将棋は二人で指すもの。相手の出方によっては、否応なく不得意な戦型になってしまうこともあるでしょう。
○○(←戦型)は指したいけれど、どうしても□□と△△が苦手、得意形の○○にならなくとも何としても避けたい!
そんな悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
しかし、そんな都合の良い方法は、果たしてあるのか・・・
これが、あるんです!
そして、苦手を避けるという後ろ向きな理由ではなく、しっかりマスターすれば必ず自分の土俵で戦えて、胸を張って「得意戦法」と言えるような画期的な「システム」が。
考案者は村田顕弘六段。戦型名は、その名も「村田システム」。
本記事では、その出だしから狙い筋までを、少しだけ紹介したいと思います。
角道を開けない独自のオープニング
さっそく、村田システムの基本形をご覧いただきましょう。
初手からの指し手 ▲2六歩 △8四歩 ▲4八銀 △8五歩 ▲7八金 △7二銀 ▲6八銀 △3四歩 ▲5六歩 (基本図)
村田システムの最大の特徴は、角道を【なかなか】開けない点にあります。基本図を見れば一目瞭然。角換わり、横歩取り系の将棋には進みようがありません。
もちろん角をずっと隠しておくわけではなく、ここから相手の出方を見て、場合によっては角道を開き、また場合によっては▲7九角と引いて使ってゆきます。
相居飛車では角銀を自在に使う
第1図は、先手の「村田システム」に、後手が矢倉志向の駒組みを見せている局面です。
第1図からの指し手 △4一玉 ☗6九玉 △5二金 ☗3六歩 △4二角 ☗7六歩 △3三銀 ☗4六銀 (第2図)
後手の△4二角を見て、ここでようやく▲7六歩と角道を開けます。▲4六銀まで進んだ第2図は、早くも先手成功の図。▲3五歩△同歩▲同銀が厳しいですが、後手がぞれを受けるには(A)△4四銀(B)△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8五飛のふた通りしかありません。(A)には初志貫徹で▲3八飛から▲3五歩を目指し、また(B)には▲6六角~▲7七桂と飛車を五段目から追い、のちの▲3五歩を目指していずれも先手ペースです。
後手としては、△4四歩とその支えが間に合っておらず、遅まきながら開いた先手の角の直射が強烈で思わしくない局面になってしまいました。では、△4四歩急ぐとどうなるでしょう。
第1図からの指し手(2) △5二金 ▲6九玉 △4四歩 ▲3六歩 △4三金右 ▲7六歩 △4二角 ▲4六歩 △3三銀 ▲5五歩 (第3図)
この場合は速攻ではなく、5筋の位を取って後手角を封じ込めます。第3図からは▲5六銀から左の銀も▲5七銀と前線の応援に出して、参考図のような攻めの体勢を築ければ理想的です。
特に第2図のあたり、矢倉党の方には少々物足りない手順かとも思いましたが、第1図に至るまでに「角道を開けない」ことで角換わり、横歩取りに誘導させず、スキあらば速攻を目指す、また時には厚みを築くという変幻自在の「村田システム」らしい手順と感じ、ここに紹介しました。
村田システムの特徴は、まず第一には角道を開けないこと、角の使い方ですが、もう一つは、銀の使い方が実に多彩であること。基本図から右銀を第1図のように4六に出る、第3図のように5筋の位を張って5六に出るほか、6六に出る形もあります。また、基本図のように右銀を5七に使うのではなく、左銀を5七に使うパターンもあります。銀をトリッキーに使い、相手をかく乱するのが楽しい戦法です。
前編はここまで。後編では相手の速攻に対応する戦法などを解説します。
まさにオールインワン! 全戦型対応の新戦法
本記事で紹介した手順、図面は、すべて2月発売の『オールインワンの新戦法 村田システム』からのものです。(書籍紹介ページはこちら)
筆者の村田六段は「まえがき」にこう記します。
「角道を開けない究極」
これが本書のテーマである。角道を開けるという将棋の基本、将棋の常識に逆らった画期的な作戦であり、秘策中の秘策である。
「角道を開けない」と聞くと、確かに常識外で、しかもどことなく不自由な感じがしてしまいます。 しかし本記事でご覧いただいたように、発想の転換をすれば、後で角道を開けるか、引いて使うかを相手の出方によって決められるという意味ではかえって柔軟であるともいえましょう。 また・・・
本書で一番の売りは、自分の注文で局面を誘導できることだ。
自分の準備した作戦が必ず実戦で現れる。
無用な駆け引きは一切ない。
とも。「村田システム」は、角換わり、横歩取り、対角道オープン振り飛車・・・などなど、苦手な戦法を避けて、必ず自分の土俵で戦えるのが魅力です。
本書の目次は以下の通り。
この通り、同じオープニングからすべての戦型に対応。
実に350ページ超の大著の中に、村田六段渾身の研究がぎっしりと詰め込まれています。
相手の戦型、手段への対応策が網羅されているのはもちろんですが、筆者が特に注目したのが、本記事でも紹介した相居飛車における・・・
「あらゆる急戦策への対応が手厚く、ぬかりなく記されている」
ところ。本記事で紹介した形以外にも、△8七歩と打たせ▲7九角と引く形や、相手の鎖鎌銀、棒銀など、さまざまな急戦策に対応しています。
棋書を読み、勇んで実戦で試したものの、成功例にたどりつくまでにつぶされて・・・そんな悔しい経験をお持ちの方も少なくないでしょう。その点で本書は大変優れていると断言できます。
最後に少し本音を言えば、「村田システム」を完璧に指しこなせるようになるまでは、変化が多岐にわたるため、少々難しいかもしれません。
しかしそれは、プロが考えた新戦法なので当然のこと。急戦策への対応の部分をしっかりマスターし(本当に丁寧なので大丈夫! でも、本当にしっかり、確実にマスターしてください)、次に各戦型、手段への対応をマスター、そして勘所をつかめば、必ず頼もしい相棒になることでしょう。
執筆:富士波草佑(将棋ライター)