ポンプ光により化学反応を開始し、遅延時間をつけた軟X線プローブ光で変化を観測するポンプ・プローブ法により、CHDの熱的開環反応の進行をフェムト秒の時間分解能で捉えた。この時、軟X線プローブ光は、フェムト秒近赤外レーザーパルスを使って発生させる。また、反応経路を区別するための吸収エネルギーは、高度な量子化学計算により固有反応座標を求め、反応経路上の軟X線吸収スペクトルを計算し、実験結果と比較したという。

CHDから開環反応の生成物である「1,3,5-ヘキサトリエン」に変化するにはエネルギー障壁を越える必要があり、2つの経路のうち、逆旋過程の障壁の方が低いため、反応は逆旋過程で進むと予測された。

今回の研究では、励起後のピークXの変化に注目。光励起後、ピークXの吸収が減少するが、340~500フェムト秒の間、高エネルギー側に新たな吸収の増加が現れたとする。そして、エネルギー準位図から、これが逆旋過程を進行する分子による吸収であることが確認された。これは、量子化学計算で反応が逆旋過程で進むと予測されたことと矛盾ないとする。

  • (a)量子化学計算によりわかった2つの反応経路と経路上の分子構造。(b)観測された吸収スペクトルを説明するCHDのエネルギー準位。開環途中(TS1)で吸収エネルギーが高エネルギー側にシフトする。シフトの方向で同旋過程(TS2)と区別可能。(c)CHDの軟X線吸収スペクトル。(d)時間分解吸収スペクトル。矢印は開環途中の構造(TS1)による吸収

    (a)量子化学計算によりわかった2つの反応経路と経路上の分子構造。(b)観測された吸収スペクトルを説明するCHDのエネルギー準位。開環途中(TS1)で吸収エネルギーが高エネルギー側にシフトする。シフトの方向で同旋過程(TS2)と区別可能。(c)CHDの軟X線吸収スペクトル。(d)時間分解吸収スペクトル。矢印は開環途中の構造(TS1)による吸収(出所:北大プレスリリースPDF)

今回の研究では、200フェムト秒程度という極めて短い時間に現れる吸収を捉え、反応経路を区別することが実現された。そして炭素原子の軟X線吸収スペクトルは、有機化学反応のメカニズムの解明のための敏感なプローブになることがわかるとしている。

また今回の成果から、これまでも化学反応過程を解明するための研究は盛んに行われてきた中で、軟X線吸収分光は新たな視点を与えることが確かめられたとする。加えて、軟X線吸収分光のような新しい観測技術と計算化学の進歩により、これまで想像の域を出なかった反応過程を明らかにすることができるとした。