マイナビは2月24日、「採用広報開始直前! 2024年卒新卒採用・就職活動の展望」と題した報道関係者向けの説明会を開催した。
第一部では、マイナビ キャリアリサーチラボ 主任研究員の東郷こずえ氏による「2024年卒新卒採用・就職活動の展望」と題した講演が行われた。
コロナ禍で過ごした学生はどう就活している?
2024年卒学生は、2020年4月に入学し、コロナ禍でずっと学生生活を送ってきた学年にあたる。
学業やアルバイトへの影響は徐々に緩和されてきたものの、マイナビが行った調査では、「サークル・部活動などコロナ禍でできなかったことがあるという認識を持っている」ことが示されたという。
就職活動の準備期における、1日仕事体験含む企業側のインターンシップの実施率は5割、学生側の推定参加率は8割で、「過去数年と同程度で推移しているが、WEBのみの実施が減少し、対面で実施する割合が増えたことが前年とは変化している」と説明した。
2023年2月実施の「マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査」によると、前年卒と比較して2024年卒の新卒採用は、文系・理系ともに「前年並み」が最多となった。しかし、「前年よりも増やす」と回答した企業数が大幅に増加しているという。
採用スケジュールについて、44.5%が「3月の広報活動とともに面接を開始」と回答。内々定出しを「4月開始」とする企業が28.7%と最多だが、「3月開始」も25.7%と肉薄し、採用意欲の高まりとともに面接・内々定出しの開始が前年よりは前倒し傾向にあるようだ。
「特に3~4月の内定率は前年(3月26.4%、4月47.3%(を上回って推移すると考えられ、6月以降はかなり珍しくなるだろう」と予測した。
人材獲得のための企業側の施策としては、職種別や勤務地・地域限定採用を予定している企業が増えているという。
「職種別コース」の導入を検討している企業は13%となり、既に導入している企業(38.5%)と合わせると半数以上にのぼった。同様に、「勤務地・地域限定採用」についても既に導入している企業(37.9%)に加えて、検討中が12.4%となり、半数に及んだ。
こうした傾向に対して、学生側の反応も好意的なようだ。
2022年11月実施の「マイナビ2024年卒大生インターンシップ・就職活動準備実態調査」では、"他の条件にもよる"という条件付きではあるものの、応募時に「最初の勤務地が限定されている」「配属される職種(仕事内容)が限定されている」場合それぞれ79.7%、74.1%が「応募意欲が高まる」と回答している。
職種別採用や初任給引き上げの取り組みは業界で差はある?
東郷氏によると、職種別採用の導入に関して取り組みが早いと感じるのはIT業界だという。
「製造業は以前から技術系職種は別で採用するのが一般的でした。そういう流れもあり、今もIT、製造業は職種別コースが設定されている割合が高いです。ただ、小売業のように、正社員は例えば販売職から始まって店長や本社部門へ異動していくなどジョブローテーションをすることでキャリアアップをすることが前提であるような業種は、むしろ職種を限定しないで採用することがアルバイトとは異なるというケースもあるので、この点はケースバイケースになります」と説明した。
また、就活生へのPRのために導入・改正した人事制度として、「初任給や基本給の引き上げの改正もしくは改正を検討している」と回答した企業が規模にかかわらず4割程度にのぼり、「今後もその傾向は高まると考えられる」と分析した。学生側はこうした動きに対して、68.2%が「その企業に対する関心が高まり、就職先としての志望度も上がる」と回答している。
初任給引き上げについては、業界や業種による差はあまりないという。
「新卒採用ならではの話になりますが、実績ベースではなくポテンシャル採用になりますので、一部の高度専門人材を除くと、個人による違いはありません。そのため、おおむね同程度の金額に収まるように設定されており、初任給をより積極的に引き上げようとする場合は、全体的に金額の低い場合に横並びを意識して調整される企業が多いような印象です。そのため、業種別の数値を見てもあまり違いが見られないと感じられると思います」(東郷氏)
ただし、「一律の初任給設定ではなく、最終学歴の区分や職種でより細かく設定することで、他業種と一線を画していると感じるのはIT業界になります。マイナビの掲載情報をご覧いただいてもわかると思いますが、大学院(博士)、大学院(修士)、大学、専門学校などと細かく区別して設定することで、特に、高度専門人材といわれる博士の方にきちんと金額的なメリットが生じるような設定をされている企業が多いと思います。新卒の初任給はどうしても一律になりがちですが、そのことによって、院卒の方の賃金プレミアムが生じず、大学院への進学者が先進国のなかでも際立って低いことが問題視されてきました。学生のスキル・能力を評価して採用することには、大学生にとってはやや厳しい条件になりますが、大学院卒の方にとってはこれまでの研究成果を適正に評価してもらえるという意味で、メリットが生じます」と補足した。
タイパを求める就活は危険?
第二部では、マイナビ キャリアリサーチラボ 研究員の長谷川洋介氏が「『タイパ就活』の実態~最新の就活事情を学生目線と企業目線でひも解く~」と題して解説した。
"タイパ(タイムパフォーマンス)"とは、一般的に物事にかけた時間に対する効果や満足度を意味する言葉だが、若者世代、特にZ世代の行動の特徴を表す言葉として、「今年の新語 2022」の大賞にもなった。
かけたお金、あるいは労力に対するパフォーマンスを"コストパフォーマンス"と称するのに対して、かけた時間に対するパフォーマンスのことを指すのが"タイパ"だが、時間あたりのパフォーマンスが高ければ「タイパが良い」という表現をする。
象徴的な行動としては、動画を倍速で視聴したり、動画SNS等にアップされた要約動画を視聴したりする例が挙げられる。
長谷川氏は「就職活動においてもその傾向は認められる」と解説。マイナビが行った調査では、約7割が「動画(オンデマンド)の企業説明会を早送りして見た経験がある」と回答しているとのことだ。
2024年卒生は、インターネットの情報やSNSのある環境で育った"デジタルネイティブ"や"ソーシャルネイティブ"と呼ばれる世代にあたる。
「限られた就活期間において、数多くの企業の中から学業や課外活動、プライベートと両立させながら効率的に自分の希望や将来のキャリアプラン等に合致した1社を選ぶという目的における一種の戦略として捉えることができる」と分析。
ただし、「あくまでタイパ=かけた時間に対する効果や満足度を意味するもので、単に時短、ショートカットだけを意味するわけではない」とも補足した。
就活において、"タイパ"を意識しているのは企業探しのフェーズだという。「インターンシップ・仕事体験への応募・参加、合同説明会(対面、オンライン)への参加など、興味ある企業を探すフェーズにタイパを重視する傾向にある。接することのできる企業の数を最大化しようとしている」と説明した。
一方、エントリーシートの作成や適性検査や筆記試験、面接など、企業探しで見つけた企業の中から絞り込まれ、インターンシップ参加や選考といった、次のステップに直結する進みたい企業へのアクションにおいてはタイパにこだわらない傾向にあり、「企業とのコミュニケーション精度を最大化しようとしている」と分析。
タイパ就活のメリットについて、学生側に調査した結果では、51.1%が「メリットとデメリットが半分半分」、45.8%が「メリットのほうが多い」と、合わせると96.9%が少なくともメリットを感じていることになる。
一方で、デメリットとして挙げられた声を(1)情報の取りこぼしが起き、機会損失の懸念がある、(2)視野が狭くなり選択肢が逆に狭まる懸念がある、(3)使い分けを間違うと逆効果になる―とまとめた。
企業側も学生が就職活動でタイパを重視することを70%が「良い部分も悪い部分もあると思う」、24.5%が「どちらかというとよいことだと思う」回答している。
デメリットに関する意見では、(1)得られる情報が表面的になり、必要な情報を取りこぼしてしまうことで、準備不足・理解不足につながる、(2)準備不足や理解不足が原因となり、学生の起業のミスマッチにつながる、(3)効率を意識すぎることへの不安―と総括した。
このような調査結果を踏まえると、タイパ就活に関する評価は、学生・企業側ともにおおむね一致していると考えられる。長谷川氏は、学生が意識すべきこととして
(1)企業探しの際、得られた情報だけで本当に十分か(取りこぼしがないか)という視点を常に持つ必要がある
(2)タイパを意識すべきこと、逆にタイパにこだわらずに取り組むべきことを理解・整理する
(3)タイパを使い分け、必要な部分では企業とていねいにコミュニケーションを取る
の3点をアドバイスして話を締めくくった。