日本では数少ない成長産業、かつ高収入が期待できることもあり、就職・転職先としても注目が高まっているM&A業界。ドラマや小説のイメージが先行しがちだが、実のところ、M&Aコンサルタントは譲受企業・譲渡企業の双方に喜ばれる、社会貢献性の高い仕事ともいえる。

そんなM&A業界で求められる人物像や仕事のやりがいについて、株式会社日本M&Aセンター 人材戦略部 部長 中村健太氏に聞いた。

M&Aへの理解が進むにつれて業界への希望者が増加

――まずは中村様の経歴と現在の業務内容についてお聞かせください。

  • 株式会社日本M&Aセンター 人材戦略部 部長 中村健太氏

2005年に、新卒1期生として日本M&Aセンターに入社しました。就職活動をする中で、M&Aコンサルタントの仕事が一番明確にイメージでき、「この仕事は絶対に面白い! この仕事なら絶対に成長できる」と感じたのが入社の理由です。

入社後は、西日本を中心に15年間M&Aコンサルタントとして勤務しました。2020年4月に東京に異動となり、社員の育成や組織作りを担う人材戦略部を立ち上げ、現在は人事全般を担当しています。

――M&Aが社会に浸透しつつある中、M&A業界への就職・転職を希望する方も増えているのでしょうか?

当社への応募人数も年々増えていて、M&A業界に関心を持つ方が増えていることを実感しています。やはり皆さん面白い仕事を求めているんでしょうね。会社の譲渡・譲受は、経営者にとって人生で最も大きな決断のひとつです。M&Aコンサルタントはその大事な場面をサポートし、ときにリードしたり背中を押したりする仕事なので、やりがいやダイナミズムを求める人にはぴったりはまる仕事だと感じています。

加えて、日本の多くの産業が縮小傾向にありますが、M&Aはまだまだ拡大していく産業なので、「成長性」という観点からもM&A業界に関心を持つ人が増えています。

フィールドによって異なるM&Aのあり方

――M&Aに携わるフィールドは、銀行・証券、ファンド、コンサルティングファーム、仲介などさまざまですが、それぞれの特徴を教えてください。

銀行・証券会社のM&Aは、日頃取引のある顧客が対象で、一方に寄り添う「アドバイザー」としてM&Aを行います。また、金融機関が携わるM&Aは大規模なものが多く、20~30人程度のチームが1つの案件に関わって、役割ごとに業務を分担します。同様に、コンサルティングファームが手がけるM&Aも大規模案件が多く、ベテランがプロジェクトマネジメントを行い、アソシエイトが実務を担うという分業制です。

一方、ファンドは自身が譲受側、あるいは譲渡側いずれかのプレイヤーの立場としてM&Aを行います。

当社のようなM&A仲介企業は、どちらか一方のアドバイザーとしてではなく、「仲人」として、譲渡側と譲受側、両者にとってWin-Winになるようアドバイスを行います。また、金融機関等が手がけるM&Aに比べると、仲介企業が手がける案件は小規模なものが多い傾向にあります。

M&A業界で求められる人物像とは-重要なのは、“潜在ニーズ”を顕在化させる力

――M&A業界で、実務を担う人材に求められる知識やスキルについてお聞かせください。

  • ※画像はイメージです

究極のところ、M&Aコンサルタントに求められる資格や専門知識はこれといってありません。新卒はもちろんのこと、当社の場合、中途で入社される方も全員未経験なので、「こんな学部を出ていないと」「前職でこんな知識をつけていないと」というのはないんです。

ただし当社では、経営の世界の共通言語として、社員全員が簿記2級を取るようにしています。

――ビジネススキルやヒューマンスキルの面では、どのような人材が求められるのでしょうか。

やはり、お客様と直接コミュニケーションを取る仕事なので、中途採用でコンサルタント職に就くのは、経営者を相手とした営業の経験がある方が多いです。M&A業界に興味のある方に知っておいてほしいのが、M&Aは経営者にとって大事な決断だからこそ、1件1件にかかる時間も長いということです。

M&Aコンサルタントの成約件数は、多い人でも年間10件程度で、1件のディールにかかる期間は短くて半年、長くて1年以上になります。そのため、ある程度長いスパンで物事を捉えた上で、しっかりと仮説を立てて、ビジネスを遂行していく力が求められます。

さらに、M&Aへのニーズが高まっているのは間違いありませんが、そのほとんどが潜在ニーズだという特徴があります。したがって、M&Aコンサルタントには、日頃の営業活動にを通して、潜在ニーズを顕在化させる力が求められます。M&Aコンサルタントの営業活動自体が、ひとつの社会課題解決のアプローチなのです。

さきほど中長期的視点を持つことが大切だと述べましたが、潜在ニーズを顕在化させるには、まずはお客様に会って話を聞いてみるという、素直さとフットワークの軽さも欠かせません。

M&Aコンサルタントのリアルな魅力をもっと知って

――人材の採用や育成について、M&A業界全体における現状と課題をお聞かせください。

採用に関しては、コンサルティングや総合商社などの人気業種と戦わなければならないという難しさがありますが、それ以前の課題として、M&Aコンサルタントという仕事の魅力自体が正しく伝わっていないのが現実です。

M&Aがあまり身近ではないため、理解が深まりにくいというのもありますし、小説や映画の影響もあるでしょう。M&Aコンサルタントという仕事のリアルな魅力を、もっともっと知ってもらうことが大事だと感じています。

育成に関しては、育成される側の人数が圧倒的に多く、M&Aコンサルタントを育成する人材が足りないという課題があります。M&Aコンサルタントは、10件以上成約しないと「一人前」とは言えない世界ですが、最初から最後まで、自力で10件以上成約しようと思うと最低3年はかかります。M&A仲介企業はここ2~3年で設立された企業も多く、育成を担えるほどのノウハウを持っている人が不足しているので、業界全体でしっかりと実績を積み上げていくことが求められていますね。

M&A業界はこれからが「めちゃくちゃ面白い」

――人材の確保・育成に関して、御社が今後注力したいことや目指していることをお聞かせください。

コンサルタントの採用を増やして、しっかりと育成していくことに加えて、人材の幅・組織の幅を広げていきたいと考えています。

M&Aは全産業に関わる仕事なので、すでにメーカーなどさまざまな業界出身の方を採用しています。また、現状は女性の割合が少ないので、女性のコンサルタントの採用や、女性のコンサルタントが活躍できる環境整備にも取り組んでいます。性別や現在のフィールドに関係なく、M&A業界に興味を持っていただければと思います。

M&Aコンサルタントの仕事を知ってもらうための新しい取り組みとして、2023年4~6月にかけて、M&A業界に特化した転職イベント「M&A DRAFT」が開催されます。プロ野球のドラフトのM&A業界版で、当社を含め、M&A仲介企業6社が参画します。どのような方にお会いできるか、私自身とても楽しみです。

――最後に、M&A業界に興味のある方へのメッセージをお願いします。

率直に言って、M&A業界はめちゃくちゃ面白いです。しかも、これからが面白いです。M&A業界は今後10~20年で極めて大きく変化していくと思うので、今この業界に飛び込む学生さんが羨ましくて仕方がありません。

私が入社してからの18年間で、20人だった社員が1,000人になる変化を経験しましたが、20人が1,000人になるよりも、1,000人が1万人、2万人になるほうが、社会に与えるインパクトも業界自体も大きく変化するタイミングです。今M&A業界に飛び込めば、社会人としてど真ん中に立つ40代・50代になる頃にはすごいことになっているはずです。

停滞感・閉塞感が強い日本において、これほどダイナミックに変化する業界はなかなかないので、大きな変化を楽しみながら取り組める方には、これほどやりがいのある仕事はありません。20年後、30年後のM &A業界は、それ自体が日本経済や世界における日本の位置付けを変える産業だと考えているので、1人でも多くの方に興味を持っていただけると嬉しいです。