ソニーネットワークコミュニケーションズは3月8日、MVNOサービス「NUROモバイル」に関する記者発表会を開催しました。新料金プラン「NEOプランW」をはじめとして、5つもの新情報を続々と公開。各サービスの内容は別途ニュース記事でもお伝えしていますが、本稿では提供背景なども含めた全体像をレポートします。
5つの取り組みを一挙発表、NEOプラン関連のテコ入れが中心
はじめに今回の主な発表内容を整理しておくと、以下の5点が新たな取り組みです。
- 40GB/3,980円の新料金プラン「NEOプランW」(※ニュース記事)
- トリプルキャリア対応をNEOプランにも拡大(※ニュース記事)
- NEOプラン以外でもNEOプランの通信品質を体験できる「NEOトライアル」(※ニュース記事)
- 3月下旬から契約者向けアプリを提供予定(※ニュース記事)
- 2023年度上期中にeSIMの提供を開始予定(※ニュース記事)
まず注目は「NEOプランW」。低廉な料金プランが主戦場となっている国内のMVNO市場において、40GBという大容量プランの登場は比較的珍しいですし、1GBあたりの単価で考えれば割安ではあるものの、3,980円という料金設定は見方によっては「そこまで出すならMVNOではなく、大手キャリアのオンライン専用プラン(ahamoやLINEMO)や使い放題の楽天モバイルにしようかな」と流れていってもおかしくないラインです。
しかし、元になった20GB版の「NEOプラン」で独自のアプローチを取ってきたがゆえに、このようなヘビーユーザー寄りのプランを作っても受け入れられる土壌が育っている点はNUROモバイルの特徴といえます。
どういうことかというと、NUROモバイルの料金プランのうち、今回の新プランを含むNEOプラン系統(NEOプランLite/NEOプラン/NEOプランW)は、他のプランとは隔離された専用帯域が割り当てられており、MVNOのビジネス構造上とても難しい「通信品質」を売りにしてきました。
具体的にどのように差別化を図っているのかはもちろんMNOとの契約も絡む営業秘密であり公に明かされる話ではありませんが、バリュープラスなどの安さを求めるユーザーに向けたプランと混雑時間帯などに左右されにくい安定した速さを求めるユーザーに向けたプランの運用を切り分けることで、おそらく前者はそれ相応に原価を抑え、後者は一般的なMVNOの料金プランよりは少し高めでも許容されるユーザー層と考えて回線数あたりの帯域幅を多めに取っている(コストをかけている)のだろうと推察はつきます。
今回の発表はこれまでの方針を大きく変えるものではなく、2021年から続く「NEOプラン」「バリュープラス」の二本柱という構成はそのまま、主にNEOプラン側のサービスを強化するものです。
40GBプランの登場以外に目を向けても、従来はバリュープラスのみだったau回線・ソフトバンク回線をNEOプランでも選べるようにしたり、バリュープラスや旧料金プランのユーザーに100MB/110円でNEOプランの通信品質を試してもらえる「NEOトライアル」というオプションサービスを作ったりと、NEOプランに力を入れていることが見て取れます。それは後述のユーザーアンケートに現れた満足度の高さなどの反響を踏まえて、「通信品質・通信速度重視のMVNO」という鬼門とも言えるチャレンジに十分な勝算を見出せていることの現れでしょう。
改良の判断材料は「ユーザーの声」
NEOプラン関連のトピックを除くと、全ユーザーに関わる改良点としては「契約者向けアプリ」と「eSIM」が発表されました。その理由として提示された資料からは、ユーザーの声を敏感にキャッチしながらサービスを組み立てている様子もうかがえました。
実は、既存のNUROモバイルユーザーを対象に行われたアンケートのなかで、「NUROモバイルに今後期待していること」という設問では、「安定的に通信速度が出ること」に続いてトップ3にランクインしたのがアプリとeSIMの2点でした。NEOプランWのような新料金プラン、つまり従来の最大容量だった20GBを超えるプランの追加に関しても、前回調査との比較で伸びていた項目だと言います。
このアンケートは2023年1月に実施されたものであり、アプリの開発期間やeSIMの提供にあたってのキャリアとの交渉期間を考えると額面通り「これが理由」とは考えづらいというのが率直な意見ですが、少なくともこのアンケート結果に近いユーザーの声をそれ以前にリサーチできていたとは思われます。
ちょうど1年前に開催された「NEOプランLite」の発表会では、大手キャリアのオンライン専用プランの登場など、政府の値下げ要請に端を発するMVNOにとって厳しい市場環境の変化のなかでも、前年度の3.5倍に及ぶ新規契約を獲得できていることがトピックのひとつとして挙げられていました。
今回は直接比較できるようなデータはありませんでしたが、その後も加入者数は順調に拡大しており、市場の流動性が高まったことによって心配される解約数(MNP転出数)の増加も、大きな影響を受けるほどの変化は現状起きていないとのこと。制度設計が進められている「転出先の手続きのみでMNP」(転出元でのMNP予約番号取得手続きをなくすワンストップ化)が実現すれば今後ますます流動性が高まる可能性もありますし、そのような状況では単純比較されやすい安さを軸にしたプランよりも、個性の強いNEOプラン系に力を入れる方針は納得できるものです。