既報のように、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月7日10時37分55秒、H3ロケット初号機を打ち上げたものの、第2段エンジンが着火せず、指令破壊信号を送信。先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を軌道に投入できず、打ち上げは失敗した。JAXAは前年10月、イプシロン6号機の打ち上げにも失敗したばかりだった。
JAXA統合前ではあるが、日本ではH-IIロケット8号機が1999年11月、M-Vロケット4号機が2000年2月と、やはり液体/固体の両ロケットの失敗が相次いだときがあった。今回も日本の宇宙開発にとって大きな試練の時期になるのは間違いなく、信頼回復に向け、JAXAは山川宏理事長を長とする対策本部を設置。原因の究明を急ぐ。
現場取材の状況は!?
この日、打ち上げを取材するため、筆者は朝6時に種子島宇宙センター入り。当初の打ち上げ予定日だった前日はやや雲が多かったのだが、この日は快晴で、絶好の打ち上げ日和である。3月とは思えないような暖かさの中、屋上の展望台で撮影の準備を終わらせると、ドキドキしながら打ち上げの時を待った。
カウントダウンは順調に進み、第1段エンジン「LE-9」の燃焼がスタート。前回はここで止まってしまったが、対策後の今回はシーケンス通りに固体ロケットブースタ(SRB-3)に点火され、眩しい光を放ちながら、機体は飛行を開始した。遮る雲もなく、約2分後にはSRB-3の分離までしっかり見ることができた。
その後、衛星フェアリングの分離も無事完了。LE-9は計画通り約300秒の燃焼をしっかり果たし、第1段・第2段の分離までは、まさに完璧な成功だった。
しかし、ここで事態は急転直下。第2段エンジンの着火が確認できていないというアナウンスが入り、不穏な空気になり、続いて指令破壊信号を送ったということで、打ち上げの失敗が確定。ドタバタしながら、14時開催の記者会見を待った。
第2段エンジンに何が起きた?
H3ロケットは、新型の第1段エンジンの開発に難航し、完成が2年遅れていた。それだけに、注目されていたのは第1段で、新規開発のLE-9、SRB-3、フェアリングが全て役割を果たしたときは、筆者も「成功しただろう」と思ってしまっていた。第2段エンジンはH-IIAの改良型のため、関係者にとっても「まさか」という思いだっただろう。
第2段エンジンが着火しなかったことから、第2段と衛星は弾道飛行のまま、フィリピン東方海上に落下したと推測される。なお、この領域は事前に第1段の落下予想区域として警告が出されていた場所であり、人的被害などは報告されていない。
失敗の原因については、今のところ、まだ何も分かっていない。確認できている事実は、第2段エンジンの着火が行われなかったことと、それを受け、10時51分50秒に指令破壊信号を送出したということのみ。なお着火しなかったことは、実際に推力が発生していないことからも、事実であることが確定している。
イプシロン6号機のときは、当日の記者会見においてすでに姿勢異常が明らかになっていたのだが、今回はそういった異常も特に見当たらず、なぜ着火しなかったのか、岡田匡史プロジェクトマネージャも「呆然としている状況」だという。
着火しようとしたのに着火しなかったのか、それともエンジンに着火信号が届かなかったのかも、現時点では不明。このあたりは、今後の続報を待つしか無いだろう。ただその一方で、岡田プロマネは「第一印象」と断った上で、「最初に網をかけようとしているのは電気系統」とコメントした。
H3の第2段エンジン「LE-5B-3」は、H-IIAで使われていた「LE-5B-2」の改良型。比推力が446.8秒→448秒、燃焼秒時が534秒→740秒と向上しており、そのためにミキサーや液体水素ターボポンプ(FTP)のタービンなどの設計変更はあったものの、「LE-5B」という型番を継承していることから分かるように、それほど規模の大きな改修ではない。
LE-5Bはこれまで、打ち上げで一度も失敗したことがなく、信頼性が非常に高いエンジンだった。可能性はまだ捨てきれないものの、第一印象としては、ここでの異常というのは、少し考えにくいところではある。
今後、影響は様々なところへ
気になるのは、H3ロケット2号機の打ち上げがいつになるのか、ということだが、現時点ではなんとも言えない。問題の原因次第で、対策に要する時間は大きく変わるため、見通しは不透明だ。2月の打ち上げ中止のように、プログラム改修だけで済むようなものであれば数カ月で対策できる可能性もあるが、1年以上かかることも無いとは言えない。
すでにH3ロケットは計画より2年遅れているため、ここに来てのさらなる遅延は、待っている衛星側にとっても非常に辛い。火星衛星探査計画「MMX」のように、打ち上げられる時期が限られるミッションなどもあり、状況次第によっては、代替手段が必要になる場合もあるかもしれない。
現行のH-IIAは、H3の完成後に退役する予定だった。H3再開までの空白期間が生じた場合、それを埋めるために退役を延期する可能性があるのかどうかについては、JAXAの布野泰広理事が「今後、総合的に判断していくが、あり得ない選択肢では無い」とコメント。ただ、枯渇部品の問題なども抱えており、それを解決する必要はある。
また、試験機である初号機にいきなり実衛星を搭載して良いのか、という議論も再燃しそうだ。結果的に、今回は防災・災害対策での期待が非常に高かった先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を失ってしまった。
もし初号機にダミーペイロードやキューブサットなどを搭載するのであれば、そういったリスクは無くなるが、ロケット1機分、開発費が上がってしまう。これまで、初号機への搭載はH-IIBやイプシロンでもやってきたとはいえ、今後もそれで良いのかについては、改めて考える必要があるかもしれない。