使い手の人々との共創で見えてきた課題を解決

鈴木氏が「シン・オートコール」を開発する中で最も大切にしたことは、実際に使う人々と共創することだ。鈴木氏は90以上の自治体や警察・消防機関などを周り、意見を聞いたという。「完成したシステムを導入して人がそれに合わせるのではなく、使う人にシステムが合わせるというフィッテイングを大切にしました」と同氏はいう。

自治体を周るうちに、共通している課題や困りごとも見えてきた。それは、「防災無線が聞こえにくい」「問い合わせが自治体に殺到するなど職員への負荷が大きい」といったことだ。

「はい」「いいえ」と回答する形式にしたのも、音声認識の精度の現状と方言を考慮した結果だ。音声についても、AIが生成した音声ではなく、市長が名乗った後に「私も逃げるので、みなさん必ず逃げてください」などと語りかけたら効果がある場合は、録音した音声を使うこともできる。

住民側も「はい」「いいえ」だけでなく、自由に話せるように設定できる。もし、何かしらの被害を受けた場合は、「怪我をしています」「動けません」など、自分の状態を伝えることが可能だ。管理画面では、読み取った文章を表示するだけでなく、住民の声を再生できるボタンも用意されているので、住民の生の声を確認でき、折り返しや伝言等の業務について省力化が期待できる。

そして、鈴木氏が何より大切にしていることは、事前のトレーニングだ。いきなり「シン・オートコールを」導入するのではなく、防災訓練で使ってみて、自治体も住民もよいと判断してから本格導入してもらいたいという。

鈴木氏は、地域の方々と目線を合わせるために作業服で訪問するなどの工夫もした。その甲斐あってか、地域に入り込まなければ得られないような信頼関係も芽生え始めているという。岩手県の総合防災訓練では、担当者が「NTTのコンピュータから電話がかかってくる」と住民に話し、それが住民の間で広まることで、訓練がスムーズに進んだそうだ。

「地域に入り込む」×「アジャイル開発」で社内も顧客も変わる

鈴木氏が所属する特殊局は、アジャイル開発を積極的に推進している。そうした姿勢は、いい変化を生んでいるという。「社外のベンダーさんにシステム開発をお任せしていた頃と比べると、バグがあれば自分たちが修正しなければならない、と覚悟が変わってきます」と同氏。

これに加え、自治体と一緒に作る共創の形をとることで、相手の反応にも変化を感じているという。「『うまくいかない』『こうしてほしい』などの連絡を受けたら、『わかりました。修正します』とその場で対応します。すると、お客様は『そんなことがすぐにできてしまうの?』となる。これまでならクレームと言われていたものが、改善点につながります」と、鈴木氏はアジャイル開発のメリットを語った。

社内でも変化が出始めている。技術部隊である設備部門が、自分たちでシン・オートコールを作ろうという動きもあるという。例えば、テルウェル東日本が落札した東京都の特殊詐欺啓発事業ではシン・オートコールが組み込まれたシステムを構築、設備部門が担当する予定だ。

これまでは設備の保守を中心に行っていた設備部門だが、内製化の掛け声の下でルータやサーバの工事を実施する動きが広がっており、今後、同部門のビジネスはクラウドに拡大していく予定とのこと。

鈴木氏が開発した「シン・オートコール」は、自治体の防災対策ソリューションとして訴求していくと同時に、ターゲットも広げていく。その例が福祉分野だ。「防災ともつながりが強く、健康確認において『シン・オートコール』の仕組みを使うことで、人手不足に悩んでいる福祉協議会の方々をサポートできるのではと考えています」と、鈴木氏は今後の展望を力強く語っていた。