現在放送中のカンテレ・フジテレビ系ドラマ『罠の戦争』(毎週月曜22:00~)は、愛する家族を傷つけられた議員秘書が知略を尽くして鮮やかな“罠”を仕掛け、悪しき政治家を失脚させる痛快エンターテインメント。女優の小野花梨は、草なぎ剛演じる主人公・鷲津亨から信頼され、仕事ができて気の利く後輩秘書の蛍原梨恵を演じている。

今年1月には「第46回 日本アカデミー賞 新人俳優賞」受賞の発表された小野だが、「自分にはそんなことは起こらないと思って生きてきた」と心情を吐露する。今回は女優歴17年、「夢はない、すべては結果論」と語る小野に、『罠の戦争』第2話ラストの「あんたのせいで悔しくて眠れない夜が何度あったか」と感情をぶつける雨の中のシーンの演技プランや、役作りに対する葛藤など、“芝居”を中心に話を聞いた。

  • 女優の小野花梨 撮影:泉山美代子

    女優の小野花梨 撮影:泉山美代子

――『罠の戦争』第2話のラストでは、小野さん演じる梨恵が、これまでパワハラをしていた虻川(田口浩正)に雨の中、「あんたのせいで悔しくて眠れない夜が何度あったか」と感情をぶつけるシーンがありました。どんな思いで演じましたか。

カラッと笑い飛ばす、悔しがって涙を流す、いろいろな選択肢のあったシーンでした。でも仮に自分をいじめていた相手が失脚したとき、素直に喜べる人間がどれだけいるでしょう。感情ってそんな単純なものではなく、落ちていく姿を見てどこか一緒に傷つく心があって然るべきなんじゃないかな、と。あの場面で嘲笑ってしまうような梨恵なら私は愛せないと思ったし、逆に涙を流すほど弱い人間ではない。後に監督とも「あのシーンの塩梅、難しかったよね」とお話ししたのですが、感情の複雑さを捨てずに、リアルさを追求して選択したのがあのお芝居だったので、反省点はありつつも、1つの正解を選べたのではないかなと思います。

――梨恵を演じるにあたり心がけていることや、小野さんが決めたルールはありますか。

個性豊かな登場人物ばかりで、皆さん印象に残るキャラクター作りをされているので、私もそういった役を作ろうと思えば作れたかなと葛藤もありました。でもどこかのタイミングで「皆さんのお芝居を受け止める“引く演技”」をしなければ自分がこの役をやる意味がないと気付いて、演技の選択肢にぶつかったときは、その思いを基準にできるだけリアルな嘘のないキャラクターを作っていこう、と。

  • 小野演じる蛍原梨恵=カンテレ提供

――意地悪な質問になりますが、敢えて濃いキャラクターを作って爪痕を残したいという欲は湧き出てこないのでしょうか。

欲はありませんが、キャラの濃い皆さんに囲まれて、「自分はこれで大丈夫かな、この役割を担うことで楽をしていないだろうか」と不安になることは少しだけありました。今は自分を信じて、監督を信じてこの役割を全うしていこうと覚悟を決めています。

――ここからは小野さんのお話もお伺いしたいのですが、1月には「第46回日本アカデミー賞」新人俳優賞受賞者が発表され、小野さんがその1人に選ばれました。おめでとうございます。

ありがとうございます。

――一報を聞いたときのお気持ちを教えてください。

いや、もう「信じられない」という気持ちでした。女優のお仕事を長くさせていただいている中でこんなご縁は一切なかったので、自分にはそんなことは起こらないと思って生きてきましたし、起こらなくても大丈夫だと思っていました。でもいざ賞をいただけると本当にうれしくて。「ここまで育ててくださってありがとうございます」と周囲への感謝でいっぱいになりました。

――こういった賞や主演など、“分かりやすいもの”への憧れはあまりないのでしょうか。

そこに執着したら大事なものがこぼれてしまうような気がして。もっと大事なことがたくさんあると思うので、主演や賞といったものにこだわってきたことはありません。

――小野さんは現在24歳で女優歴17年。およそ3分の2が今のお仕事をしている人生という、この年齢の社会人ではありえないような職歴をお持ちです。女優を辞めたいと思ったことはありましたか。

学生の頃は、「やせたーい」みたいな軽い気持ちで「やめたーい」と思ったこともありましたが、本気で辞めたいと考えたことは一度もありません。女優を辞めてしまったら私には何も残らないという思いが大きかったです。

――女優という職業にどんな面白さを感じていますか。

難しいですが、1人では到底成り立たなくて、毎分毎秒たくさんの方に助けていただいているお仕事なので、「人との出会い」は外せないポイントだと思います。いろいろな人に愛してもらって、いろいろな人を愛して、どれくらいの人間が関わっているのか想像もつかないくらいの人数の方が携わって1つの作品ができ上がる。その一部になれている喜びは自分にとって大きいです。

――『罠の戦争』には「誰かの目指してた夢、笑ったらダメだよね」という梨恵の台詞がありました。小野さんの夢は。

私は夢があまりなくて、欲しいものもあまりなくて、すべては“結果論”だと考えています。日々いろいろなことを感じながら必死に生きた結果、自分の納得する位置にいられたらいいなと。頑張った結果、どんな場所にいられるのかは気になりますが「ああなりたい」「あそこへたどり着きたい」という欲はありません。大きな夢を追うよりも、私にとっては“必死に生きた結果論”のほうが大事な気がしています。

――その結果論は「女優であり続ける」ことが前提ですか。

それが理想ですが、女優は求められなければ成立しないお仕事。そのために、どんな年齢になっても、何年経っても、誰かに求めていただける女優さんでいなきゃいけないなと思います。

――ありがとうございました。これからも小野さんの女優人生を楽しみにしています。

■小野花梨
東京都出身。2006年にTBS系ドラマ『嫌われ松子の一生』で女優デビュー、2008年、『チーム・バチスタの栄光』で映画初出演、フジテレビ系ドラマ『CHANGE』で初の連ドラレギュラー出演を果たす。2021年にはNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で朝ドラ初出演、2022年はカンテレ・フジテレビ系ドラマ『恋なんて、本気でやってどうするの?』、MBS・TBSドラマ『ロマンス暴風域』などにレギュラー出演。2022年に出演した映画『ハケンアニメ!』で、「第46回日本アカデミー賞」新人俳優賞受賞。