研究としては、シリコン基板上で合成されたW6Te6ナノファイバーと固体インジウム(In)が試験管に入れられ、真空にして約500℃で加熱。Inの蒸気にナノファイバーを晒すことで、細線の隙間にIn原子の侵入が試みられた。作製されたナノファイバーの断面が原子分解能電子顕微鏡で観察されたところ、In原子が9つのTe原子によって配位された状態で、3本のW6Te6細線に囲まれた隙間に入り込んで充填している様子が確認されたという。In原子挿入前の二元系TMCの形態が反映され、三元系TMCナノファイバーはネットワーク構造を保持していることが明らかにされた。
また、1本のナノファイバーに電極を作製し、電気抵抗の温度依存性が調べられたところ、温度下降と共に電気抵抗が減少する金属的な振る舞いが観察されたという。この結果は、第一原理計算による金属的な電子状態の予測とも一致するとしたとのことで、このような金属的な振る舞いは、作製されたナノファイバーが比較的高い結晶性を維持していることを示唆しているとする。
さらに、ラマン散乱分光測定と理論的な解析を用いて、ナノファイバーが入射光の偏光方向に依存した散乱特性や格子振動の特徴を示すことが見出されたとのことで、この結果は、電子顕微鏡による断面観察と同様に、目的とした結晶構造を持つ三元系TMCが合成されたことを示しているという。
なお、今回利用された手法は金属蒸気に試料を晒すという簡便なものであり、In以外のさまざまな原子にも適用可能なことから、これまでに実現されていない組成の三元系TMCナノファイバーの実現も期待されると研究チームでは説明しているほか、このような原子の挿入技術は、ナノファイバーの電気伝導特性の理解と制御にも有用だとしている。また、今回の研究で明らかにされた結晶構造や格子振動に関する知見は、TMC系材料の評価のための重要な指針となるともしており、今後、新たなTMCの物質開発や作製技術の高度化を通じ、超伝導特性を示す柔軟かつ安定なナノファイバーの実現や微細な配線・透明電極・導電性複合材料などの応用に結びつくことも期待されるとしている。