渡辺明棋王に藤井聡太竜王が挑戦する第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負(共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟主催)は、第3局が3月5日(日)に新潟県新潟市の「新潟グランドホテル」で行われました。対局の結果、174手の熱戦を制した渡辺棋王がスコアを1勝2敗としてカド番をしのぎました。

渡辺棋王の定跡提示

藤井竜王の2連勝で迎えた本局は、第1局・第2局に引き続き角換わり腰掛け銀の定跡形に進みます。この戦型における基本図となる局面で飛車を4筋に回ったのが後手の渡辺棋王の用意した変化。先後同型を避けつつ守備陣を整え、先手からの攻めを誘う意味合いがあります。これに対し先手の藤井竜王が単騎の桂跳ねを敢行して盤上は中盤戦に突入しました。

藤井竜王の跳ねた桂は「桂の高跳び歩の餌食」の格言通り捕獲される運命にありますが、この代償に得た歩で後手の右桂を取り返すのが定跡化された対応。4年ほど前から指されている変化ということもあって両者速いペースで指し手を進めます。対局開始から1時間、手数にして60手を過ぎたあたりでようやく前例を離れ、ここから二人の戦いが始まりました。

渡辺棋王がリード築く

盤面左方での競り合いが落ち着いた局面は一つの分岐点です。先手としては遊び駒の左桂を活用して相手に手を渡しておけば無難ですが、実戦の藤井竜王は玉を自陣三段目に上がる力強い一手で積極的に局面を動かしにいきました。玉が戦場に近づくデメリットはあるものの、後手の攻めの拠点となる垂れ歩を除去してあわよくば完封を狙う構想です。

攻撃陣の圧迫を見せられた後手の渡辺棋王は、一直線の斬り合いに活路を見出します。7筋における駒の取り合いは多くの駒が入り組む複雑な攻防で、このあたりの手順は感想戦でも重点的に検討されました。結果的に、ここでの応酬で自玉を安全な右辺に退避させることに成功した後手の渡辺棋王がペースをつかんで盤上は終盤戦に突入しました。

藤井竜王痛恨の詰み逃し

手番を握った渡辺棋王は、先手陣に作った成桂を起点に藤井玉への寄せの網を絞ります。防戦一方の藤井竜王が玉を盤面右方に逃れて逆転の可能性を求めたのに対し、2筋に桂を打って待ち伏せしたのが「玉は包むように寄せよ」の格言通りの好手でした。盤上と駒台合わせて6枚による渡辺棋王の手厚い攻めを前に、藤井玉はいつの間にか風前の灯火です。

優勢を築いた後手の渡辺棋王ですが、決め手をつかめないまま最終盤を迎えます。20手以上にわたって続く一分将棋の秒読みのすえ、先に打った桂を1筋に成り込んでいったのが危険な決め方でした。これによって藤井玉は確かに受けなしになるものの、同時に先手の飛車の利きが素通しになるため、この瞬間だけ渡辺棋王の玉の方に詰み筋が生じています。

一瞬のチャンスを見出した藤井竜王も秒読みのなか必死に勝ち筋を探ります。58秒まで読まれて掛けた飛車での王手は自然な継続手に思われましたが、これが藤井竜王痛恨の敗着になりました。すぐに自身の詰み逃しに気付いた藤井竜王は顔をしかめて肩を落とします。終局時刻は20時13分、最後は藤井竜王の王手ラッシュを打ち歩詰めの筋でしのいだ渡辺棋王が九死に一生を得て防衛に望みをつなぎました。渡辺棋王の1勝2敗で迎える第4局は3月19日(日)に栃木県日光市の「日光きぬ川スパホテル三日月」で行われます。

  • 勝った渡辺棋王(右)は対藤井竜王戦の成績を3勝15敗とした(提供:日本将棋連盟)

    勝った渡辺棋王(右)は対藤井竜王戦の成績を3勝15敗とした(提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)