プログレスMS-21からも冷却剤漏れ
ソユーズMS-22の事件が一段落し、代替となるソユーズMS-23の打ち上げ準備作業が続いていた2月11日、今度は「プログレスMS-21」補給船からも冷却剤が漏れ出す事故が発生した。
プログレスMS-21は昨年10月26日に打ち上げられ、2日後の28日にISSとドッキングし、補給物資などを送り届けた。その後はISSで出た廃棄物などが積み込まれ、2月18日にISSから出航、大気圏に再突入して燃え尽きる予定だった。
ソユーズMS-22のときと同様に、ISSに滞在している宇宙飛行士への危険はなかった。しかし、わずか2か月のうちに、異なる宇宙機でほぼ同じような事故が起きるということは前代未聞であり、原因や対応をめぐって大きな混乱が生じることとなった。
宇宙機に微小隕石が衝突すること自体は起こりうる。だが、それが一度だけであればまだしも、わずか2か月のうちに、異なる2機の宇宙機のほぼ同じ場所に、同じように微小隕石が衝突し、そして同じような事故を引き起こすということは確率的に考えにくい。もし確率的に十分起こりうることなら、ISSが運用されてきたこの四半世紀のうちに何度も起きているはずである。
こうした中、逆に有力視されたのが、品質不良が原因という可能性である。前述のように、ソユーズMS-22の事故調査ではこの可能性は否定されていた。しかし、プログレスMS-22で同様の事故が起きたことで、たとえば欠陥を抱えた同じロットの部品を使っていたり、そうした不良を試験で確かめるということが行われていなかったりといったことが原因と考えるほうが、説明はつきやすい。とくに、ソユーズとプログレスは構造や使用部品の多くが共通しているため、同じ時期に相次いで似たようなトラブルを起こした理由としても説明がつく。
また、ロシアの有人宇宙開発をめぐっては、この5年間に限っても品質不良が原因となった事故が相次いでいる。2018年には、「ソユーズMS-09」宇宙船に製造時に誤って開けられたと見られる穴が見つかり、空気漏れが発生。同じ2018年には、「ソユーズMS-10」宇宙船の打ち上げが失敗した。さらに2021年には、ISSの新モジュール「ナウーカ」が意図せずスラスターを噴射する事故を起こしている。こうした経緯からも、本当の原因は品質不良なのではという見方を増長させた。
実際、ロスコスモスもその可能性を否定できなかったようであり、クリカレフ氏は事故直後、「今後打ち上げ予定の宇宙船や補給船に影響を与える可能性があるため、これが他の機体にも共通する事象ではないことを確認する必要があります。打ち上げ準備作業、機体や部品に使用された材料、熱制御システムの組み立てに関して分析を行う予定です」と説明している。
さらに、2月14日にはロスコスモスが、ソユーズMS-23の打ち上げを2月20日から3月以降へ延期することを発表。プログレスMS-21でも冷却剤漏れが起きたことを受け、「原因を判明させる必要があるため」とした。
原因はともに「外部からの影響」
一方、同じ14日には、ロスコスモスはソユーズMS-22に開いた穴の写真を公開した。穴の直径は0.8mmで、穴や周囲の形状から、外部から微小隕石が衝突してできたものである――言葉を変えれば、内部から、たとえば部品の欠陥で破裂などを起こしてできたものではないと説明した。
さらに21日には、プログレスMS-21補給船に開いた穴の写真も公開。穴の直径はソユーズMS-22のものよりやや大きく12mmとされ、分析の結果、ソユーズMS-22と同様に、外部からの微小隕石などの衝突によってできたものと推定されるとした。一方、ソユーズMS-22では飛来方向などの点から微小隕石の衝突と結論付けられたが、プログレスMS-21に関してはそこまで限定されておらず、デブリの可能性にも含みを持たせている。
また、製造上の欠陥の可能性を検証するために、ソユーズやプログレスを製造するロスコスモス傘下のRKKエネールギヤは、過去15年間にわたる熱制御システムの製造、組み立て、試験に関する記録を調査したものの、問題は見つからなかったとした。
そのうえで、ソユーズMS-23の熱制御システムについて二重三重の確認を実施。そして打ち上げの準備作業が再開された。同船は2月24日に打ち上げられ、26日に無事ISSにドッキングしている。
ソユーズMS-22の穴の写真が公開されたことについて、またプログレスMS-21の事故原因についても、NASAは声明や見解を発表していない。ただ、ソユーズMS-22、23にはNASAのルビオ宇宙飛行士も搭乗することから、NASA側でも分析や審査を行っているはずであり、そのうえで異論がないということは、ロスコスモスの見解に同意しているものとみられる。
残る疑念
わずか2か月間に、異なる2機の宇宙機が同じような事故に見舞われるという前代未聞の事件は、「それぞれのほぼ同じ場所に、同じように微小隕石などが衝突したため」という結論となった。
もちろん、可能性が低いというだけであり、そのような事態が起こる可能性はある。また、熱制御システムの配管が通っている場所は、熱を外に逃がすために外壁が薄く造られており、ほかの場所よりも壊れやすいのも事実である。さらに、穴が開けば冷却剤が流れ出し、熱制御システムが故障して宇宙船が機能しなくなることに直結する、いわば急所、弱点でもある。
たとえばほかの場所であれば、デブリなどが衝突した際の衝撃を吸収するバンパー(ホイップル・バンパー)があるため、損傷を引き起こすほどの事態にはなりにくい。表面積が大きな太陽電池パドルも、小さな穴が開いたとしても、発電量が少し減るだけで大きな影響は及ぼさない。
つまり、これまでも微小隕石なども何度か衝突していたものの、当たった場所のおかげで目に見える形で影響は現れず、ところが今回偶然にも、弱点である熱制御システムに、それも連続して当たってしまい初めて顕在化したと考えられなくもない。
一方で、これまで何十年間にわたって同様のトラブルが起きなかったにもかかわらず、この2か月間に相次いで起きたという事実は、ISS周辺に飛来するデブリや微小隕石が増えたという解釈もできる。仮にそうであれば、今後も同様のトラブルが発生する確率は高いままということになる。その場合、数mmのデブリや微小隕石を検知して回避することは難しいため、たとえば熱制御システムを冗長化したり、宇宙船のダンパーを強化したりといった改修が必要になるかもしれない。事実、タス通信は2月23日付けで、RKKエネールギヤにより、ソユーズに熱制御システムのバックアップを搭載することが検討されていると報じている。
そしてまた、品質不良の可能性が完全に消えたわけではない。イズベスチヤ紙は1月25日付けで、RKKエネールギヤの代表を務めていたイーゴリ・オザール氏が辞任すると報じている。公式に理由は明らかにされていないため、あくまで邪推ではあるが、なんらかの責任を取らされてのものであることは否定できない。さらに、不可抗力の自然災害である微小隕石の衝突で生じた事故の責任を取った辞任とも考えにくく、不自然な点が多い。
いろいろと釈然としない結論ではあるものの、しかし専門家が写真をはじめとするあらゆるデータをもとに、あらゆる可能性を除外していった結果下されたものである以上、その判断自体は尊重されるべきだろう。いずれにせよ、本当に微小隕石などの衝突という避けようのない自然災害であったなら、今後同じようなトラブルが起きないことを祈るほかない。
参考文献
・https://vk.com/roscosmos
・Space Station - Off The Earth, For The Earth
・https://tass.ru/kosmos/17125485
・https://iz.ru/1460225/2023-01-25/v-dvigatelestroitelnoi-korporatcii-rostekha-smenitsia-gendirektor