第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、最終9回戦計5局の一斉対局が3月2日(木)に静岡県静岡市「浮月楼」で行われました(通称「将棋界の一番長い日」)。このうち、6勝2敗で2位につける藤井聡太竜王は稲葉陽八段と対戦。角換わりの戦いを91手で制して7勝2敗に星を伸ばしました。これで名人挑戦権の行方は、この日同じく勝った広瀬章人八段と藤井竜王との間のプレーオフに委ねられることになりました。

水面下の腰掛け銀研究

先手の藤井竜王は得意の角換わり腰掛け銀の戦型に誘導します。仕掛けをめぐる間合いの計り合いが続いたのち、藤井竜王が4筋の歩を突いてさっそく戦端が開かれました。先手の藤井竜王は自玉を戦場から遠くに囲っている点、後手の稲葉八段は4筋に回った飛車の守備力が高い点を主張して戦いは中盤戦に突入します。

局面は「藤井竜王の攻め、稲葉八段の受け」という構図で進展しています。稲葉八段が飛車を自陣二段目に引いて守備陣の立て直しを図ったとき、先手の藤井竜王はすぐさま持ち駒の角を後手陣に打ち込んで飛車取りをかける決断の攻めを敢行しました。返す刀でこの角を銀と刺し違えたのが継続の攻めで、藤井竜王としては駒損ながらも細い攻めが続いて十分という大局観です。

角切りの猛攻で藤井竜王が優位に

類型的とはいえすべての実戦例を離れた中盤の難所を前に、ともに長考を繰り返しながら慎重に指し手を進めます。1筋と3筋の歩の突き捨てた先手の藤井竜王は、立て続けに盤面中央で銀交換を迫って戦線を拡大。これが「駒損のときは急いで攻める」の原則に忠実な攻めとなり、仕掛けからここまで流れるような手順を披露した藤井竜王が優位に立ちました。

後手の稲葉八段は攻撃の要である飛車が自陣中央に幽閉された形で、防戦一方の苦しい時間が続きます。それでも持ち駒の角を先手陣に打ち込んでいったのは唯一ともいえる反撃筋。直後に放ったタダ捨ての銀も迫力のある勝負手で、先手が攻守の判断を誤ればすぐに逆転という状況を保ったまま盤上は終盤戦を迎えました。

藤井竜王が冷静な着地決める

肉薄を続ける後手の稲葉八段がいったん自陣に手を戻してと金を取った手が、藤井竜王からの最後の攻撃開始の合図となりました。稲葉八段の必死の防戦にも構わず、金捨ての手筋で守備銀の利きを反らし玉頭にと金を作ったのが最後の決め手で、一気に後手玉への包囲網を絞り切りました。終局時刻は19時52分、自玉の寄りを認めた稲葉八段が投了を告げた瞬間に藤井竜王のプレーオフ進出以上の成績が確定しました。敗れた稲葉八段は4勝5敗となりました。

その後、菅井竜也八段との相穴熊戦を制した広瀬八段が2敗をキープしたため、今期A級順位戦は渡辺明名人への挑戦権をめぐって広瀬八段と藤井竜王の間でのプレーオフが8日に行われることが決まりました。なお一方で、糸谷哲郎八段と佐藤康光九段のB級1組への降級が決まっています。

水留啓(将棋情報局)

  • 藤井竜王は谷川浩司十七世名人の持つ名人獲得の最年少記録(21歳2か月)に向け前進(提供:日本将棋連盟)

    藤井竜王は谷川浩司十七世名人の持つ名人獲得の最年少記録(21歳2か月)に向け前進(提供:日本将棋連盟)