パナソニック サイクルテックとパナソニック システムネットワークス開発研究所は、京セラ、トヨタ自動車、豊田通商と連携し、高度交通情報システム(ITS)対応の無線装置を使用した電動アシスト自転車と自動車との車車間通信による、交通事故回避のための実証実験を行うと発表しました。
検証内容として想定する状況は、見通しの悪い交差点に向けて、電動アシスト自転車と自動車が2方向から走行しているとき。自転車と自動車、双方のITS対応無線機に対して、自動車もしくは自転車が接近していることを通知するというもの。検証内容の詳細やデモンストレーションを紹介します。
警察庁の発表によると、近年は自転車乗用中の交通事故による死者・重傷者数は減少傾向にあるものの、2020年は対自動車との事故に起因するものが全体の約8割を占めています。そのうち、交差点内での事故が46%と半数近くになっているとのこと。
今回の実証実験を行う5社が自転車ユーザー向けに実施したインターネット調査では、約6割の人が「交差点において死角から接近する自動車の存在に気付かず、出会い頭事故に遭いそうになったことがある」と回答したそうです。
こうした状況を踏まえて、今回の実証実験では、ITS向けの専用周波数である760MHz帯を用いて自転車と自動車が車車間通信し、双方が現状把握と意思疎通を行うことで、交通事故を回避できる可能性を検証します。
パナソニック サイクルテック 代表取締役社長の稲毛敏明氏は、自転車を巡る状況や実証実験の狙いについて、以下のように語ります。
「国内の自転車全体の出荷台数は人口の減少に伴って年々減少している状況ですが、電動アシスト自転車は年平均6%のプラス成長となっており、この成長は今後も続くと見ています。当社は自転車事故のない社会を目指し、将来のレベル4自動運転社会を見据えて、安全・快適なモビリティを提供していきたいと考えています。
そこでITSをはじめとする情報通信機器を搭載した電動アシスト自転車の可能性の検討を進めています。B2V(自転車と自動車との通信)といった車車間通信に加えて、B2I(自転車とインフラとの通信)、スマートポール(安全運転・自動運転支援のインフラの一つ)を介したB2X(自転車とさまざまな機器との通信)による双方の事故削減を目指していきます」(稲毛氏)
GNSSアンテナやITS通信機器などを搭載して車車間通信を実現
実証実験には、760MHz帯 ITS通信機を内蔵した電動アシスト自転車を使用します。GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)で自車位置と速度、方位を計算し、ITS通信機によって情報を送信。併せて、自動車から受信した情報と照らし合わせて衝突の可能性を計算し、衝突の危険がある場合には両者に接近情報をスマホアプリによって通知する仕組みになっています。
自転車に乗っている人のスマホアプリには、自動車が接近するとアラートを通知。自転車側のスマホは、自転車のハンドル部分にホルダーで固定する想定です。自動車と自転車のお互いが停止すると、自転車側のアプリに「お先にどうぞ」という通知が表示されます。
道を譲ってもらった自転車側アプリには「お礼をしましょう」という表示が出て、自転車がお礼を送信すると、自動車側にポイントが送信される仕組みです。実験用の自転車にはハンドルのブレーキ横にスイッチを配置しており、スマホを操作せずにお礼を送れるようになっていました。
お礼を送る機能について、開発に携わったパナソニック サイクルテック 開発部 先行開発推進課の鶴岡宏一郎氏は、「事故を回避したことを感謝されることで、次の安全行動につながるモチベーションになると考えました。(この機能には)交通教育のみならず、幸せの量産にもつながり、より良い地域交通文化の醸成を図れるのではないかという思いを込めています」とします。
テストコースでデモンストレーション
発表会後には、「衝突予測の通知を見た自転者ライダーと自動車ドライバーがともに減速し、自動車の停車後に自転車から自動車へITS対応無線機でお礼の連絡をして交差点を横断する」というデモンストレーションが行われました。
今回の実証実験では、京セラが自転車搭載用ITS無線実験機を提供、トヨタ自動車が自動車側の車車間通信機能を提供、豊田通商が実証実験を運営、パナソニック システムネットワーク開発研究所がシステム要件や仕様を作成、パナソニック サイクルテックがITS対応電動アシスト自転車の機能検証という役割を担います。
パナソニック サイクルテックの稲毛氏は今後の展開について「継続して非公道および公道での実証実験を重ねることで各種データを収集し、2025年以降の社会実装を目指します」と語りました。