ミニバンはとても便利な乗り物だが、いかんせん、どのクルマも顔が怖い。いわゆる「オラオラ系」のミニバンが増えすぎたせいで、そっち系が得意じゃない人の選択肢は狭まるばかりだ。そこで注目したいのが、フランスからきた「ベルランゴ ロング」というクルマである。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」

    ミニバンの新たな選択肢として「ベルランゴ ロング」はどうだろう(本稿の写真は撮影:原アキラ)

ほんわか系ミニバンは貴重な存在?

2020年に日本で発売となったシトロエンのMPV(マルチパーパスヴィークル)「ベルランゴ」は、同ブランドの国内販売台数の約半数を占めるという人気モデルだ。そのベルランゴのボディを延長し、3列シート7人乗りとしたのが「ベルランゴ ロング」である。2023年1月に発売となったばかりのロングに立川(東京都)周辺で試乗した。

諸元表を見ると、ベルランゴのボディタイプは「4ドアコンビネーションワゴン」となっている。日本的にいうと、左右にスライドドアが付いたミニバンだ。同セグメントの輸入車といえば、販売トップをキープし続けるルノー「カングー」をはじめ、広い居住空間と高い積載性を持ち味とする小型商用車をベースにしたものが多い。乗用版として内装などを少しアップグレードしてやれば、アウトドアやバケーションのお供にぴったりのクルマになるからだ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • 「ベルランゴ ロング」の全長は4,770mmで、ショートボディの「ベルランゴ」よりも365mm長い。ホイールベースは190mm増の2,975mm。全幅は変わらず1,850mm。全高は1,870mmで20mm高くなっている

座席の配列は前から2席、3席、2席の3列。3列目は前後にスライドできるほか取り外しも可能だ。2列目を折り畳んでしまえば、ショート版に対して27%増となる2,693Lという巨大な空間が出現する。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • 3列シートで多人数乗車が可能な「ベルランゴ ロング」

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • 車内のスペースは広大だ

試乗会場にはボディカラー「ブランイシ」(ホワイト)のキャンプ仕様と「グリプラチナム」(グレー)のサーフ仕様が展示されていたのだが、いずれも「これでもか!」といった感じの積載量と展開力を見せてくれていて、楽しそうな雰囲気がぷんぷん。近所に住む若いファミリーやパートナーたちにしっかりとアピールしていた。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • アウトドアの趣味を楽しむ人には最高の相棒になってくれるに違いない

ベルランゴ ロングのグレードは「シャイン」(443.3万円)と「シャイン XTRパック」(455.4万円)の2種類。後者は17インチのタイヤ/ホイール(シャインは16インチ)、前後バンパーのアンダーガード、フロントドアバッジ、専用のシート柄とトリム類などを装備している。ボディが長いロングの専用機能としては、縦・並列駐車時のステアリング操作を自動で行う「パークアシスト」を追加装備しているのが特徴だ。

室内は商用ベースということで、プラスチックパーツを多用しているため簡素といえば簡素だけれど、無彩色の2トーンパーツの使い分けや随所に入るオレンジの差し色などが効果的だ。さすがはフレンチMPV、センスがいい。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」

    商用車がベースだが、安っぽさを感じさせない内装の作りはさすがだ

試乗したのはシャイングレード専用のディープブルーに塗られたモデル。道端に停めたユニークな顔つきのベルランゴロングを眺めていると、見慣れた立川(筆者はお隣の国立市在住)の街の景色がちょっとオシャレに見えてくるから不思議だ。日本はミニバン大国だが、国産モデルのほとんどは「オラオラ顔」で威圧感がある。ベルランゴのほんわかとした雰囲気は格別だ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」

    「ベルランゴ ロング」であれば「ミニバンかぶり」の確率も低いかも?

大きいのに活発! 走りも特徴

ドライバーズシートに乗り込むと、全高が1,870mmもあるだけあってアイポイントが高く、さらにボンネットが短いのでまるでバスに乗っているかのごとく視界が広い。搭載するエンジンは、ショートボディと同じ最高出力96kW(130PS)/3,750rpm、最大トルク300Nm/1,750rpmの1.5L直列4気筒ターボディーゼルエンジンだ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」

    1.5Lの直列4気筒ターボディーゼルエンジンを搭載

幅の広い坂道のような形状のセンターコンソール中央にポツンと置かれた丸いダイヤル式のシフターをくるりと回し、「D」に入れてスタート。走りは意外に活発だ。大柄なボディの割に車重は1,660kg(シャイン)と思ったほど重くないし、アイシン・エイ・ダブリュ製の8速ATが細かくシフトしてディーゼルのトルクを上手に引き出している。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • 視界は良好。右端の丸いダイヤルがシフター

ダイヤルの下にある「M」ボタンを押してマニュアルシフトを選び、ステアリングに装備されたまるでスポーツカーのように大ぶりで手応えのあるパドルシフトを操れば、キビキビとした加減速が楽しめる。パリの街中ではいまだにMT車が数多く走っているので、ラウンドアバウトなどでそれらに伍するためにはこれが必須のアイテムなのかもしれない。ATのマナーは、停止寸前などの極低速域ではギクシャクした動きを見せる時もあるけれど、走りさえよければお構いなしといった感じだ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • 大きいけれど走りは活発。これもフランス車らしいポイントだ

一方、郊外路での50~60km/hや高速道路で100km/hあたりの巡航を始めると、エンジン回転は1,600~1,900rpm以下の静かで滑らかな回転をキープするようになり、車内は一気に静寂に包まれる。乗り心地も、ロングホイールベースとエアボリュームのある60サイズタイヤ(205/60R16のミシュランプライマシー4)のおかげで文句なく、フラットな姿勢を保ったまま、どこまでもまっすぐに走っていく。この豹変ぶりは他のフランス車にも共通する独特の味わいで、日常や仕事では街中をガツガツ走り、バケーションのロングドライブでは疲れず、静かに延々と高速を走っていきたいとする彼の地の人々の思いがしっかりと実現できている美点だ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」

    タイヤも乗り心地のよさに一役買っている

収納スペースは前席の天井をはじめ、メーター奥、センターコンソール、ドアポケットなどあちこちに配されていて困ることはないのだけれど、不思議なのはダッシュボード左右端にあるカップホルダーの穴が異様に細い点。そこに入るのは、今ではあまり見かけない250ccの缶コーヒーか、ギリギリでコンビニドリンクのSサイズあたり、あるいは最近では120~200mlの細身のステンレスボトルが人気なので、それくらいか。ステランティスジャパンの担当スタッフによれば、この部分の改良依頼を何度も本国に送っているそうだが、「ガンとして受け付けてもらえない」とのことだ。まあ、そこもガイシャらしいと割り切れるなら、何の問題もないんだけれど。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • 随所に収納スペースがある

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」

    ドリンクホルダーが異様に細いところは気になるかも?

ライバルのカングーは先ごろフルモデルチェンジして、顔だけでなく内装もしっかりしすぎたイメージに。幅も1,860mmまで広がってしまい、日本での使い勝手には疑問符がつきそうだ。一方のベルランゴ(ロングも含め)は、あい変わらずの脱力感とセンスのよさをキープしている。潮目が少し変わるかもしれない。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」