「あの人、鈍感だよね」とは、あまり言われたくないですね。でも実は、現代人にとって「鈍感であること」は強力な武器にもなり得るのです。
鈍感力の高い人は、ストレスをためづらい傾向があります。落ち込むこともなく、いつもポジティブ! そんな能力なら、積極的に身につけたいですよね。
とはいえ鈍感力は、使い時を間違えると「ただの鈍感な人」になってしまう恐れも。今回は鈍感力のメリットや鍛え方のほか、注意点やデメリットもお伝えします。
鈍感力とは
2007年に発行された、渡辺淳一さんの『鈍感力』という本をきっかけに話題になった「鈍感力」。小さなことにあくせくせずに、ゆったりと生きる力のことで、2007年の『ユーキャン新語・流行語大賞』でトップテンにも選ばれました。
今でも広く浸透している言葉であり、一般的に、ストレスを感じそうな情報を上手に受け流す力、スルースキルを意味しています。
自分が傷つきそうな出来事や言葉を正面から受け止めず、意識して忘れることで心のダメージを少なくする力として、ポジティブな意味合いを持っているのです。
鈍感力の意味と「鈍感」との違い
「鈍感」は「感じ方が鈍いことや気が利かないこと」を指します。つまり「あなたって鈍感だね」と言われたら、「気が付いて当然なのに気が付かない」「わかってくれるはずなのに理解してくれない」という、批判的なニュアンスがあります。普通はできることができない、というネガティブな言い方です。
一方で「鈍感力」は、物事を意識的に受け流す力のことです。「わかっているけれど、わからないことにしておこう」という、いわば「鈍感なふりをする能力」のこと。そうすることで余計な悩みを抱えずに済むという、処世術の一種です。
「鈍感」が欠点として扱われるのに対し、「鈍感力」は能力の一つとしてとらえられていることが、大きな違いです。
特にビジネスシーンで鈍感力が注目されている理由
環境の変化や多様な働き方への対応で、私たちの心は日々ストレスにさらされています。みんなが同じでないのだから、ほかの人に対する不満や、そのやり方に対するさまざまな意見が出てくるのは当然のことです。
相手が善意のつもりで口に出したことだとしても、自分にとっては不愉快だった場合、いちいち反論するのは角が立ちます。議論するほどのことでもないな、と思ったら鈍感力を発揮してスルーするのも手です。
また自分の期待通りの評価が得られなかったときも、鈍感力の出番。「そんなこともあるよね」と受け流すことで、心のモヤモヤを前向きなエネルギーに切り替えることができます。
人と人とが共に働くビジネスシーンにこそ、鈍感力は必要とされていると言えるでしょう。
鈍感力を身につけるメリット
鈍感力は、さまざまな場面で活躍します。周りの雑音を受け流せるようになれば、ビジネスだけでなく、人生そのものが明るくなるかも。
次は鈍感力を身につける具体的なメリットについて、見ていきましょう。
ポジティブな考え方になれる
多くの場合、ネガティブな気分になるのは「周りの言動をどう受け取るか」に要因があります。「あんなことを言われてばかにされた」「こんなひどいことをされた」と思うと、連鎖的にマイナスな思考へと続くからです。
鈍感力の強い人は、最初の原因となるきっかけの出来事をスルーします。そもそも立ち止まらないので、落ち込むことも少ないのです。
ストレス耐性が高まる
鈍感力が高まると、ストレスに対する耐性がつくと言えるでしょう。どんなにイヤなことやプレッシャーに直面しても、それを正面から受け止めることをしないからです。
外部からのダメージを自分自身でコントロールできるので、精神状態が安定し、ストレスをため込みにくくなるでしょう。
失敗を引きずらず前に進める
鈍感力は他人からの攻撃だけに発揮される力ではありません。自分自身の失敗や後悔に対しても、必要以上に引きずらずに済むようになるのが鈍感力の良さです。
失敗の後は、気持ちの切り替えが大切です。鈍感力を鍛えることで、自分自身の負い目をも受け流し、どんどん新しいチャレンジができるようになります。
他人の評価を気にしないので、自信を持って物事を好きに進められる
他人の目を気にしないということは、他人の評価に依存しないということでもあります。
他人に何か言われても、あまり本気にしないのが鈍感力です。嫌みや悪口も気にせず、さっさと忘れてしまうことで、自分のやり方で物事をスムーズに進めることができます。
鈍感力のデメリット
良いことだらけのような鈍感力ですが、使い方を間違えると、人間関係を壊してしまうことにもなりかねません。特にビジネスの場では、人と人との協力は必要不可欠です。
ここでは鈍感力を使うときに覚えておきたい、デメリットについて確認しておきましょう。
仕事における成長が止まる恐れがある
「良薬口に苦し」と言うように、他人のアドバイスは耳に痛いもの。気分が落ち込むから、と受け流してばかりいると、自分に必要な助言まで取りこぼしてしまうことになりもなりかねません。
ビジネスシーンには、イヤなことでも正面から向き合わなければならないときがあります。鈍感力を使うべき場面かどうかは、よく考える必要があるでしょう。
周囲の人に不快感を与えることも
鈍感力を使い過ぎると、ただの「鈍感」な人になってしまいます。真剣な話し合いの場で鈍感力を発揮してしまうと、「話を聞いていない」「真面目に取り組む気がない」と思われてしまうかも。
鈍感力はストレスを回避する術ですが、悪用して自分勝手に逃げ回ってばかりいると、周りからの信頼を失ってしまうのです。
鈍感力を鍛える方法
鈍感力を鍛えるには、自分のマインドを変えていく訓練が必要です。鈍感力を高めるために意識してほしいポイントをまとめました。
完璧主義はやめる
「完璧であろう」と思うことは、足りない部分に意識が向くことでもあり、これは成果や成長のために必要です。しかしどんな人でも、常に100%の力を出すことはできません。足りない部分を受け流し、「まずはこれくらいだろう」と適度に力を抜くこと、ほどほどに行うことが、鈍感力を鍛える第一歩です。
「なんとかなる」と前向きに、良い意味で適当に考える
思っていた通りの結果が出なくて慌ててしまうことはよくあること。しかし悪いことばかりに目を向けていつまでも落ち込んでいては、前に進むことができません。
「なんとかなる」とポジティブにとらえることで、物事の良い面も見えてくるでしょう。
自分がコントロールできないものへのこだわりを捨てる
自分がどうにかできることは、実はそれほど多くありません。大概のことは、自分ではどうにもできないこと。無理に変えようと思わないで、できることを探す方が現実的です。
無理なことは無理、と切り離して、こだわらないようにしましょう。
深読みしすぎない
他人の言葉の真意は、その人にしかわかりません。「もしかしたら嫌みかも」と思っても確認することはできないのですから、「わからない」と曖昧にして忘れてしまう方が得策です。
たとえそれが嫌がらせだったとしても、イヤな気分になるのは相手の思うつぼです。どのみち自分には利がないことですから、放っておきましょう。
マインドフルネスを行う
マインドフルネスとは「瞑想(めいそう)」のこと。いま、この瞬間に集中して自分の内面を見つめ直すことで、心を安定させる技術です。仕事の前に短時間の瞑想を行うことで、パフォーマンスが上がるともいわれています。
心がモヤモヤしそうなときは、落ち着いて、ゆっくりマインドフルネスを行ってみましょう。
鈍感力を使うときの注意点
使い時を間違えると大きなデメリットもある鈍感力。鈍感力を使うときにはどんなことに注意すればいいのでしょうか。
鈍感力の注意点をまとめました。
使う場面と使わない場面を見極めることが大切
鈍感力を使うべきなのは、自分が傷つきそうになった時です。いわば心の防御として発揮される力ですから、積極的に意見を言うべきシーンや、自分のためになるアドバイスを受ける場合に使うべきではありません。
直属の上司には使用しない
鈍感力は、直属の上司には使わない方が無難です。直接あなたを評価する立場である上司の話を受け流していると、「鈍感なやつだ」「不真面目なやつだ」などと思われてしまう可能性があるからです。上司が相手のときは、きちんと向き合う姿勢を示しましょう。
別の場面でフォローするなど、信頼関係を築いておく
身近な人に鈍感力を発揮するときは、あとでフォローを入れるのも大切です。普段から良好な人間関係を築いているからこそ、話を受け流しても許されるのです。「あの人は鈍感だ」と思われないよう、気を使うべき場面では率先して動くようにしましょう。
鈍感力は、複雑で変化の激しい時代を生き抜くために必要なスキル
現代社会は変化が激しく、多様な考え方があふれています。意見が衝突することも多く、誰しもが心身にダメージを受けやすい環境にあります。限界を超えてしまうよりは、適度に受け流してダメージをため込まない方が賢い生き方と言えるかもしれません。
現代社会を生き抜く力の一つとして、鈍感力を鍛えていきましょう。