熱と痛みに効くことから、常備薬の定番となっている解熱鎮痛薬。

ただ「なぜ熱と痛みの両方に効果があるのか」と問われると、「そういえば、考えたことなかった……」という人も多いのではないだろうか。

解熱鎮痛薬が熱と痛みに効くメカニズムや、解熱鎮痛薬の効果的な飲み方について、第一三共ヘルスケア 研究開発部 田中美希氏に聞いた。

  • 第一三共ヘルスケア 研究開発部 田中美希氏

■発熱と痛みは同じ物質が関係

――まずは、田中様の現在の担当業務についてお聞かせください。

入社以来ずっと研究開発部に所属しており、現在は医薬品の新製品の開発を担当しています。具体的には、解熱鎮痛薬の「ロキソニン内服薬シリーズ」、湿布・皮膚用薬といった外用剤の開発を手がけています。

――そもそも発熱や痛みはどうして起きるのでしょうか。発熱と痛みが起きる仕組みについて教えてください。

ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると、体を守ろうとして、脳内の血管で発熱の引き金となる「プロスタグランジン」という物質が産生されます。

実は、このプロスタグランジンは痛みのもとになる物質でもあります。外傷などを受けると、傷ついた細胞から「アラキドン酸」という物質が出てきて、それをもとに、腫れなどの炎症を引き起こすと同時に痛み成分を増加させる作用のあるプロスタグランジンが産生されるのです。

発熱は病原体の増殖を抑えるための体の防御反応ですし、痛みもまた、体に異常が生じたことを知らせてくれるサインです。

■解熱鎮痛薬は発熱・痛みの原因物質の産生を抑制

――「痛み」といっても色々ですが、大きく分けて3種類あるそうですね。

痛みには「侵害受容性疼痛(体に危険を伝える痛み)」「神経障害性疼痛(神経損傷による痛み)」「痛覚変調性疼痛(脊髄から脳までの神経回路の変化で起こる痛み)」の3つがあります。

このうち、傷ややけど、打撲、歯痛、片頭痛などは1つ目の「侵害受容性疼痛」にあたり、「侵害受容性疼痛」にはプロスタグランジンが大きく関わっています。

――なぜ、解熱鎮痛薬は発熱と痛みの両方に効果があるのでしょうか。

まず、解熱鎮痛薬が効果を発揮するのは、プロスタグランジンが大きく関わっている「侵害受容性疼痛」です。

解熱鎮痛薬には、発熱と痛みの原因物質であるプロスタグランジンの産生を抑える働きがあるため、両方に効果があるのです。

■解熱鎮痛薬で痛みを抑えるポイントは「早めに飲む」こと

――飲むタイミングなど、解熱鎮痛薬の効果的な使い方について教えてください。

痛みに関しては、ギリギリまで我慢をしてから飲むのではなく、痛みを感じたら早めに飲むことが大切です。

というのも、解熱鎮痛薬には痛みのもとであるプロスタグランジンの産生を抑制する効果がありますが、すでに産生されてしまったプロスタグランジンを減らす効果はないからです。プロスタグランジンが蓄積されてしまってからでは効果が出にくくなるので、あまり我慢をせず、早めに飲んでいただきたいですね。

発熱については、それ自体が体を守るための生体防御反応なので、むやみに熱を下げることはおすすめしません。症状が軽い場合は、様子を見ながら自然治癒を待ってもいいでしょう。「食事が摂れない」「動けないほどつらい」といった状態であれば、解熱鎮痛薬を飲んで症状を和らげたほうがいいと考えられます。

――解熱鎮痛薬は、服用してから大体どのくらいで効果が表れるのですか? また、効果が出ない場合はどのタイミングで病院に行くといいのでしょうか。

鎮痛成分によって異なりますし、個人差も大きいため一概には言えませんが、たとえばロキソプロフェンであれば、服用から30分経つと約半数の方に効果が表れたという結果が報告されています。

解熱鎮痛薬を3~5日間服用しても効果が感じられない場合は、思いがけない病気が隠れている可能性もあるので、医療機関を受診したほうがいいでしょう。

――解熱鎮痛薬を飲む上で、気を付けたほうがいいことはありますか?

市販の解熱鎮痛薬であっても、やはり飲みすぎは体に良くありません。

目安として、月に10日以上飲むことは控えていただきたいです。短期間に継続して飲み続けてしまうと、それが「薬物乱用頭痛」と呼ばれる頭痛の原因になる可能性があります。用法用量を守って正しく使う分にはまったく問題ありませんが、解熱鎮痛薬を飲みすぎることで、痛みを感じるハードルが下がってしまい、痛みを感じやすくなってしまうことがあるんです。

10日以上にわたって解熱鎮痛薬を飲み続けなければならないような症状がある場合は、病院に行かれることをおすすめします。

また、空腹時に飲むと胃が荒れやすくなるので、空腹時の服用は避けて、たっぷりの水かぬるま湯で飲んでいただければと思います。妊娠中の服用も控えていただきたいところです。妊娠中に服用できる成分もありますが、自己判断せず、事前に医師にご相談ください。

■特に気になる症状や体質に合わせて選ぼう

――解熱鎮痛薬にもさまざまな種類がありますが、選ぶ際のコツはありますか?

発熱や痛みのもととなるプロスタグランジンの産生を抑える働きがある点は共通していますが、市販の解熱鎮痛薬には「速効性がある」「胃にやさしい」「鎮静効果がある」など、製品によってさまざまな特徴があります。また、頭痛や生理痛など、特定の痛みにフォーカスした解熱鎮痛薬も出ています。

たとえば「ロキソニン内服薬シリーズ」の場合、つらい頭痛に速く効く「ロキソニンSプレミアム」や、生理痛のメカニズムを考えた「ロキソニンSプレミアムファイン(3月8日新発売)」など、特定の症状に着目した製品も展開しています。

何を重視したいかによって選ぶべき解熱鎮痛薬が異なってきますし、配合成分との「相性」もあります。どれを選んだらいいか迷ったら、店頭の薬剤師さんに相談していただくのが一番ですね。

――ちなみに、生理痛にフォーカスした「ロキソニンSプレミアムファイン」は、従来の「ロキソニンS」とどう違うのでしょうか?

鎮痛成分「ロキソプロフェンナトリウム水和物」が配合されている点は、ほかの「ロキソニン」シリーズと同じです。

それに加えて、「ロキソニンSプレミアムファイン」の場合、過度な子宮の収縮を抑え、しめつけられるような痛みを緩和する生薬成分・シャクヤク乾燥エキスと、血行不良や冷えに伴う痛みを和らげるヘスペリジンを配合しています。生理痛が起きるメカニズムに着目した、こだわりの処方になっています。

  • 同社のロキソニン内服薬シリーズ。左上から、ロキソニンSプラス、ロキソニンSプレミアムファイン、ロキソニンS、ロキソニンSクイック、ロキソニンSプレミアム(すべて第1類医薬品)

■痛みは無理に我慢せず、上手に薬と付き合って

――生理痛で悩んでいる女性が多い一方で、なんとなく「体に悪い」というイメージから、薬を飲まずに痛みを我慢している人も多いのではないでしょうか。

生理痛を我慢してしまう女性は非常に多いですが、「我慢」を前提に考えないほうがいいと考えています。痛みを我慢して過ごしても、本来の自分のパフォーマンスは発揮できませんし、適正使用の範囲内であれば、解熱鎮痛薬が体に悪いということもありません。

生理痛の場合も、頭痛同様、痛みが本格化する前に、痛みを感じたら早めに飲んでいただくことをおすすめします。早めに飲むことで効果が出やすくなり、結果的に服用量が抑えられます。

それに加えて、「十分な睡眠を取る」「ストレスを溜めないようにする」「体を温める」といったことも意識して、痛みを我慢しなくても済むような対処法を見つけてもらえればと思います。

生理痛に限らず、症状に応じて解熱鎮痛薬を上手に使っていただきたい一方で、解熱鎮痛薬だけに頼ることはおすすめしません。3~5日間服用しても改善しない場合、大きな病気が隠れている可能性もあるので、甘く見ずに病院に行っていただきたいです。