2023年1月、Micron傘下のCrucialブランドは、Crucial DDR5 5200MT/秒デスクトップメモリ、同DDR5 5600MT/秒デスクトップメモリを投入した(参考記事はこちら)。これはJEDEC準拠でDDR5-5200/5600という高クロック動作を実現するもので、コストパフォーマンス、安定性、省電力といったニーズにマッチする製品だ。とくにスタンダードメモリのトップブランドであるCrucial製ということで、PC初心者から上級者まで幅広くオススメできる。
ついに登場! JEDEC準拠のDDR5-5600メモリ…そもそもJEDECとは?
サクッと製品紹介と動作を……といきたいところだが、メモリについてはある程度、事前知識も必要だと思われる。
さて、読者の中には「DDR5-5200/5600なんてすでにあったじゃないか」と思う方もいるかもしれない。今回のCrucial製DDR5-5200/5600メモリの何がポイントなのか。それは「JEDEC準拠」という点だ。JEDECは半導体業界の事業者団体で、そのメモリ規格に沿った設計のモジュールがJEDEC準拠メモリと言える。ただ、PC DIYにおいては対比する対象がOC(オーバークロック)メモリ。肝心なのはOCではない、DRAMチップの定格仕様に沿ったクロックで動作するという部分である。
OCメモリは、PCのパフォーマンスを追求するユーザーのためのメモリだ。今回の製品以前は、DDR5のDRAMチップとしての仕様はDDR5-4800"まで"だった。本製品以前のDDR5-5200、DDR5-5600、それ以上のDDR5メモリは、OCメモリだったのだ。メモリのOCもCPUやGPUと同様の手法が用いられる。定格よりも高い電圧をかけるわけだ。OCメモリとJEDEC準拠メモリの見分け方の一つとして、駆動電圧に着目するとよい。DDR5の定格の駆動電圧が1.1Vであるのに対し、一般的なOCメモリは1.2V、1.3V、1.4Vといった仕様となっている。もちろんOCメモリメーカーが製品保証できる程度のマージンをとっているにしても、DRAMチップに負荷をかけている状態だ。
メモリを挿し、PCを最初に起動した時、メモリはSPDと呼ぶプロファイルを読みこむ。SPDはJEDEC規格で決められたものだ。SPD以前のメモリはまず安全な低クロックで起動し、BIOSからアクセスタイミングを設定していくといった手順を踏んでいた。現在は、SPDのプロファイルからシステムに最適なプロファイルが自動で適用されるため、クロックやアクセスタイミングを手動で設定するといった手間がなくなった。誰もが、特別な知識不要、特別の操作不要でメモリを扱えるようになったのだ。
一方、OCメモリにもプロファイルがある。CPUがAMDの場合「EXPO」、Intelの場合は「XMP」だ。ただし、これらはSPDのように自動で適用されるわけではない。OCメモリはどんなシステムでも動作するというものではなく、CPUのメモリコントローラやマザーボードのメモリ周りの回路設計次第。だから初回起動時は確実に動作するだろうSPDプロファイルで起動し、ユーザーが手動でプロファイルをロードする必要がある。BIOS画面での操作は1、2クリック程度、あるいはプルダウンのような簡単なものだが、これを知らないとせっかくOCメモリを購入してもその性能を引き出せていないなんてことになる。
ここまで読むと、JEDEC準拠メモリのメリットが理解できただろう。まず組み込みも挿すだけ。次に1.1V駆動で省電力。加えて、JEDEC準拠のメモリはそのほとんどがヒートスプレッダなし、OCメモリのようなチップレベルでの選別もないため、コストパフォーマンスがよい。現在、AMDもIntelも、JEDEC準拠メモリが登場する前にDDR5-5200やDDR5-5600をサポートするCPUを投入し、しばらくOCメモリしか選択肢がない状態が続いていた。PC DIY初心者にはややリスキーな状態だったと言える。しかし、CrucialのJEDEC準拠DDR5-5200/5600メモリ投入を皮切りに、各社から同様の製品が登場するだろう。リスクを抑えるならJEDEC準拠のメモリを選びたい。その上で、今回CrucialのDDR5-5600メモリを調べたところ、ほかにもメリットと言えそうなところが見つかったので、それも合わせて紹介していこう。
まずは写真で基板とチップをじっくりチェック
今回Crucialからお借りしたのは、「Crucial 32GB Kit (2 x 16GB) DDR5-5600 UDIMM」。製品名のとおりDDR5-5600(PC5-44800)動作で容量16GBのモジュール×2枚(計32GB)のメモリキットだ。UDIMMとあるとおり、一般的なPCで用いられるアンバッファードメモリである。まずは写真で見ていこう。
まあ、見た目ではこれまでCrucialから販売されていたDDR5-4800メモリと変わらない。違うのはシールくらいと言えるだろう。
同シリーズのラインナップもまとめておこう。
DDR5-5200 UDIMM | |
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8GB | CT8G52C42U5 |
16GB | CT16G52C42U5 |
32GB | CT32G52C42U5 |
DDR5-5600 UDIMM | |
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8GB | CT8G56C46U5 |
16GB | CT16G56C46U5 |
24GB | CT24G56C46U5 |
32GB | CT32G56C46U5 |
48GB | CT48G56C46U5 |
上記のとおり、容量は8GB、16GB、32GBといった一般的な容量に加え、すでにニュースとなっているが、DDR5-5600には24GB、48GBといったイレギュラーな容量モデルも投入される。24GB、48GBモデルについては、念のため利用するマザーボードのサポートリストを確認してから購入するのがよいだろう。場合によってはBIOS更新が必要になるかもしれない。また、それぞれの容量で2枚キットも用意されている。(2023年3月3日追記:その後、24GBモデル(CT24G56C46U5)と48GB(CT48G56C46U5)の今回の発売は見送られました)
Intel XMP-5200/5600、AMD EXPO-5200/5600もサポート、どれも1.1V
さて、せっかく製品が手元にあるので、検証環境を組み動作を確認してみよう。まずはDDR5-5600をサポートするIntel第13世代Core。CPUはCore i5-13600K、マザーボードはASUSTeK「ROG MAXIMUS Z790 HERO」の組み合わせだ。念のためBIOSは初期化している。
Crucial 32GB Kit (2 x 16GB) DDR5-5600 UDIMMを挿し、初回起動を行なった際のスクリーンショットは以下のとおり。
X.M.P.欄がDisabledの状態で、Information欄のMemoryにはDDR5 5600MHzと表示されている。なにも設定することなく、挿せばすんなりDDR5-5600モードが適用されたということだ。なお、OCメモリ(XMP)を挿した際の初回起動時スクリーンショットは以下のとおり。
OCメモリだと初回起動時にXMPを読み込むことはなく、まずは安全なSPDプロファイルで起動を試みる。そのため、DDR5-4800モードでの起動だ。OCメモリを使う場合は、BIOSセットアップから手動にてXMPをロードしてあげなければならない。
それではCrucial 32GB Kit (2 x 16GB) DDR5-5600 UDIMMの情報をOS上から確認してみよう。用いるのはハードウェア情報表示ソフトの「CPU-Z」だ。
メモリの動作モードを確認するには、CPU-Zを起動し上部のタブから「Memory」を選択する。まずGeneral欄には、TypeとしてDDR5、Sizeとしてメモリの総容量が表示される。その下の「Timings」はメモリのアクセスタイミング設定が並んでいる。DRAM Frequencyは動作クロック。DDR-5600の場合、5,600MHzの半分である2,800MHzという表記になる。ほか、メモリでよく聞くアクセスタイミング設定としてCAS# Latencyがある。いわゆる「CL」で、本製品のSPDのDDR5-5600プロファイルではCL46だ。
次にCPU-Zのタブを「SPD」に切り換えてみよう。SPDタブはメモリモジュールのSPDの情報を表示するタブだ。ここで、本製品の少しユニークなところが分かる。SPDタブの下、「Timing Table」には「EXPO-5600」、「EXPO-5200」、「XMP-5600」、「XMP-5200」といった4つが表示された。EXPOやXMPではなくSPDのプロファイルで起動したはず……と思うかもしれないが、どうやらCPU-ZのSPDタブでは最大4つまでプロファイルが表示される仕様のようだ。
あらためて、画面下にある「Tools」ボタンをクリックし、その中にある「Save Report as TXT」または「Save Report as HTML」を押してみよう。この操作を行なえば、CPU-Zが取得したさまざまなデータをエクスポートできる。今回はHTMLで出力したので、そのファイルを見てみよう。
このように、Crucial 32GB Kit (2 x 16GB) DDR5-5600 UDIMMではSPDとしてDDR5-5600とDDR5-5200のプロファイルが格納されていることに加え、XMP、EXPOも同様にDDR5-5200/5600のプロファイルが格納されていた。つまり、JEDEC準拠メモリのSPDも使える一方、XMPやEXPOとしてOCメモリのように手動でプロファイルを適用することもできるようだ。
これはOC!? DDR5-4800対応CPUがDDR5-5600モードで起動した
ふと疑問がわいたのでCPUをCore i3-12100に換えた場合どうなるのか試してみた。第12世代のCore i3-12100は、メモリのサポートが仕様上ではDDR5-4800までである。うまくすればXMPをロードすることでDDR5-5600モードが利用できないかと考えたのだが……。
結果はSPDのDDR5-5600モードで起動した。スクリーンショットのとおり、XMPはロードしていない。一つの検証環境でしか試していないため断言できないが、SPDのやりとりはマザーボード-メモリ間だけで、CPUがサポートする最大メモリクロック情報というのは参照していなかったということではないだろうか。OCメモリのように、XMPやEXPOをロードする手間なく、(CPUから見ればOC状態の)DDR5-5600が利用できるのであればラクなパフォーマンスアップ手段と言える。
もちろん、すんなりDDR5-5600モードでは動かない組み合わせもあるかもしれない。起動してみたらCPU定格のDDR5-4800だったとしても、まだチャンスはある。本製品にはXMPやEXPOプロファイルもあるのだから。そしてそれはDRAMチップの定格であるDDR5-5600、1.1V駆動だから、相性が生じるリスクはかなり低いと言えるだろう。
JEDEC準拠で安全・簡単、純DDR5-5600対応だからOC的な利用も
では高クロックのメモリを利用するメリットを、ベンチマークで紹介しよう。用いたのはSiSoftwareのSandra、「メモリーの帯域」ベンチマークだ。
DDR5-4800、DDR5-5200、DDR5-5600と3つの設定でメモリ帯域幅を測定したが、ちょうど400MHz刻みということもありスコアはきれに比例するグラフになった。DDR5-4800→DDR5-5200が約107%、DDR5-5200→DDR5-5600も約107%といったあたり。およそ4GB/sずつ転送速度が向上している。
もちろん、メモリアクセスはミリ秒やナノ秒レベルなので、メモリ依存度が低いアプリケーション、小さなデータを扱うような場合は体感できるものではないと思われる。体感できるほどの差になると言われるのは、コンテンツ製作などメモリへの依存度が高いアプリケーションやメニーコアCPUをフル活用するようなアプリケーションと言われる。ただしグラフのとおり確実に転送速度が向上していることは確かだ。1日、1月、1年ともなれば秒単位、分単位、時間単位になるだろう。また、身近なものでは統合GPUのようにメモリの転送速度がパフォーマンスとなって素直に現れるものもあるので、高速メモリを選ぶメリットはあると断言したい。
OCメモリを含め、高速なメモリがたくさんある中で、本製品はシステムが対応していれば挿すだけですんなりDDR5-5600動作してくれるお手軽さ、省電力、そしてコストパフォーマンスのよさ、さらには万が一、想定するモードで動作しなかったとしてもXMPやEXPOモードでの動作も試せるリスク回避という点がオススメとして挙げられる。新規でPCをDIYされる方やメモリの容量アップ、高速化を検討している方は、こうしたところをポイントに本製品を検討してみてはいかがだろうか。