第16回朝日杯将棋オープン戦(主催:朝日新聞社・日本将棋連盟)は、本戦トーナメント準決勝・決勝の公開対局が2月23日(木・祝)に東京都千代田区の「有楽町朝日ホール」で行われました。対局の結果、前々回覇者の藤井聡太竜王が決勝で渡辺明名人を破って自身4度目となる朝日杯優勝を決めました。
渡辺名人の用意は雁木
この日の午前に行われた準決勝で藤井竜王は豊島将之九段と対局。角換わり腰掛け銀の将棋で一時は敗勢に陥るも、最終盤で豊島九段が詰みを逃すミスが生まれ、際どく逆転勝ちを決めました。一方、糸谷哲郎八段と顔を合わせた渡辺名人は角換わり棒銀を採用。二枚の大駒を切り飛ばしたあと、小駒だけの細い攻めを丁寧につないで勝利を手繰り寄せました。
2時間弱の昼休憩をはさんで始まった決勝戦は、振り駒で後手となった渡辺名人が雁木囲いに構えて幕を開けました。先手となった藤井竜王は、これを受けて序盤早々7分の小考で棒銀の方針を固めます。「藤井竜王の攻め対渡辺名人の受け」という構図が定まってからは、持ち時間40分の早指し棋戦らしく小気味よいテンポで局面は中盤戦に突入していきます。
苦戦を意識する藤井竜王
藤井竜王の棒銀を受けた後手の渡辺名人は、狙われそうな角を大きく盤面中央に転回して反撃を目指します。ここまでは昨年末に行われた非公式戦に前例のある進行で、指し手の早さからは特に渡辺名人の方に用意があることがうかがわれました。藤井竜王が飛車先の歩を交換したところで、渡辺名人はようやく本局初となる小考(3分)を記録して左桂を活用しました。
藤井竜王のほうから決戦を挑む権利が生じた局面を前に盤上は緊張が走りますが、ここは藤井竜王が穏やかに玉を囲ったためすぐの戦いは回避されます。むしろ、第二次駒組みが終わったところで先に歩をぶつけて仕掛けを敢行したのは後手の渡辺名人でした。すぐに5筋の歩を突いて応戦した藤井竜王ですが、後手から先に7筋の歩を取り込まれては「失敗したと思った」と振り返りました。
緩手に乗じて藤井竜王が押し切る
後手番ながらペースをつかんだ渡辺名人ですが、直後に「ぬるかった」と反省することになる一手が出ます。5筋でぶつかっていた歩を取って手を戻したのがそれで、これにより先手は右銀の活用が楽になった意味合いがあります。感想戦ではこの手に代えて桂を跳ね出したり飛車を回ったりと、よりぼんやりとした攻めの手が必要とされました。
手番を握った先手の藤井竜王は、7筋に作った歩の拠点にガツンと角を打ち込んで本格的な反撃を開始しました。渡辺名人が局後「露骨ながら好着想」と評したこの角打ちによって、局面は後手陣にと金を作った藤井竜王の有利に転じて終盤戦を迎えます。逆転を目指す渡辺名人が盤面中央に攻防の角を放ったのに対し、藤井竜王は丁寧に銀を打ってこの角を捕獲。このあとさらに2枚の大駒を手にした藤井竜王が着実な攻めで優位を拡大しました。
両者一分将棋が続くなか、渡辺名人からの最後の反撃を余した藤井竜王が勝勢を確立しています。対局開始から約2時間、藤井竜王が渡辺名人の玉を即詰みに討ち取ったところで渡辺名人が投了。103手の熱戦に幕が引かれました。勝った藤井竜王は局後のインタビューで「準決勝までの3局はいずれも負けを覚悟した局面があった。優勝は幸運な結果」と自身4度目となる本棋戦優勝の喜びを語りました。
水留 啓(将棋情報局)