パナソニックは2月22日、ナノイー(帯電微粒子水)技術による新型コロナウイルスの不活化に対する影響の可視化に成功し、不活化のメカニズムの一部を解明したと発表。不活化とは、ウイルスが細胞に感染できなくなることを指します。未知の変異株への効果も期待できる背景について説明会を実施しました。
コロナ禍でアルコール消毒液や空気清浄機のニーズが高まり、ウイルス抑制に効果があるとされるパナソニックのナノイーも注目されました。
ナノイー(およびナノイーX)は、水分に高い電圧をかけて帯電させたイオン。水の化学式はH2Oですが、ナノイーはHが1つ少ないOHラジカルを大量に含み、ウイルスや菌が持つHと結び着いてH2O(水)になろうとします。この反応によって、Hが1つ抜けたウイルスや菌は性質が変わり、本来の作用が抑制される――というのが簡単な仕組みです。
パナソニックはナノイーが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を始めとする、ウイルスの抑制に効果があると過去にも何度か発表しています。しかし、ウイルスの抑制になぜ効果があるのか、そのメカニズムについては仮説の域を出ていませんでした。
今回は、オミクロン株(BA.5)に対する不活化の実証と、一般財団法人日本繊維製品品質技術センターに依頼して、ウイルス不活化の影響を可視化したことを発表。さらに大阪公立大学 大学院獣医学研究科の安木真世准教授の協力を得て、解明した不活化メカニズムの一部を説明しました(オミクロン株の不活化の実証に関しては2022年6月にリリース)。
ナノイーのウイルス抑制効果を継続的に調査
詳細は省きますが、ウイルスは大まかに4つのタイプに分類できます。新型コロナウイルスはこのうち(1)に分類されます。
(1)エンベロープを持ち宿主細胞にRNA(リボ核酸)を注入するもの (2)エンベロープを持ち宿主細胞にDNA(デオキシリボ核酸)を注入するもの (3)エンベロープを持たず宿主細胞にRNA(リボ核酸)を注入するもの (4)エンベロープを持たず宿主細胞にDNA(デオキシリボ核酸)を注入するもの
パナソニックではこの4タイプのウイルス(複数)に対して効果検証を行うことで、「耐性の高いウイルスや未知のウイルスに対する効果」を推定できるとして、2012年1月には実証実験結果も発表していました。
パナソニックが新型コロナウイルスに関するナノイーの抑制効果を初めて公表したのは、2020年7月の実証実験。このときは45Lの試験空間を用い、ナノイーを3時間照射した(被曝させた)ウイルスの99%以上が不活化することを確認しました。
同様の試験は継続され、2021年11月には新型コロナウイルス変異株4種(アルファ・ベータ・ガンマ・デルタ)に対し、45Lの試験空間で2時間照射して99%以上が不活化すると確認。2022年3月には変異株(デルタ)に対して、約6畳(24立方メートル)の空間で8時間照射して99%が不活化すると確認しました。2022年6月には先述のとおり、45Lの試験空間でオミクロン株(BA.5)にナノイーを2時間照射して、99.9%以上が不活化すると確認しています。
電子顕微鏡でウイルスの1つひとつの個体までチェック
新型コロナウイルスの不活化に関するナノイーの影響を可視化するにあたっては、パナソニックの依頼で安木准教授が実証試験を担当。2021年4月から着手して2段階で実施しました。
まず、ウイルス感染価を測定して不活化率を算出。「ウイルス感染価」とは、試料中に含まれる感染性を持つウイルス量のことを指し、「ウイルス力価(りきか)」とも呼ばれます。不活化率は、新型コロナウイルスの形態変化の観察と、タンパク質の減少量およびゲノムRNAの減少量を測定することで算出しています。
形態変化の観察は、ナノイーを1時間・2時間・3時間という3段階で照射した新型コロナウイルスと、照射していない新型コロナウイルスの個体をそれぞれ150個、1つひとつの形態について電子顕微鏡でチェック。
ナノイーを照射すると新型コロナウイルスはエンベロープなどが破壊され、本来の形態を保てずに歪みが発生したものが出現します。この結果、3時間で約99%の新型コロナウイルスに、不活化したと判断できる形態変化が見られました。
タンパク質とゲノムRNAにおいても、ナノイーを照射した新型コロナウイルスは如実に減少したことを測定。ナノイーは新型コロナウイルスのエンベロープ、タンパク質、RNAを破壊していることが確認されました。この検証結果は説明動画(YouTube)も公開しています。
次いで、ナノイーを照射した新型コロナウイルスと、照射していない新型コロナウイルスを、それぞれ同じ条件下で試験用のVero細胞に接種。細胞に結合する様子(感染する様子)をタイムラプス画像で比較観察しました。Vero細胞は、細胞培養試験によく利用される細胞株です。
約48時間後には、ナノイーを照射していない新型コロナウイルスは感染が広がり、細胞の死滅が明瞭に分かるほど進んだのに対し、ナノイーを照射した新型コロナウイルスは感染が広がらず大きな変化は見られませんでした。これにより、ナノイーの新型コロナウイルスに対する不活化の影響が可視化されました。こちらも説明動画(YouTube)が用意されています。
今後は実生活空間を想定した検証に期待
安木准教授は以上の実証試験結果を踏まえ、ナノイーが新型コロナウイルスを不活化するメカニズムは、エンベロープ、タンパク質、RNAのいずれかに作用しているのではなく、それぞれに多段階で影響を与えるためであるとしました。
パナソニック くらしアプライアンス社の宮下充弘副社長は、「今回の実証実験によってナノイーの効果効能などに違いが出る訳ではない」としつつ、「ウイルスレベルで何が起きているのかメカニズムの解明が進んだ」と述べ、今後も安木准教授ら外部研究機関の協力のもと、研究を続けていきたいとしました。
今回の実証実験結果は、パナソニックの製品に大きな変化をもたらすものではなく、医療機器として認定を受ける予定もないとのこと。それでも、これから登場するかもしれない新型コロナウイルスの新しい変異株や、別のエンベロープウイルスへの適用も期待できる結果です。私たち一般消費者にとっても明るい話題と言えるでしょう。
今後は徐々に、実験室の中だけでなく実生活空間を想定した検証でも有意な結果がもたらされ、消費者に効果的かつ確実性の高い活用方法が提供されるようになることを期待です。