里見香奈女流王位への挑戦権を争う第34期女流王位戦の挑戦者決定リーグは、紅組・白組の4回戦に当たる計6局の一斉対局が東京・将棋会館で行われました。紅組では全勝をキープする西山朋佳女流二冠と甲斐智美女流五段の直接対決が実現。対局の結果、115手で勝利した甲斐女流五段が最終戦を残して紅組優勝を決めました。
ダイレクト向かい飛車の力戦形
挑戦者決定戦への切符を争う天王山となった本局は、後手となった西山女流二冠がダイレクト向かい飛車に組んで幕を開けました。これに対して先手の甲斐女流五段がすぐに両成りを狙う角を打って反発したことで、局面は力戦調の展開に誘導されます。一段落した局面は、先手の歩得と後手の手持ちの金のどちらが働くかがポイントになっています。
一歩損を重く見た後手の西山女流二冠は、攻防の自陣角を打って局面を動かしにかかりました。この角打ちは①先手の7筋の歩をかすめ取る手と②先手の飛車の前に金を打って角の成り込む手を見込んだ両狙いでしたが、これに対して甲斐女流五段はあわてることなく左銀を上がって前者の狙いのみを防ぎます。
甲斐女流五段の理想の攻め
盤面右方からの攻めの権利を得た後手の西山女流二冠ですが、ここはいったん仕掛けを見送って駒組みを続けました。これに乗じて先手の甲斐女流五段が攻めの飛車・銀・桂を活用した結果、先手は攻撃の要となる3枚の駒を後手の角の脅威から逃れさせて万全の態勢を築くことに成功します。こうなってみると西山女流二冠が序盤に打った自陣角も働きの弱い駒になっています。
理想的な陣形に構えた甲斐女流五段は、満を持して戦いを開始します。右桂を中央に跳ね出しておいてから飛車先に合わせの歩の手筋を放ったのが理想的な攻めの呼吸。手順に横歩取りの狙いを見せられては、後手の西山女流二冠も持ち駒の金を2筋に手放すほかありませんでした。駒の損得はないものの、駒の働きが大差で形勢の針は先手の甲斐女流五段の有利に傾いています。
甲斐女流五段が逃げ切って紅組優勝
優位に立った甲斐女流五段は、その後も歩の手筋を駆使して敵陣をかく乱していきます。勝負を迫る西山女流二冠が飛車交換から飛車を打ち込んできた局面は一転して甲斐女流五段の窮地を思わせましたが、王手をかけられる一手前に玉を安全地帯にかわしたのが「玉の早逃げ八手の得」の格言通りの受けの決め手となりました。最後は持ち駒の飛車を効果的に敵陣に打ちこんだ甲斐女流五段が玉頭戦を制して勝利を決定づけました。
これで通算成績は勝った甲斐女流五段が4勝0敗、敗れた西山女流二冠が3勝1敗に。同星者が出た場合は直接対決の結果を優先するという規定により、本局の結果を受けて甲斐女流五段は最終戦を残して挑戦者決定戦進出を決めました。一方の白組では伊藤沙恵女流名人と加藤桃子女流三段がともに勝って全勝をキープ。白組優勝をかけて最終戦での直接対決に臨みます。
水留 啓(将棋情報局)