日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’23』(毎週日曜24:55~)では、安倍晋三元首相銃撃事件を検証する『シリーズ安倍元首相銃撃事件(1)一票の距離』(読売テレビ制作)を、きょう19日に放送する。
2022年7月8日午前11時半ごろ、奈良市の大和西大寺駅で参議院選挙の自民党・佐藤啓候補(当時)の応援演説に立った安倍晋三元首相(当時67)。「彼はできない理由を考えるのではなく…」という激励の言葉の途中に1発目が、その3秒後に発射された2発目の銃弾が致命傷になり、亡くなった。
当時、現場で安倍元首相の周辺のガードレール内にいたのは、警視庁のSP(Security Police)1人と奈良県警の警護員3人のわずか計4人。沿道の私服の警護員らを含めても30人ほどの態勢だった。さらに周辺の4人は想定より多く集まった前方の聴衆を警戒。警察庁の検証報告書には「誰1人1発目の発砲まで容疑者に気づくことはできなかった」と記されていた。
1発目の直後、SPは元首相を守る動きを見せたものの、県警の警護員らはすぐに動くことができなかった。警護員らは警察庁の検証チームの聞き取りに、「花火やタイヤの破裂音だと思った、銃声とは思わなかった」と説明。マイクの受け渡しのため、元首相の真後ろで銃声を聞いた自民党奈良市支部の櫻井大輔さんも同じ印象だったと話す。
こうした証言を裏付けるため、番組では独自に検証。世界各地の射撃場で200種類以上の銃を撃った経験のある銃器専門家は、犯行に使用された手製の銃が既製品の銃には見られない“特殊な銃声”であることが、音声とその波形から明らかだと指摘した。
選挙と要人警護は、いわば矛盾する関係だ。日本では公職選挙法で個別訪問が禁止されている。陣営は1人でも多くの人に投票してもらうために効果的な選挙カーや街頭での演説を主な選挙活動とする。政治家側は、握手など有権者と触れ合いの機会も設けたいだけに、警備畑の警視総監経験者でさえ「選挙の警護が一番難しい」と漏らす。情勢に合わせて、急に演説場所などが変わることも多く、実際、安倍元首相の奈良入りも決定は前日の午後だった。警察はほとんど準備する時間がないまま警備計画書を作成した。
日本における警護のプロフェッショナル、警視庁のSPは数百人ほどしかいない。警護対象者は現職の閣僚や三権の長などごく限られた人たちだ。安倍元首相の前の野田佳彦元首相は事件後も平日は毎朝、駅前に立つが、“辻立ちの鬼”のそばに警察の警護員の姿は一切なく、事務所スタッフのみ。リスクを感じながらもそれでも駅に立つのには、政治家としての信条がそこにあるからだという。
番組班は、銃社会のアメリカにおける選挙演説と警護のあり方にも視野を広げ、検証を続けた。浮かび上がるのは、徹底したプロによる警護を実践しているアメリカのSS(シークレットサービス)と「平和ボケしている」とも言われかねない日本の街頭演説の大きな差だった。
要人警護と聞くとどこか遠い世界だと距離を置く人も多い。しかし、街中に出る機会がある私たちがある日突然、遭遇する可能性は十分にあり、巻き添えもあり得る。
シリーズで放送される安倍元首相銃撃事件。第1話では、悲劇を繰り返さないための要人警備や選挙活動のあり方について様々な角度から検証を行う。