今回の研究では、このピナコサウルスの化石に「恐竜の音声進化」の手がかりを求め、詳細な観察・記載が行われたという。そして、日米の博物館に収蔵されている現生鳥類・爬虫類の喉頭骨標本100点以上との比較が行われた。その結果、ピナコサウルスの頭骨に残された不明瞭だった骨が、世界で初めて恐竜の喉頭骨(輪状骨、舌骨、披裂骨)であることが判明。これまで、喉頭骨は化石にならないと考えられていたが、今回の研究によって恐竜類でも喉頭骨が化石になることが初めて示され、ピナコサウルスの喉頭化石が世界最古の喉頭骨の化石となったという。
さらに、ピナコサウルスと現生鳥類・爬虫類の形態の比較により、ピナコサウルスの喉頭骨が鳥類に類似していることも見出された。ピナコサウルスの喉頭は、(1)大きな輪状骨を持つ、(2)披裂骨が大きな突起を持つ、(3)披裂骨が長い、(4)輪状骨と披裂骨の間に関節を持つといった、鳥類との類似性が発見されたとする。これらピナコサウルス喉頭の特徴は、鳥類に見られる声門部の変形や音声拡散など音声コミュニケーションに適した形態をしており、恐竜類でも鳥類のような発声を行っていた可能性が示唆されたと研究チームでは説明している。
なお、研究チームでは今回の研究成果により、今後、未知だった喉頭骨について研究が進むと予想されるとしており、今後、ほかの恐竜類などから喉頭骨の化石がさらに発見されれば、これまで極めて難解だった絶滅動物の音響生態・音声進化の解明が大きく期待できるとしている。
しかしまだ謎も残されている上に、今回の成果からさらなる疑問も浮かんできたともしており、研究チームは現在も福島県、北海道、モンゴルなどにあるジュラ紀~白亜紀の地層を調査し、新たな手がかりを探っているとしているほか、ピナコサウルスの喉頭骨の同定に成功した理由としては、現生動物の膨大な骨格標本が保存されていたことで、比較できたことが大きいとしており、今後も、博物館における継続的な標本収集・保存・調査研究事業と、国内外の複数の機関による連携が重要であるとしている。
今回の標本の複製については、福島県立博物館のポイント展「世界初!恐竜の喉の化石」において、3月10日(金)まで展示される予定だという。