パナソニックが1月25日に発表したパーソナル食洗機「SOLOTA(ソロタ)」が、いよいよ2月17日に発売します。
ソロタは、ほぼA4サイズというコンパクトな設置面積に、最大6点までの食器を入れて洗える、単身世帯向けの食器洗い乾燥機。公式ECサイト「Panasonic Store Plus」で提供している月額1,290円のサブスクリプション利用では、申し込み多数につき配送が3月中旬~下旬以降となる人気ぶりです(1月26日以降申し込みの場合)。発売を前に、ソロタの開発秘話が明かされました。
賃貸で一人暮らしする若者向けの食洗機
パナソニックは1960年にビルトイン、1968年に卓上タイプの食洗機を発売している食洗機の老舗メーカー。2017年には食洗機の累計生産1,000万台を達成しました。
同社の現行食洗機ラインナップには、ファミリー向けのレギュラータイプがNP-TZ300/NP-TH4/NP-TA4の3製品、同スリムタイプがNP-TSK1、NP-TSP1。少人数向けでは2~3人向けのNP-TCR4を販売しており、特にファミリー世帯向けモデルが手厚く用意されています。
一方で、食洗機の国内普及率は2021年で29%(内閣府消費動向調査耐久消費財普及率・全世帯)と、10世帯に7世帯は食洗機を所持していません。これを年代/世帯・住居形態別にみた場合、賃貸住宅および、20代~30代の単身世帯での利用が目立って少なくなっています。
例えば持ち家世帯では35.2%の普及率に比べ、賃貸住宅では5.8%。年代/世帯別では、29歳以下の二人以上世帯で14%のところ単身世帯では2.3%、30代の二人以上世帯で39.1%のところ単身世帯で7%と、大きな差があります。
食洗機を設置するには、モデルによって水栓の分岐工事や、相応の設置スペースが必要な点がネック。台所の広さがそれほど取れない単身世帯向け賃貸住宅では、設置しにくいことはうなずける話です。
パナソニックが2022年11月に実施した単身世帯向け調査では、一人暮らしで必要な生活家電として「冷蔵庫」「洗濯機」が上位にランクインしたものの、「食器洗い乾燥機」はアイロンと並んで最下位でした。
「存在は知っているが、一人暮らしで使うイメージが湧かない」食洗機という家電。今回、「もっと多くのユーザーに食洗機を使ってもらうことで、普及率を上げていきたい」と考える同社が、賃貸で暮らす若年の単身世帯向けにターゲットを絞り込んで開発したのが、パーソナル食洗機「ソロタ」でした。
設置スペースはA4サイズ大、食器6点を洗浄
ソロタは賃貸で暮らす単身世帯向けの食洗機として、小型サイズに振り切った食洗機です。詳細は別記事「一人暮らしの食洗機、パナソニック『ソロタ』はA4サイズの設置面積で工事いらず」をご参照ください。
- 幅31cm×奥行き22.5cmというA4サイズ大の設置面積
- 最大6点の食器、最大4点の小物を一度に洗浄(合計10点)
- 分岐水栓不要の着脱タンク式
実物を見ると想像よりずっと小さく、食洗機というより小型の卓上キャビネットのような印象を受けました。同社のファミリー世帯向け食洗機で洗える食器点数が24点~40点程度であることを考えると、ソロタで洗える食器6点・小物4点という数はかなり絞られたものになっています。
一人暮らしが使う「スタメン食器」とは?
ソロタは、2年半の時間をかけ開発されました。開発プロジェクトには20代後半~30代前半を中心とした若手メンバーが集合。初期段階では一人暮らしの食事情や価値観などを調査しつつアイデアを出し合いました。
その過程で、ラスベガスにある派手な噴水をイメージし、光と音で洗浄時間を彩る「ベガス洗浄」など楽しいアイデアも出たものの、どこか「ターゲットと紐づいていない」と感じ、まずはターゲット世代である自分たちの食生活を振り返ろうと、開発メンバーの食事の写真を持ち寄って議論していったといいます。
そんな中、「忙しいので料理する時間がない。コンビニで買ったパウチ食品やお惣菜を家でお皿に盛って食べる」「食器をシンクに貯めがち。数は多くないけれど洗うこと自体がストレス」「使う食器は毎日同じ、ルーティンしている」といった意見にメンバーから多くの共感が集まり、「これはターゲットの特徴をつかんでいるかもしれない」と、具体的な裏付け調査がスタートしました。
ソロタのコアターゲットは次の通り。
- 単身世帯
- 賃貸世帯
- 20代~30代
- 就業者
- 中食メインの食生活
パナソニックによる単身世帯向け調査(2022年8月)では、25~39歳の単身世帯が平日に使用する食器点数は2点が41%で最多、次に1点で37%、次に3点で17%という結果になり、食器もルーティン化していることがわかりました。
この結果を基に、普段使う「スタメン食器」6点を選出。これを収納できる食洗機の開発を目指しました。
スタメン食器(スターティングメンバーとなる一軍食器)
- 大皿または中皿
- ご飯茶碗
- 汁椀
- 深中鉢
- マグカップ・グラス
- 小皿
小型ノズルとタンクで洗い切れ! 部品はすべて小型化
食器6点を収納できる食洗機――賃貸に住む単身者向け製品ならばできる限り省スペースが望ましいですが、製品化には「小さいと食器が入らない。しかし、大きいと置けない」という相反する課題を解決しなければいけません。
開発にあたりソロタが最初に目指した大きさは、靴を収納する紙箱。靴を買ったときに渡される、あのサイズです。そもそも食洗機を置きたい人ではなく、食洗機の利用を考えてもいなかった層にアプローチする製品なので、サイズの具体的な数値目標はなく、「この小ささなら置いてもいいな」と思ってもらえる大きさを目指していったといいます。開発にあたってはモックを何度も作成して台所に置き、実寸法を見ながらミリ単位で調整が重ねられました。
製品サイズの議論が深まる中、開発メンバーのひとりで技術担当の楠健吾氏(パナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機BU 食洗機技術部)は「実際にこのサイズで作れるか?」という点が不安だったと明かしました。
これまでファミリー世帯向けの食洗機を作ってきたパナソニックにとって、ヒーターや基板、ノズルなど食洗機で使ってきた部品はすべて従来から小型化する必要がありました。
特に食洗機の重要部品、水を噴射するノズルは従来から2回り以上の小型化を実現。賃貸向けに水栓分岐が不要なタンク式を採用したソロタの限られた水量で、汚れた食器を確実に洗浄しきるべく、水の流れなどをシミュレーションする流体解析を活用したほか、実物でもノズル角度や配置の微調整を繰り返したとのこと。
型破りの背面窓。狭い台所でも置けるデザインに
デザインにも本体を小さく見せる工夫を取り入れました。デザインを担当した松本優子氏(パナソニック くらしプロダクトイノベーション本部 デザインセンター)が提案したのは、オープンシェルフのように、前面だけでなく背面もクリアな窓にすること。これにより“抜け感”を演出し、見た目から生まれる「物量感」の低減を狙っています。
しかし、松本氏からこの案が出たとき、楠氏は「驚愕」。というのも、庫内で水を噴射し洗浄する食洗機において、窓を作るということは水漏れを防ぐ機構が余計に必要になるためです。
熱湯で食器に付いた脂を落とす食洗機は、一枚窓では触れないほど熱くなってしまうため、前後ともに二重窓を採用するなど、窓なしと比べ部品点数は増加。しかし実際に台所へモックを置くと「これなら自分のキッチンでも置ける」と納得し、前後ともクリアな窓という斬新なデザインで設計が進みました。
楠氏によると、両面に窓を付けたことで、通常ならば見られない背面からの見た目も意識したといい、視覚的なノイズを除去すべく、前面・背面とも外観にビスを見せない構成を採用。前面パネルの裏側(前扉を開けた裏)からもビスを無くすところにもこだわったといいます。
カラーについては、多くの家で受け入れられやすいホワイトがベース色として採用されました。試作段階ではブラックも検討していたそうですが、ファミリー向けの大型キッチンには似合うものの、賃貸の手狭なキッチンには向かないという理由でボツに。
外観のポイントである窓枠を強調するため、タンクが備えられた台座部分は白とは異なるカラーを組み合わせる予定でした。その台座の色は、白とマッチし、ステンレス(シルバー)のキッチンとホワイトの間に挟むことで統一感の出る色としてグレーが選ばれ、ホワイトとグレーのツートンカラーが決定。2年半の開発期間を経て、今回ようやくの販売開始に至ります。
2月17日にソロタを発売することで、各世帯向けの食洗機が出揃ったというパナソニック。現在29%である食洗機の国内普及率を、2023年に50%まで引き上げるという目標を掲げています。
パナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機BU 国内マーケティング部の宮本侑弥氏は「50%の目標はなかなか高い」としつつも、商品改善とマーケティングの2つを軸に、ユーザーの声を活かしたり、ユーザー自身が気づかない需要に対し提案をしたりして、販売を促進させる活動を進めたいとしました。