少しずつ景気回復の兆しが見えてきたことから、減少に転じていたボーナスは増加傾向にあります。転職サービス『doda』が行った「ボーナス平均支給額調査」では、高い専門性やスキルが求められる職種がランキング上位にランクインしていること、そしてTOP30の半数以上をエンジニア職が占めていることが明らかになりました。
こうした職種が上位に多くランクインしている理由は何なのか。なぜこんなにも多くのエンジニア職がランクインしているのか。本稿では、ボーナス支給額の実態を、本調査結果に加え『doda』の転職データを用いて詳しく解説します。
ボーナス支給額の実態調査
転職サービス『doda』が行った、正社員として働く20~59歳までのビジネスパーソン1万5,000人を対象とした「ボーナス平均支給額の実態調査」にて、「ボーナスがある」と答えた人の年間平均支給額※(1)は105.1万円で、前回調査※(2)の100.2万円より4.9万円アップしました。
※(1)2021年9月~2022年8月の1年間に支給されたボーナス
※(2)2020年9月~2021年8月の1年間に支給されたボーナス
内訳を見てみると、冬が49.6万円で1.1万円アップ、夏が50.1万円で3.1万円アップ、その他のボーナスは5.4万円で0.7万円アップし、それぞれ前回よりも上がっています。
今回のボーナスについて、「前回のボーナスと比べて支給額に変化はありましたか」と尋ねたところ、「増えた」(32.5%)、「減った」(23.5%)で、「増えた」と答えた人が「減った」と答えた人を上回る結果に。
「減った」と答えた人のほうが多かった前回に比べると、「増えた」と答えた人の割合は10.5ポイント増加しています。
年代別で見ていると、20代は7.5万円アップの70.4万円、30代は3.6万円のアップの99.8万円、40代は5.7万円のアップの109.7万円、そして50代は2.9万円のアップの126.2万円で、全年代で増加しています。
このことから、新型コロナにより停滞していた経済に、少しずつ回復の兆しが見えてきているといえるでしょう。
高い専門性やスキルが求められる職種が上位にランクイン
全体感を把握したところで、まずは上位にランクインした職種を見ていきましょう。
前回に引き続き、年間のボーナス支給額が最も多かった「内部監査」(189.9万円)は、J-SOX※(3)などの経理・管理会計系、IT・セキュリティ系やSDGsといった環境関連系等、専門性が求められる分野でのニーズが高まっています。
※(3)金融商品取引所の上場企業が、事業年度ごとに公認会計士、もしくは監査法人の監査を受けた内部統制報告書を、有価証券報告書とともに内閣総理大臣に提出することを義務化した制度(内部統制報告制度)のこと
高い専門性を有する、経験豊富な40代、50代のビジネスパーソンが本職種の多くを占めていることが、支給額が高い理由と考えられます。
次に高かった、メディカル分野の専門知識が求められ「MR」(181.5万円)は、コロナワクチンや飲み薬、さらには超高齢化社会の日本では、薬の需要がますます高まっています。
薬は薬価が決まっているため、メディカル業界、特に製薬メーカーは他業界と比較しても利益率が高く、各社増収増益となっており、その結果がボーナスに反映されたと想定されます。
「融資審査/契約審査」(170.1万円)も「内部監査」「MR」と同様に、金融系の専門性が求められる職種であることから、ボーナスの支給額が高い職種といえます。
TOP30の半数以上が、エンジニア職種
上位にランクインした職種は、高い専門性やスキルが求められるということが分かりました。もう1つ、ボーナスが高い職種の傾向としていえることは、エンジニア職がTOP30の半数以上を占めているということです。
具体的にいうと、以下16のエンジニア職がTOP30を占めています。
●「モノづくり系エンジニア」8職種(製品企画、基礎研究、経路設計、評価/実験/デバッグ、技術営業、組み込みエンジニア、品質管理/品質保証、機械設計/金型設計/光学設計)
●「IT/通信系エンジニア」5職種(研究開発/R&D、品質管理、ネットワークエンジニア、インフラコンサルタント、アプリ系ITコンサルタント)
●「素材/化学/食品系エンジニア」2職種(研究/開発、品質管理/品質保証)
●「建築/土木系エンジニア」1職種(設計監理/コンストラクションマネジメント)
なぜこんなにも多くのエンジニア職がランクインしているのでしょうか? 理由は大きく分けて2つあると考えられます。
1つ目は、IT人材不足がますます深刻化しているため、エンジニアの年収が上がっている、つまりはボーナスも上がっていることが関係している可能性が考えられます。
下図は、doda人材紹介サービスにおけるIT系職種新規求人の年収構成比の推移を示したグラフです。
グラフからもわかるように、2018年は、年収600万円未満の求人が半数以上を占めていました。しかし、2022年には年収帯600万円以上の求人が半数以上を占めるようになりました。
これは、IT人材が不足しているため年収を上げないと人材確保ができないことに加え、新型コロナの後押しもあり、IT・通信業界では特に経験豊富な人材が、事業会社ではDX推進を担えるレベルのハイスキル人材が求められるようになったことが要因であると想定されます。
2つ目は、年収が高い傾向にある事業会社にIT人材が移動している、これによりボーナスも上がっている可能性が考えられます。
下図は、doda人材紹介サービスにおける、IT系職種新規求人の業種構成比推移をグラフで示したものです。事業会社におけるIT職求人の割合が徐々に増えてきているのがわかります。
これまでは、システムの受託開発を担うIT・通信業界のSIerがIT人材をメインで採用してきました。しかしながら昨今では、SIerと比較し年収が高い傾向にある事業会社でも、DX推進やデータ利活用を行う動きが活発化し、ハイスキルIT人材の採用を行うようになってきています。
それに対抗するかのように、人材流出を食い止めるために、年収を引き上げるSIerも出てきています。それらが、エンジニアのボーナスを押し上げる要因になっていると想定されます。
来年以降もボーナス支給額は増える見込み
ここまで、dodaの「ボーナス平均支給額調査」を用いて、ボーナス支給額の実態を紐解いてきました。新型コロナウイルス感染症が「5類」へ引き下げられることが決定し、影響を受けていた業界でも、徐々に経済活動が回復してくることが予想されます。
また、政府の後押し、大手企業を中心とした産業界の方針からも、日本全体として給与アップが求められており、それらのことから、来年以降も余程のことがない限り、ボーナスは全体的に増えていくでしょう。
また、構造的な人手不足が続く中、ボーナスを含めた年収帯を上げて採用を試みる企業がこれまで以上に増える見込みです。
特に人手不足が顕著なエンジニアにおいては、年収が相対的に高い事業会社による採用も激化していくことが想定され、エンジニアのみジョブ型雇用を取り入れ他職種よりも高いボーナスを支給できるようにする等の施策も見られることから、ボーナスは益々上がっていくと考えられます。
著者プロフィール:大浦征也(おおうら・せいや)
パーソルキャリア株式会社 『doda』編集長
2017年より約3年間、『doda』編集長を務め、2019年10月には執行役員に。2022年7月編集長に再就任。転職市場における、個人と企業の最新動向に精通しており、アスリートのセカンドキャリアの構築にも自ら携わる。