JBLの完全ワイヤレスイヤホンに、新たなフラッグシップモデル「TOUR PRO 2」(33,000円)が登場する。3月10日の発売に先がけて、短期間ながら実機を借りて試用できたので、インプレッションをお届けしよう。
今や多くの人が日常的に使うデバイスのひとつとなった完全ワイヤレスイヤホン。JBLも手ごろさを重視する向きや、ゲームやスポーツ向けに特化したモノが欲しい……などのニーズに応え、多彩なラインナップを展開している。なかでもTOURシリーズでは機能を充実させた、比較的高価格帯のヘッドホンやイヤホンをそろえており、新たに登場するTOUR PRO 2もここに位置づけられている。
JBLは2020年に初めてフラッグシップの完全ワイヤレスイヤホン「CLUB PRO+ TWS」を投入し、当時人気を博した。あれ以来3年ぶりにフルモデルチェンジを果たし、満を持して新たなフラッグシップモデルとなる、TOUR PRO 2を投入。「TWS(完全ワイヤレスイヤホン)の『新基準』を創る」と、気合いの入れ方もひと味ちがう。
実際、TOUR PRO 2では音質や装着感、操作性にいたるまでほぼすべてをCLUB PRO+から刷新。さらに充電ケースには、カラー表示対応の1.45型タッチディスプレイを載せてきた。これまでのJBL完全ワイヤレスイヤホンはもちろん、他社製品にもない特徴が光っている。カラーはブラックとシャンパンゴールドの2色。今回は製品版のブラックをお借りした。
このユニークなケースでは、音楽再生/一時停止や曲送り・曲戻し、音量調整といった基本的な操作に加えて、JBLのヘッドホン/イヤホン用スマホアプリ「JBL Headphones」から行える各種操作・設定も、スマホなしで直接行える点が面白い。もちろん、イヤホン本体や充電ケースのバッテリー残量、現在時刻も表示できる。
バッテリー残量の表示など、簡易なインジケーター機能をケースに付加した製品は以前からいくつか見受けられる。しかし単にそういった情報を表示するだけでなく、TOUR PRO 2のように実用的な機能を多数盛り込んだ完全ワイヤレスイヤホン用の充電ケースは、筆者はちょっと見たことがない。
なおTOUR PRO 2は、前出のCLUB PRO+のマイナーチェンジ版である現行製品「JBL TOUR PRO+ TWS」の後継機種にあたる。2の発売に伴い、TOUR PRO+はまもなく終売となる見込みだ。
イヤホンにもスマホにも触れずに、“新感覚の操作体験”を
まずはTOUR PRO 2のスマート充電ケースでできることを、ざっくり箇条書きにしてみた。
- 音楽再生/一時停止、曲送り・曲戻し
- 音量調整
- アンビエントサウンド オン/オフ(ノイズキャンセリング/外音取込/トークスルー)
- イコライザーの切り替え
- アラーム
- 空間オーディオ効果 オン/オフ
- 画面の明るさ調整
- ケースのロック画面の壁紙変更
- ボイスアウェア オン/オフと調整 ※通話時用の機能
- オートプレイ&ポーズ オン/オフ
- スマホ通知と通知内容のプレビュー オン/オフ
- 左右イヤホンを鳴らして探す
- フラッシュライト ※ケース画面の輝度を上げてライト代わりにできる
各機能のオン/オフは、ケースの画面に表示されるトグルスイッチを押すだけでよく、ディスプレイを左右にフリックすると項目自体を切り替えられる(画面メニューの端までいったらループする)。
完全ワイヤレスイヤホンをよく使う人であれば分かってもらえると思うが、イヤホン側のボタンを押したり、イヤホンそのものに数回触れたりして音楽再生/一時停止や音量調整、ノイキャンのオン/オフといった操作を行うのはちょっとわずらわしい。押したりタップしたりする回数を覚えなければいけないし、さらに左右でも割り当てられる機能が違うとなれば、正直結構めんどくさい。触れるたびに耳の中でゴソゴソ音がするのもあまり気分は良くない。
「それならスマホからやればいいじゃん」と思われるかもしれないが、昨今のスマホは本体サイズが大きくなってきたこともあり、特に混雑した電車の中などでは、そんな単純操作のためにスマホを出すのもなんだかなぁ……となる。こういうとき、コンパクトな充電ケースをポケットから取りだしてポチポチやるだけで操作できるというのは便利だし、新鮮な感覚だ。
また、これまではJBL Headphonesアプリを開かないとできなかった操作も、TOUR PRO 2ではケースを手に取るだけで簡単にできる。イコライザー(EQ)の切り替えはその最たるものといえるだろう。一度設定してしまったらそれきり、という人は少なくないと思うが、EQを積極的に活用したい向きにとってこれはありがたい機能だと思う。
あとは、「イヤホンの片耳だけ部屋のどこかにあるはずなんだけど見つからない!」というときに、ケースとイヤホンの通信がつながる場所であれば、ケース上から最大音量でイヤホンの音を鳴らして落とした場所を特定することもできる。こういった機能は本来アプリにも備わっているものだが、イヤホンをなくしたというショックでつい忘れられがちだ。TOUR PRO 2の場合、ケースが手元に残っていればアプリのことを思い出さずとも、同様の操作ができる。
ケースでできることはこれだけではない。たとえば、スマホで着信した電話や、Slackのハドルミーティング、Google Meetなどのオンライン通話サービス利用時には、受話/終話ボタンやマイクミュートボタンなどが表示され、ケース画面上のボタンをタップするだけで各種操作が行える。スマホやPCから一時的にちょっと離れているときも、このケースさえあればサクッとマイクミュートをオン/オフできて、意外と重宝する。
ただ、筆者が試した限りでは、Slackのハドルミーティング終了時に終話ボタンを押しても、通話終了にならなかった。TOUR PRO 2のスマート充電ケースには、今後も機能強化を含むファームウェアアップデートを提供していくようなので、こうした不具合(?)があってもいずれ改善されていくものと期待したい。
JBL 上位TWSイヤホン初のショートスティック型。装着感は良好
いきなりケースの話を長々と書いてしまったが、TOUR PRO 2はイヤホン側の進化ぶりにも注目だ。
デザインは、耳の中にスッポリ収まる現行のTOUR PRO+ TWSから大きく変わって30%小さくなり、さらに独自のショートスティック型を採用。手ごろな価格と音質や装着感の良さで注目を集めた「LIVE PRO+ TWS」(2021年発売)と同様に、耳の中心部に位置する窪み(コンチャ)と前方の突起部(トラガス)の構造を活かし、ソフトに、かつ確実にイヤホンを支えられるようになっている。
JBL製TWSイヤホンのフラッグシップモデルとしてショートスティック型を初めて採用したのは大きなトピックなのだが、実際、装着感は非常に良好だ。それでいて、AppleのAirPods Proのように軸部が太くなく、バッサリと円柱を縦半分にカットしたようなカタチをしているので、外から見たときの耳への収まりも良く、正面から見てもイヤホンが目立たない。
装着性の面では、「LIVE FREE 2」(2022年発売)で採用していた、サウンドチューブ(音筒)とイヤホン本体を楕円のカタチにした“デュアル・オーバルシェイプデザイン”を、TOUR PRO 2にも導入。筆者の耳にもフィットし、外の中高域のノイズを物理的に遮⾳するパッシブNC効果がしっかりと感じられた。
内部には10mm径のダイナミック型ドライバーを搭載しており、JBL製品として初めてDLC(Diamond-Like Carbon)コーティング振動板を採用している点に注目だ。剛性の高いPEN(ポリエチレンナフタレート)の表面にカーボン素材であるDLC(Diamond-Like Carbon)をコーティングすることで、高域特性が向上し、レスポンスも高められている。
飛行機内で比較視聴テスト。高い音質・ノイキャン性能が魅力
今回TOUR PRO 2の実機を借りている間に、飛行機に乗る機会があったので、手元にあるJBLの完全ワイヤレスイヤホン(TOUR PRO 2、TOUR PRO+ TWS、LIVE PRO+)と、ボーズ「QuietComfort Earbuds II」(QC Earbuds II)を持ち込んで、ノイズキャンセリング機能を使いながら簡単な比較視聴テストを行ってみた。
主に聴いた楽曲は、やなぎなぎのアルバム『Follow My Tracks』から「モノクローム・サイレントシティ」。あえて音数の少ない、落ち着いたバラード調の曲を聴き、NC効果と音質のバランスに注目した。また、この曲は間奏部分の一部に小雨が降る音が収録されているのだが、その立体感や包まれ感をどれくらい再現できるかもチェックしてみた。
最も装着感がよく、音楽を楽しく聴かせてくれたのはTOUR PRO 2だ。この楽曲にふさわしい清涼感や、見通しの良さ、音の粒立ちといった表現力の豊かさが光った。この点ではボーズのQC Earbuds IIもかなりイイ線をいくのだが、NCオン(クワイエットモード)時は、曲のダイナミズムやディテール描写でTOUR PRO 2に一歩譲った。
NC効果の単純な強力さだけでいえば、逆にQC Earbuds IIのほうが勝っていた。この製品はNCイヤホンにありがちな圧迫感があまりなく、酔いにくい。それでいて機内に響くエンジン音は、ほぼ耳の中に入ってこなかった。一方でTOUR PRO 2のノイキャンは、耳障りに響く轟音に対しては大いに効果を発揮するが、人の話し声や機内アナウンスといった音は、それなりに聞き取れるレベルで耳に入ってくる。
これは電車であっても同様で、レール上を走るときのゴォーッという低い響きは消えるものの、駅構内や車内でのアナウンスや、カタンカタンと響く走行音まで完全に消すわけではない。
ちなみにNCの傾向は、現行のTOUR PRO+やLIVE PRO+もよく似ている。前者は若干イヤホンのサイズが大きいので、そこも含めて筆者の耳には圧迫感が強いと感じた。音質も登場時は好印象だったのが、TOUR PRO 2と比べてしまうと音の輪郭や立体感に甘さを感じ、舞台セットのような“書き割り感”が否めない。後者はフィット感は良いものの、音質については上位機と比べるともう一歩という感じだった。
いずれにしろ、NC効果は人によって感じ方が異なるものだし、どちらがいい悪いというよりも、好みの問題になるだろう(個人的には、NCオン時もアナウンスが多少聞こえる方が安心感がある)。個人的には、飛行機の旅のお供にはJBL TOUR PRO 2を選びたい。
ガジェットマニアにも、そうでない人にもオススメできる逸品
JBL TOUR PRO 2は非常に見どころの多い製品で、ここまで書いてきたトピック以外にもさまざまな特徴を備えている。たとえば、JBL独自の空間サウンド機能ではスマホアプリがなくても動画や音楽、ゲームの各コンテンツに合わせたサウンド設定が行える(ただし、Dolby Atmosやソニーの360 Reality Audioといった規格に対応した楽曲をデコードする機能はない)。動画やゲームを楽しむときの遅延も従来製品より低減。ほかにも、個人の聴覚特性にあわせて音を最適化する「Personi-Fi 2.0」が利用できる。
通話機能に関しては、TOUR PRO 2を使って通話したときも相手にはまったく違和感なく声が届いたようだし、昨今の完全ワイヤレスイヤホンで求められる、同時に2台の機器に接続するマルチポイント機能にもしっかり対応。テレワーク時のビデオ会議などでも実力を発揮してくれそうだ。
BluetoothコーデックはSBC、AACに加えて後日LC3にも対応予定。また、今後のファームウェアアップデートでLE Audioへの正式対応もうたう。LE Audio対応の送り出し機器(スマートフォンなど)は現状ほとんどないが、いち早く新しい技術へのサポートを予告してくれるところは、筆者のようなガジェット好きにとってうれしいポイントだ。
aptX系コーデックに対応していない点は人によっては気になるかもしれないが、接続の安定性を考えればAACだけでも十分だろう。実際、試用中に音切れなどで悩むことはまったくなかった。また、バッテリー持ちも単体で約8時間、充電ケース込みで約24時間持つ(いずれもNCオン時)ということで、実使用には十分すぎるスペックといえる。
価格は33,000円と、完全ワイヤレスイヤホンでは高価な部類に入る。だが競合製品と並べても全方位的にスキがなく、音質や使い勝手など遜色ない完成度でありながら、人気製品がひしめく3万円台の完全ワイヤレスイヤホンのなかでは、実は割と買いやすいほうである。個人的にはむしろ、「こんなに機能盛り沢山なのに3.3万円でいいの?!」という驚きすら感じる。それくらいコストパフォーマンスは十分高い。
参考までに3万円台のイヤホンといえば、ソニー「WF-1000XM4」(実売約38,500円)、ボーズ「QuietComfort Earbuds II」(同約36,300円)、ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 3」(同約39,930円)、オーディオテクニカ「ATH-TWX9」(同約33,000円)、Apple「AirPods Pro(第2世代)」(39,800円)、final「ZE8000」(36,800円)あたりが思いつく。3万円台といいつつほぼ4万円近い製品も存在する中で、JBL TOUR PRO 2はスマート充電ケースという他の製品にはない特徴を打ち出しているのが強く、また興味深いポイントでもある。
音が良くてノイキャン付きなのも、機能が充実しているのも、このクラスではある意味当たり前。そういった基礎体力をしっかり備え、さらに“トガった特色のあるデバイス”を探している人には、JBL TOUR PRO 2がピッタリだ。もちろん、「ガジェット好きってわけじゃないけど、やっぱり音質も使い勝手もいい完全ワイヤレスイヤホンがほしい」という向きにも、ぜひオススメしたい。