第73期ALSOK杯王将戦(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は、一次予選の深浦康市九段-千田翔太七段戦が2月15日(水)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、151手で勝利した深浦九段が次回戦進出を決めました。

深浦九段の相掛かり研究

振り駒が行われた本局、先手番となった深浦九段は相掛かりの序盤戦に誘導します。飛車先の歩交換を保留して右桂の活用を急いだのは近年流行の作戦のひとつで、つねに横歩取りの狙いをちらつかせることで後手から角道を開ける手をけん制する狙いがあります。これに対し後手の千田七段が6筋の歩を突いたことで、本局ではすぐの戦いは回避されました。

穏やかな駒組みが続き、先手の深浦九段は自陣を銀冠の好形に組み替えて来るべき戦いに備えます。やがて駒組みが頂点を迎えたところで、30分の熟慮のすえに3筋の歩を突き捨てたのが深浦九段の見せた好機の仕掛けでした。この手に素直に応じると先手から角によるコビン攻めが生じるため、後手の千田七段はこの歩を取らずに辛抱しました。

深浦九段のリードと一瞬の落とし穴

仕掛けに成功した先手の深浦九段は、その後も合わせの歩や垂れ歩といった基本手筋を組み合わせて着実に後手陣を乱していきます。後手陣中央の急所に無条件で馬が作れたのはさすがに大きく、この時点で深浦九段の有利が明確になりました。盤上は「深浦九段の攻め対千田七段の受け」という構図のまま終盤戦を迎えます。

粘りを見せたい後手の千田七段は、攻防の自陣角を放って局面の複雑化を図ります。続いて先手陣に放ったたたきの歩を拠点としてここに金を打ち込んだのが実戦的なもたれ戦術で、迫力のある反撃を用意して相手を楽にさせません。この直後、攻めを続ける先手の深浦九段が5筋に桂を成り込んだところが勝負の分かれ目となりました。

逆転許さず深浦九段が勝利

深浦九段がこの成桂を引いて千田七段の玉に詰めろをかけたとき、千田七段は玉を立って詰めろを解除しました。これは玉の上部脱出を図ることで先手の攻めをかわそうという狙いでしたが、これに対して深浦九段の打った自陣への銀打ちが、後手の角を押さえこみつつ後手玉の逃亡を防ぐ好手となりました。千田七段としては、玉上がりに代えて金を上がって横への逃走路を開けておく手が優った可能性があり、この変化においては激戦が予想されました。

一瞬のピンチをなんとか回避した深浦九段は、ここから着実な攻めを続けて千田七段の玉への寄せの網を絞っていきます。この玉を再び後手陣に引き戻しておいてから、一転して自陣にあった質駒の金を取ったのが最後の決め手。竜と金銀3枚での「4枚の攻め」が実現してはついに逆転の余地がなくなりました。

終局時刻は17時13分、自玉の詰みを認めた千田七段が投了を告げました。勝った深浦九段は次戦で郷田真隆九段と対戦します。

  • 勝った深浦九段は公式戦の連敗を8で止めた(未放映のテレビ対局を除く)(写真は第69回NHK杯将棋トーナメント優勝時のもの)

    勝った深浦九段は公式戦の連敗を8で止めた(未放映のテレビ対局を除く)(写真は第69回NHK杯将棋トーナメント優勝時のもの)

水留 啓(将棋情報局)