具体的には、物質中への非磁性不純物の導入には、高エネルギーの電子線を試料に照射することで不純物量を制御できる電子線照射が用いられた。

同手法により、不純物量が制御されたCsV3Sb5単結晶試料に対し、常圧および高圧下での電気抵抗測定から超伝導転移温度の変化が調べられたほか、超伝導ギャップ構造を反映する物理量「磁場侵入長」の温度依存性の測定も行われ、不純物が超伝導ギャップ構造に与える影響が調べられた。

その結果、CsV3Sb5の超伝導転移温度は不純物量が少ない領域で大きく抑制される一方で、その後は不純物量を増やしても転移温度がほとんど抑制されないことが判明。このような不純物応答は、従来型のBCS超伝導体だけでなく、非従来型の銅酸化物高温超伝導体で見られる応答とも異なっていると研究チームでは説明する。

  • カゴメ格子構造を持つCsV3Sb5

    (上)カゴメ格子構造を持つCsV3Sb5。(a)c軸方向から見たCsV3Sb5の結晶構造。V(赤)とSb1(黄)が二次元シートを構成しており、Vイオンによってカゴメ格子が形成されている。(b)CsV3Sb5の結晶構造の三次元図。(下)CsV3Sb5におけるボンド秩序の形成パターン。(a)ダビデの星。(b)逆ダビデの星 (出所:東北大プレスリリースPDF)

さらに磁場侵入長測定の結果から、超伝導ギャップが異方的な構造を有していることも判明。これらの結果は、格子揺らぎではなく、ボンド揺らぎによる超伝導において理論的に期待される振る舞いとよく一致しているという。CsV3Sb5では非従来型であるにも関わらず、不純物に強い超伝導状態が実現していることが示されたことから、研究チームでは今回の研究成果について、カゴメ格子物質で期待される特異な電子状態や超伝導状態を理解する上で重要な知見となることが期待されるとしている。