三井不動産は宇宙関連産業を活性化させるべく、オープンプラットフォームの一般社団法人「クロスユー」を4月1日よりスタートさせると発表した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携協定を締結しており、産官学で取り組みを推進していく。都内で2月13日に開催した記者説明会では、関係者が抱負を語ったほか、日本橋の宇宙産業共創の拠点となる新しいオフィスも公開した。

  • 宇宙関連産業を活性化させるオープンプラットフォーム「クロスユー」がスタートする

日本橋から6つめの街道を宇宙へ

クロスユーでは、宇宙ビジネス企業はもとより、地上の課題に取り組む非宇宙企業も含めた多様なプレイヤーが参画しやすいオープンプラットフォームを目指している。理事長には東京大学大学院 工学系研究科教授の中須賀真一氏、専務理事には三井不動産 取締役 専務執行役員の植田俊氏、理事には元内閣府宇宙開発戦略推進事務局長の高田修三氏が就任した。

記者説明会の冒頭に登壇した三井不動産の菰田正信社長は「今回の取り組みは、当社が20年以上推進しております”日本橋再生計画”の重点テーマである、街づくりを通して将来有望な産業の発展を支援する『産業創造』に基づくものです。宇宙はこれから大きな成長が期待されている分野。地球上の課題解決につながる技術が生まれることも大いに期待されています。当社も強力に支援していきます」と力をこめる。

  • 三井不動産 代表取締役社長の菰田正信氏

アメリカではスペースX社などの民間企業がイノベーションのメインプレイヤーとして大きな存在感を発揮しつつある。そこで「日本国内でも、日本橋にオフィスを構える宇宙スタートアップ企業をはじめとする民間企業の皆さまが、今後の宇宙産業の発展に重要な役割を果たすものと考えています」とし、これからの成長に期待感を示す。

同社では宇宙産業共創の拠点を提供する。すでに日本橋三井タワー7階には「X-NIHONBASHI(クロス・ニホンバシ)TOWER by 三井不動産」を2020年12月に開設しているが、その向かいの日本橋アイティビル3・4階にも「X-NIHONBASHI BASE by 三井不動産」を2023年4月よりオープンする。建物内にはカンファレンスルーム、コワーキングスペース、イベントスペース、オンライン配信設備を備えたスタジオなどを完備。ちなみにJAXA、宇宙スタートアップ企業もここにオフィスを構えている。

  • こちらはX-NIHONBASHI TOWER by 三井不動産

  • ispace社のオフィス前にはHAKUTOが展示されていた

  • スタジオの設備も充実

  • 大小さまざまな会議室

  • こちらはX-NIHONBASHI BASE by 三井不動産

  • リラックスできるバーラウンジも

続いて三井不動産 取締役 専務執行役員(クロスユー 専務理事)の植田俊氏が登壇。三井不動産が掲げる、宇宙関連産業の活性化を通じて日本橋を盛り上げていく計画について同氏は「江戸時代、五街道の起点は日本橋でした。その日本橋から6つめの街道を宇宙につなげよう、という話です。日本橋を世界の宇宙ビジネスの中心地にしていきます」と説明する。

  • 三井不動産 取締役 専務執行役員、クロスユー 専務理事の植田俊氏

「宇宙には無限の夢があります。その魅力を日本橋から発信したい。古き良きものがある日本橋と、新しいものが生まれる日本橋を融合させていこうという考えです」と植田氏。昨年(2022年)12月にSpaceX社のFalcon9ロケットで打ち上げられたispace社の月面着陸船を引き合いに出すと「あのLanderの管制室もこのビルに入っています。そうしたスタートアップの若い力、熱心な若者たちが日本橋に集結している。三井不動産では、そんな側面にも期待しています」と話す。

  • こちらはLanderの模型(1/5スケール)

このあと、東京大学大学院工学系研究科教授(クロスユー 理事長)の中須賀真一氏が登壇。かつて宇宙開発は米国とソ連の国家間による「競争」で発展したが、これからの宇宙開発には「共創」が必要だと強調する。

  • 東京大学大学院工学系研究科教授、クロスユー 理事長の中須賀真一氏

「宇宙産業の発展には4つのフェーズがあります。それは、1.個人研究、2.官による開発、3.官の投資による民間の開発、4.民間が自己資金で開発して官がサービスを購入、という段階に分けられます。日本は、まだ3段階め。しかし米国ではSpaceX社、Blue Origin社の台頭により第4フェーズに入りつつあります」と中須賀氏。

現在、世界の宇宙産業は規模にして40兆円ほどと言われており、これから年率5%で成長し続けると2050年には200兆円の市場規模になる、その約半分は宇宙開発を本業としない周辺の産業であり、そうした非宇宙企業が宇宙を利活用することで日本の宇宙開発も次のフェーズに進むことができる、と説明した。

最後に、宇宙航空研究開発機構 理事長の山川宏氏が登壇。まずは「JAXAでは2018年より日本橋に新事業促進部の拠点を設けています。三井不動産による共創活動を通じて、いまや30を超える宇宙関連プレイヤーがここ日本橋に拠点を構えるなど、多くの宇宙関係者が常に集うエリアに成長しました」と感謝の言葉を並べる。

  • 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長の山川宏氏

そのうえで「クロスユーでは施設の充実のみならず、イベントの実施、事業化支援なども行うと聞いております。JAXAではクロスユーと協力して、国内外の企業とのビジネスマッチング、展示機会、宇宙ベンチャーにおける事業支援機会などを進めていく方針です。今後、クロスユーが宇宙産業のエコシステム形成において様々な効果を発揮するとともに、ロボット、データサイエンス、モビリティ、グリーンテックなどの関連領域との連携、そしてオープンイノベーション活動をますます加速されることを期待しています」とまとめた。