最近注目のクラフトジン。ご当地のボタニカル(草根木皮)などを蒸留し、その地域の風景が思い浮かぶような芳しい香りが魅力です。
いまや日本国内には10以上もの蒸溜所があり、個性豊かなクラフトジンがつくられています。今回は、北海道初の「紅櫻蒸溜所」をレポート!
※記事内の画像は筆者撮影、紅櫻蒸溜所による提供など混在
自由な世界、自由な発想、自由な価値観「9148」
札幌市南区にある紅櫻公園。住宅街に隣接している敷地には広大な日本庭園が広がり、春はさくら、秋はもみじの名所としても知られています。2018年には、北海道の魅力を世界に発信したいというコンセプトのもと「紅櫻蒸溜所」が誕生しました。
クラフトジンには、ご当地のボタニカルを用いることも多ようですが、「紅櫻蒸溜所」では北海道の名産品である昆布や干し椎茸、季節によっては牛乳、牡蠣やイカスミなど珍しい素材が使用されており、香りだけではなく旨みも感じるのが特長です。
クラフトジンに名付けられた「9148」というのもユニーク。これはジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『1984』(早川書房、角川文庫)に由来しています。自由のない管理社会で不味いジンが描かれていますが、その逆である、自由な社会であるユートピアをめざして「9148」と名付けられたそうです。
蒸溜技師による蒸溜所の見学会
「紅櫻蒸溜所」の扉を開けると、目に飛び込んでくるのは伊バリソン社(Barison)製の400L蒸留器。「札幌市南区の伏流水を割水に使用して、1回500~550本を製造できます」と、教えてくれたのは蒸留技師の風間大輔さん。
風間さんは、バーを営み、極上のカクテルでもてなすことを探究していました。
その情熱から世界中のスピリッツを嗜み、スパイスなどを潰して酒と合わせたり、蒸溜などを試みたりしていましたが、いつしか自分でお酒をつくり出したいという思いが強くなり、2020年から「紅櫻蒸溜所」の蒸留技師になったそうです。
「原料アルコールに1~2週間、数十キロものボタニカルなどの材料を漬け込み、蒸留の過程でもさらに香りを加えるというハイブリッド型の蒸留を行っています。1回の製造サイクルは、季節(温度)にもよりますが、夏は20日程度、冬は2週間ほど。季節の限定品や蒸溜所の会員向けの特別商品を日々製造しています」と風間さん。
「多くの蒸溜所では、イメージを再現しやすいこともあって、材料それぞれで蒸溜してからブレンドしているようです。でも、うちの場合は、あえて材料を混ぜてしまうなど実験的な作り方をしています」と。
それゆえ、唯一無二の芳しい香りと複雑な旨みを楽しめるのかもしれません。
蒸溜所の2階には、材料となっているジュニパーベリーや各種スパイス、昆布などを展示しており、吹き抜けからは蒸溜所を見渡すことも可能。
HPの問い合わせから予約できる「蒸留技師による見学会」が随時行われています。
試飲できるアウトドアスペース「紅櫻珈琲」
蒸溜所の向かえにある本館には、カフェ「紅櫻珈琲」があります。コーヒーは豆を挽いて淹れるセルフドリップスタイルで、クラフトジン「9148」の試飲、購入も可能です。
ロケーションが素晴らしい紅櫻公園は、テレビ番組や映画などでも使われる機会があり、著名人のサインなども展示されていました。
これは秘伝! 「9148」の楽しみ方
蒸留技師の風間さんに、クラフトジン「9148」の飲み方について教えてもらいました。
「食事とともに飲むなら、シンプルに水割または、お湯割にするのがおすすめです。ジンの材料となっているボタニカルは、いわばハーブですから、ブーケガルニのように調味料として使うこともでき、肉料理にも魚料理にも合いますよ。しゃぶしゃぶの割下、フランベに使うことも」と。
また、アルコール度数が高いので、食材の臭みをとるのに使用することも。北海道には、身欠きニシン、キャベツや大根などを漬ける「ニシン漬け」という漬物があって、「身欠きニシンの臭み取りにも最適です」と。
飲むだけではない活用法がわかると、クラフトジンの楽しみ方も広がりますね。
進化し続けるクラフトジン「9148」
季節や企画に応じてジンを製造している「紅櫻蒸溜所」。これまで、とあるまちとコラボして牡蠣のジンをつくったり、羊肉を蒸留してジンギスカンをイメージしたジンもつくったりしたという。高温加熱式のたばこともコラボするなど、かなり斬新です。
「この蒸溜所は小規模ゆえに、いろいろ自由にチャレンジできるのがいいところ。食材ではないけど、北海道らしさということでは材料に雪や昆虫なんかも使ったらおもしろいかなと思っています」と。なんと、予想をはるかに超えた発想に驚かされます。
新ブランドの立ち上げも予定されているとか。定番の「9148」のほか、限定生産のものは「紅櫻珈琲」や公式オンラインショップで購入できます。
製造時期や限定生産されたものは、見た目、香り、旨味それぞれ異なるので、飲み比べてみるのもおもしろそうですね。
●information
「紅櫻蒸溜所」
北海道札幌市南区澄川389-6
見学:随時(冬期間は休み。公式サイトより要予約。)
「紅櫻珈琲」
営業時間:11~15時
定休:月曜(月曜祝日の場合は営業)