パナソニック エレクトリックワークス社は2023年2月10日、水素を用いる燃料電池の高効率化・高耐久性化を実現する上で重要な鍵になる可能性を持つ、超音波式水素流量濃度計「GB-L1CMH1A」を発表しました。

  • パナソニック エレクトリックワークス社が2023年2月10日に受注を開始した超音波式水素流量濃度計「GB-L1CMH1A」。当初は研究用途向けとし、価格は500万円前後を目指すとのことです

GB-L1CMH1Aの特徴や用途についてパナソニック エレクトリックワークス社 スマートエネルギーシステム事業部 三好麻子氏は次のように語りました。

「特徴は高湿度下での水素流量・濃度の同時計測が可能なこと、流量・濃度に加えて温度・圧力・湿度の常時モニタリング機能を搭載すること、広範囲の水素流量濃度計測系計測が可能なことの3つです。用途は、燃料電池の評価や、高湿状態にある水素計測などを想定しています」(三好氏)

  • GB-L1CMH1Aの特徴と用途

  • パナソニック エレクトリックワークス社 スマートエネルギーシステム事業部 三好麻子氏

2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いて実質ゼロにすること)実現に向けて、世界各国の取り組みが加速しています。

太陽光発電や再エネ、循環経済への移行、脱炭素型まちづくりなどさまざまなアプローチがある中で注目されているエネルギー源のひとつが、使用時に二酸化炭素を排出しない「水素」です。水素発電の形態としては、都市ガスなどから水素を取り出して燃料として発電する「燃料電池」や、直接水素の供給を受けて発電する「純水素型燃料電池」などがあります。

  • 水素を取り巻く環境

「燃料電池メーカーは純水素型燃料電池などのアプリケーションに加え、トラックや船舶といった大型商用モビリティへの適用拡大を進めるとともに、発電効率や耐久性の向上、コスト低減の取り組みを加速させています。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の『燃料電池水素技術開発ロードマップ』でも、高性能や高耐久といった単語が出てきています」(三好氏)

メーカー各社は高効率・高耐久の燃料電池の開発を進めているのですが、「燃料電池の動作中に循環する水素の状態把握ができていないという困りごとがあります」と三好氏は語ります。

燃料電池は「水素(H)」と空気中の「酸素(O2)」を「燃料電池スタック」の中で化学反応させて発電するのですが、発電すると「H2O」、つまり水も生成されます。

  • 燃料電池開発における困りごと

燃料電池スタックの中で水素をすべて反応させられればいいのですが、実際には未反応の水素が残ってしまうため、水素を循環させて再利用しています。

循環部の水素は発電によって高温になっているだけでなく、生成された水(水蒸気)によって高湿度な状態になっています。さらに、外部から空気を取り込む「空気極」という部分からは、空気中の窒素も燃料極側に移動してくるため、循環部を流れるガスには水素と水蒸気、窒素が混じるそうです。

「燃料電池は水素濃度が低下すると発電効率が下がったり、機器が劣化したりするため、定期的に余分なガスを排気しているのですが、従来は高温高湿環境で水素濃度を計測する機器がありませんでした。そこでガスを抜き取って調べたり、水素の供給量や発電量から内部を推定したりすることで、水素の供給タイミングや排気のタイミングを制御していました。循環部の水素の状態を見える化できれば、最適な制御につながるなど、燃料電池の開発に役立つと考えています」(三好氏)

パナソニック エレクトリックワークス社は、この超音波式水素流量濃度計の技術開発に関するプレスリリースを2020年に公開したところ、水素計測関連の企業から多くの引き合いがありました。

「グローバルで60社以上と会話して試作品の提供を通じ、高湿度下の水素流量濃度計測の強いニーズを確認しました。商品化に向けて開発現場から燃料電池の評価に求められた『大流量化』『高精度化』『温度範囲拡大』といった点を強化し、受注を開始します」(三好氏)

  • 技術開発をプレスリリースしたところ、60社以上からの引き合いがあったとのことです

  • 市場ニーズを踏まえて3つの点を強化し、発売にこぎ着けました

高湿度下での水素流量・濃度の同時計測、温度・圧力・湿度のモニタリングが可能

GB-L1CMH1Aの特徴をもう少し深く見てみましょう。1つ目の特徴として、「高湿度下での水素流量・濃度の同時計測が可能なこと」が挙げられます。

  • 高湿度下での水素流量・濃度の同時計測が可能

高湿度下における水素流量・濃度の計測結果では、相対湿度が0%から80%超えまで、流量・濃度ともに大きな誤差のブレもなく計測できていることが分かります。

「これにより、高温高湿状態の循環水素の見える化を実現し、燃料電池を実動作状態のまま評価できます」(三好氏)

2つ目の特徴は、流量・濃度に加えて、温度・圧力・湿度の常時モニタリング機能を搭載している点です。

  • 流量・濃度に加えて、温度・圧力・湿度の常時モニタリング機能を搭載

「従来は流量計に加えて濃度計や温度計などを用意する必要がありましたが、GB-L1CMH1Aは圧力・温度・湿度センサーを内蔵しているため、燃料電池開発に関連するさまざまなデータを常時モニタリング可能です」(三好氏)

3つ目の特徴として、広範囲の水素流量濃度計測が可能な点が挙げられます。

「流量計測については、例えば他社製の機器で2,000Lまでの水素を計測する場合、500Lまでは機器A、1,000Lまで測る場合は機器B、それ以上は機器Cといったように、領域に合わせた複数の計測機器を用意する必要がありました。GB-L1CMH1Aは1台で低流量域から高流量域まで高精度に計測できます。濃度計測についても、A社は低濃度のみ、B社は高濃度のみ、C社は温度に制限があるなど、限定的な濃度範囲や制約条件下での計測でした。GB-L1CMH1Aは-30℃から85℃まで、湿度は0~100%までの計測が可能です」(三好氏)

燃料電池開発における「超音波式水素流量濃度計」の効果とは?

燃料電池開発における「超音波式水素流量濃度計」の効果はどういったものなのでしょうか。

「従来は、高温高湿状態にある循環部を計測できないため、発電量からの推定するか、ガスを抜き取っての計測を行ってました。GB-L1CMH1Aを使うことによって、高湿度下の水素流量・濃度を同時に計測できます。実動作状態の見える化により、燃料電池システムの開発に貢献できます」(三好氏)

  • 燃料電池開発における超音波式水素流量濃度計の効果

燃料電池の開発コスト低減やスピードアップ、小型化などに寄与するのでしょうか。

「開発期間という意味では、その都度ガスを抜き取るとか、発電量から推定するといったことは、誤差を生む要素が入ります。ダイレクトに計測できることで開発期間を短縮できるとか、ガスを抜き取るコストを抑えられるといった効果が考えられます。研究者としては、水素の投入タイミングや投入量を最適化できることがメリットです。使う水素の量を最適化し、高価な水素の使用量を削減できるため、システムとして価格を下げることにもつながるでしょう」(三好氏)

GB-L1CMH1Aはあくまで研究開発用の計測機器であり、サイズ面でもコスト面でも燃料電池車に内蔵されるようなものではないそうです。ただし、これまではブラックボックス化していた燃料電池の内部をGB-L1CMH1Aによって可視化できるため、燃料電池スタック内でどのような化学反応が生じているのか、リアルタイムかつ正確に把握できるようになるというわけです。

「GB-L1CMH1Aの活用シーンとしては、燃料電池の評価を行う研究開発部門でパソコンに接続して、GB-L1CMH1A単独での利用や、評価システムに組み込んでの利用を想定しています。燃料電池以外の活用例としては、水素ボイラーやタービンなど、水素燃焼における水素計測や水電解装置での水素計測を想定しています」(三好氏)

  • 超音波式水素流量濃度計の活用シーン

燃料電池システムの市場規模は、2030年に5兆円、2035年に12兆円になる見込みとのことです。

  • 燃料電池システムの市場規模予測

「燃料電池の普及に伴い、開発・評価市場も拡大すると考えています。今後の目標としては、水素流量濃度計のグローバル対応などによって、2030年に20億円を目指すとともに、多用途展開によるさらなる規模拡大を見込んでいます」(三好氏)

  • 今後の事業目標

燃料電池の心臓部である燃料電池スタックがどのような状態なのか、これまで把握できていなかったというのは意外に思えます。GB-L1CMH1Aによって、燃料電池など水素エネルギーを用いた機器の開発にはずみが付きそうです。いまのところは研究開発向けの裏方的な機器ではありますが、いずれ私たちの暮らしに水素エネルギーを身近にする立役者となっているかもしれません。